第40話 現代人は言葉よりお金が欲しい

81階で適度に狩っているとアルがエリートアルラウネへと進化したため、とりあえず最低限中列の要を任せられるようになった。あと蔓や蔦を使って、腕力を駆使し普通の速度で移動できるようにはなった。見た目は凄いパワフルな少女である。


まあ一応の移動が出来るだけで、まだ長距離の移動時とか大変そうだからハルに抱えて貰ってるけど。あと今までは上半身だけだったのに、今は少し下半身部分が生えている感じ。これそのうち台座部分の花から出て来て普通に歩き出しそうだな。


そしてダンジョンから帰還し、冒険者ギルドに戻ると例の王女がスタンバイしていた。わりと悲壮感溢れる顔をしているので冒険者ギルドのマスターか、その他冒険者達からの説得は通じた模様。


「まずは謝罪をさせていただきますわ」

「言葉は要らないからお金か深層装備でお願いします」


とりあえず謝罪の言葉は受け取らない方向で、物だけ寄越せと伝えると不機嫌そうな表情になるセリテーヌ王女だけどきちんと深層装備を渡してくれる。ルーに鑑定させると攻撃と防御に+が4つ、闇属性魔法に+が5つあるそうなのでかなり性能の良いティアラなのだろう。禍々しいけど。


このティアラは、ムーに渡すのが良いかな。闇属性魔法使えるのムーしかいないし。そして軍に誘われたけど入るわけないだろと拒否。国際情勢に関わったら、絶対ダンジョン攻略に注力する日々を過ごせなくなるじゃん。今のこのダンジョンの攻略に明け暮れる日々が、今の自分にとっては一番失いたくないものだ。


あと単純にこいつらともう関わりたくねえ。次に何かしらのアクションがこちらに飛んできたら自分が切れなくてもスーかルーかキュー辺りが切れる。下手すればこの街が滅ぶから余計なことはして欲しくない。


「……リトネコ王国のとある貴族とかけあって、湖の傍の土地を幾つか見繕って来た。スライムを増殖させて、質の良いスライムを育てる計画を実行したいと聞いてな、場所の問題があるだろうから広い土地をお前のものにする流れでセリテーヌ王女の賠償問題は解決ということにしてくれ」

「……どこも普通に街一個分の広さの土地与えられてませんこれ?特に貴族になったとかじゃないですよね?」

「そういうわけではないから安心してくれ」


そしてどうやら広大な土地を貰えるようで、懐柔の意思も見え隠れするけどこれならスーの怒りも収まるレベル。元々深層装備で質の良いものを貰えた時点で今回の落としどころとしては妥当。下手すりゃ数億円レベルの装備だしこれ。


あと、そもそも王女ってどう足掻いても裁けない存在だ。日本の勲章持ち上級国民や警察関係者の息子を裁くより難しいだろう。それが頭を下げただけでもわりと事件ではある。よく敵対の道を選ばずにプライドを捨てられたなこの王女。


とりあえずこの街から一番近い、北にある湖の土地を丸々貰おう。広さとしてはかなりのもので、アリエルの街1個分は確実にある。まあ元々誰の土地でもなかったか、どこかの貴族の土地だったんだろうけど、手付かずだったから開拓は何もされてない。


ちなみにこの土地について、自分は開拓をするつもりは全くない。とりあえずここにダンジョンで増えたスライム送り込んで、周囲の森の魔物を狩り続けて貰う形になるかな。


「家を建てるなら良い職人を紹介するが」

「掘っ立て小屋があれば十分だし家に大金は払わないですよ?」

「……まさかあれだけ稼いだ金、全部装備に流れているのか?」

「当然」


また腕利きの大工職人グループを教えて貰い、紹介状まで渡されたのでかなりご機嫌取りに来ていることは分かる。まあ街で随一の冒険者だろうし、今回の件はかなりあの王女がやらかしているから機嫌取りに必死か。


「ところで今日は素材売却しないのか?」

「あ、そうだった。

これ80階のフェンリルの毛皮と肉です」

「……そうか。この国のどのダンジョンでも80階を突破した者はいないんだが、今日それが更新されたか」

「……最下層80階オーバーのダンジョンがないって単純に80階まで辿り着けてなかっただけなんですか?」


今日の素材を売却したところで、どうやらこの街随一ではなくこの国随一の冒険者になっていることを把握。まあ王都ダンジョンは踏破者が少なからずいるし、そこで手に入る深層装備を活用出来れば他所のダンジョンで50階、60階に辿り着く人はいるか。このダンジョンも、昔は60階まで行けてた人がいるみたいだし。


高すぎる素材は買い取り拒否もあり得たのだが、結局フェンリルの毛皮だけで1億円程のお金になった。これは81階で狩り尽くしたヴォルフの肉3500㎏と毛皮350頭分は売らない方が良いだろうな。


ルーだけで敵を殲滅するわけにもいかないから、質の良いところだけを暇になったルーが切り取って容量の大きいバッグに詰めていたんだけど、それでも1頭で大体10㎏ぐらいの肉は取れるからなあ。……時間がないから滅茶苦茶雑な解体だし、たぶん10㎏取るために30㎏ぐらいは可食部を捨てているからかなり勿体無いことはしている。


容量の大きいバッグは中に入れたものの時間経過が遅くなるけど、たぶん腐らせることになるから適当に街の施設に寄付しとこ。


「あ、こっちの肉は売却じゃなくて寄付でお願いします。とりあえず1000㎏ありますがどうします?」

「……何の肉だこれ」

「81階で出て来るヴォルフって魔物の肉です」

「…………孤児院や教会にも配ってこよう。あとは冒険者共に食わせるか」


自分が傍若無人である自覚はあるから、好感度調整は行う。……たぶん今回の件、こういう慈善行為が皆無だったらもうちょっと条件は悪くなってたり、下手したら国と敵対していただろうから適度に餌をばら撒くのは大事。まあ捨てる物で関係を構築できるなら誰だって実行するだろうし、自分が冒険者を続けるメリットを提示しておいた方が良いと思った。

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