第28話 現代人は咄嗟の判断が苦手
ムーとキューが少し交信した後、66階のマッピングを行い、67階で巨大なリスを狩り尽くしてからダンジョンを出ると街に火が回っていた。いや展開が早すぎる。そしてムーが結界みたいなものを張っていて自宅は無事である。有能。
……ストーリーの展開的に、侵攻している軍にいるあの目隠れ王子や王女自体は無事だし、よく考えたらこの街が陥落するぐらい大したことじゃないな。リトネコ王国的に痛手ではあるだろうけど、すぐ取り返せるとか思ってそう。
あの宰相はもうこの街から逃げ出して侵攻した軍に合流しに行ったみたいだし、あれは反体制派か。リャン帝国からの軍は、このまま北上続けそうだけど狙いは王都だろう。そこが陥落したらリトネコ王国自体は終わるけど、リトネコ王国軍は生き残っているという状態。
……うーん、それであの王子の国がリトネコ王国軍の力を借りて復興していくとかご都合主義感が半端ない。とりあえず自宅で燃え行く街を眺めながら夕食の時間。今日はグレータードラゴンのステーキで良いや。
「おい、お前達何をしている。この結界は何だ?」
「ご飯食べてます。結界は物理攻撃の他に、火や有害なガスを弾いてくれる便利な結界ですね」
「……私はリャン帝国第三皇女ヘンリエッテ・リャン・ヘンケルスだ。貴様がアリエルのダンジョン狂いか」
「俺のこと他国にも伝わっているのか……」
魔物達と外に出したテーブルを囲んでステーキやらゼリーやらを食べていると、何かめっちゃかっこいい鎧を纏った女の子が話しかけて来る。南の帝国の皇女で軍を率いてそうな立場の人間って間違いなく重要人物だな。髪の毛が紫色とか一発でヒロインの1人と分かる。
というか結界越しに会話は出来るのかこれ。にしてもピンク色の結界って何かやだな。サキュバスだから仕方ないんだろうけど、これ結界内に発情効果とかないよね?
「この街は我々が占領した。さっさと投降しろ。家の中にある食糧や金属の類は貰っていく」
「えー……」
「おい、何か言ったらどうだ」
「SS(スーだけへの指令だ)RAAA(最大火力で右側を攻撃しろ)」
投降しろとか言われた上、何か皇女の後ろにいる騎士っぽい人達が近づいて来て結界に対し攻撃を開始したので非常に武闘派であることを確認。このままだと流石に突破されそうだし、面倒なのでスーに攻撃をお願いする。……そして軽い気持ちで、全力攻撃の指示を出してしまった。
その直後、光の奔流が皇女っぽい人から右を呑み込み綺麗さっぱり消し去った。光線の先にあった敵軍数百人ぐらいと廃屋と城壁まで綺麗さっぱりお亡くなり。うわあ思っていたよりヤバイ事になった。ちょっとした爆弾を起動したつもりが核爆弾だったぞおい。そもそもFA(威嚇)で良かったのに何でAAA(最大火力攻撃)の指示を出したんだ。
流石に自分の指示で恐らく数百人から下手したら千人規模の人が死んだと考えるとちょっとばかり罪悪感は沸き上がる。いやダンジョンだとこの数千倍の数の魔物を屠っているし、殺したのは何も知らない他人だけだと考えると本当にちょっとだけど。そして皇女が硬直した。よく見れば見るほど整った顔だしあの王子様に屈辱される役なのかそれとも惚れる側なのか……。
……R-18G系ってこともあり得るから世界観考察は楽しいな。
「……今日はもう眠いからまた今度来てくれる?」
「は、はい……」
ムーが無言で結界を張り直したのはナイス判断だな。呆然としているので声をかけると恐怖で顔を歪めるヘンリエッタさん。いやヘンリエッテさんだっけ?一度しか名前聞いてないから流石に覚えられんわ。そのまま自宅周囲から軍を引き上げさせ、ぺこりと礼をしてから去っていった。思っていたよりも圧倒的な力の差があるみたいだし、向こうは敵討ちの思考にすらならなかったところを見ると魔物達強くなったなあ。
アリエルの街自体は、大きな抵抗なくリャン帝国に占領され、一部リトネコ王国側の人間は脱出したり掴まったりしていたが、冒険者ギルドの面々には大した影響なく3日後には平常運転で再開していた。
「……まあ街の為政者達はともかく俺みたいな冒険者ギルドのマスターは素材の納品先を別の国に変えるだけだし組織の優秀なトップは替えが効かないから殺されないんだわ」
「ふーん。なら結構この街って占領されたり取り返されたりを繰り返しているのか」
「まあ昔は四つの国、今でも三つの国の国境が交わるような場所だからな。支配層が変わっただけで下々の生活は変わらないさ」
まあダンジョンが主産業の街である以上、冒険者ギルドが混乱していると経済活動が出来ないし、飢えて死ぬ人も出てくるだろう。なお素材の買い取りについて、一部リャン帝国軍に上納金を払わないといけなくなったそうだけど自分に対しては免除された。何故?
「いやリャン帝国軍を文字通り半壊させたお前から上納金なんて受け取れないだろう……?というか払うつもりだったのか……?」
「まあ自分にこれ以上悪影響ないでしょうしみんなと同じ額程度の税ぐらいは払いますよ。追い払う手段に攻撃を使ったのは金属の類を持って行くと言ったからですし」
「……お前の家に深層装備は幾つある?」
「弱い効果でもプラスのものは多いので結構買い漁ってますね。数は3桁は超えてると思います」
「それだけで数十億円はあるしそれの没収は拒否するよなあ……」
リャン帝国軍は、結構穏やかな統治をしているみたいで上納金の割合も1割だったからそこは払っておこう。ここで払っておけばリャン帝国軍も自分の扱いについて理解するだろうし。
にしても軍が文字通り半壊したということは、5000人は2500人になったということで……大量殺人をしているわけなのに裁かれないのは力こそ正義って感じだ。冒険者ギルドのマスターもわかるわかるとご機嫌取りに必死なようだし胃に穴が空きまくってレンコンみたいになってそう。
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