第7話 現代人は環境の変化を嫌う
「えー、Dランク昇格おめでとう。本当に何も依頼を受けずにただただ素材の売却額だけでDランクになったな」
「依頼を達成したら依頼達成者の名前が依頼者に伝わるの嫌なので。伝わらない制度を導入して貰えれば素材系の依頼は受けると思います」
「お礼とか貰いたくないのか……?」
「それで知名度上がったら嫌なので」
10層のボスを攻略した日、受付のおっさんがDランクに昇格させるとか言って来たので結構な時間渋ったけどどうやら10階突破でDランクには確定でなるみたいだ。なので10階突破でDランク昇格、にする前に素材の大量売却を行い、そちらの方でDランクとなった。まあ昇格すれば素材買い取り額は上がるし、国から指名されるような依頼や、戦争が起きた場合の徴兵はCランク以上なのでまだ大丈夫か。
この世界、わりと戦争でドンパチしている方の世界だからたぶん立身出世はしやすいと思うんだけど、個人的には人付き合いしたくないので極力死の可能性がある戦場には出たくない。ダンジョンも別に安全というわけじゃないけど、カイトシールドを持ったルーとローが全部攻撃を防いでくれているから今のところはかなり安全だ。
「……おい、今日の調査の方はどうだった?」
「はい、今日はDランク冒険者になるという1つの節目を迎えたのにも関わらず、相変わらず夢見亭の格安定食を食べ、ボックスで寝泊まりしているようです」
「あいつもうDランク冒険者なのにまだ狭いボックスで寝泊まりしてるのか!?あれ棺桶だろ!?魔物達は……まあ何とかなるのか?」
「格安定食なのも変わらないですねえ。私あそこのパン硬くて食べられませんよ」
夜の冒険者ギルドで、異世界人であるトーヤの尾行を終えた冒険者ギルド直属の冒険者がギルドマスターに報告を行う。普通の冒険者であれば、1週間の内に1日や2日程度の休みを取る。纏まったお金が入れば、ある程度の長期休暇も珍しくない。
しかしトーヤは休みなくダンジョンに通い続けた。毎日決まって朝9時にダンジョンへ入り、17時になったらダンジョンから出て来て素材を売却して帰る。一種のゴーレムかともギルドマスターは思ったが、人間の食事を食べている辺り人間ではあると認知していた。
「人間の真似事をする魔族、という線もなさそうだな。ただの気狂いだったか」
「少し話した時は胸へ視線を感じたので一丁前に男ではありますね。エリートフェアリーに手を出している様子はありませんでした」
「……流石に魔物へ発情する奴はいないだろう」
トーヤが持って来る素材の量は、Dランク冒険者だとしてもかなりの量である。それこそ6人のDランク冒険者のパーティーが3日籠って稼いで来る素材を、1人が1日で狩って帰って来るため徐々に冒険者達の間で噂にもなっていた。
そしてこのギルドマスターは、毎日朝頃と夕方頃になると受付に座る。他にも3つ受付は存在しており、人が多い時だけ4つ目が生える。これはダンジョンに向かう冒険者達と、帰って来る冒険者達をギルドマスターが見守るため、ではなく単純に冒険者ギルドの人手と予算の不足が原因である。
トーヤはこの人気のない4つ目の受付愛用者であるが、単に他3つは女の人が受付に座っているため話しかけ辛かっただけである。しばらくすると4つ目の受付のタイパが良いとトーヤは気付いたため、換金作業まで並ばずに済む上、作業も早いギルドマスターの受付しか来なくなった。
「……本当に何のためにダンジョンに潜っているんだ?」
「ひたすら魔物を強くしたいと言ってはいましたが、それが目的で10層まで到達してしまえるものなのですね」
「まあ面倒事を持って来ないなら良い。どうせその内女に溺れて身を滅ぼすタイプだろあれ」
トーヤ本人が本当に人との関係を断ち切るタイプだったため、情報収集すらも進まないことに憤ったギルドマスターは、やがて警戒や考えることを止めた。素材の価格が下落方向に突き進んでいるのはあまり好ましいことではないが、人と関わろうとしない人間に、積極的に関わりに行こうとするものでもないと判断したためだ。
なお翌日、冒険者ギルドにラミアを引き連れて来たトーヤを見て本格的に思考を放棄しそうになった冒険者ギルドのマスターは、いつも通りダンジョンに潜るトーヤを見送った後に頭を抱えた。ラミアは単体ではDランクの魔物だが、非常に厄介な石化という状態異常を振りまく危険な魔物のため、Cランクの冒険者でも手こずる時は手こずるような魔物だ。
そんなラミアが、戦力の1人でしかないトーヤの総合的な戦闘力はもはやAランク級に迫っていた。魔物使いは、支配下にある魔物の戦力を合計して戦闘力を評価することになっている。既にトーヤは、この冒険者ギルドでトップクラスの戦闘力があると判断されるようになった。
そもそも王都から遠い田舎のダンジョン街。Aランク冒険者なんていないため、否が応でも戦力としてカウントされるようになるトーヤ。戦乱の世で力のあるものが放置されるはずもなく、次第に多くの人と関わっていくようになる。
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