第3話 ダンジョン実戦授業
クロウが学園ギルドとダンジョンの使い方を解説する話。説明回は不評だろうと思い、あとテンポを良くするためカットした。学園ギルドの描写とか現稿と全然違います。モンスターのはく製が飾ってあるし馬鹿っ広い。そして今の学園ギルドがギルドハウスという名前の学園ギルド内の一施設扱い。これが一番最初の学園ギルドのアイデアです。
学園迷宮ヴィズラビリンスは地下迷宮だ。
白い壁で覆われた地下階段を潜ってすぐの茶色い壁と地面が出迎える空間の向こうに伸びる扉。その奥が学園迷宮ヴィズラビリンスだ。
クロウが扉を開く。
見渡す限りの巨大広間が生徒たちを出迎えた。
それは巨大な空間だった。空間の奥にはダンジョンの入り口。その隣にはこれまた巨大なギルドハウス。扉が開かれてカウンターが見えている。雑多な書類やカードなどがカウンター背後の棚に納められている。ちょっとした店のような景観だ。事実、飲食を提供する機能も内包しており、飲食店としても利用できる。物語に出てくる冒険者ギルドのような外観の施設だ。流石に酒は提供してないが。
壁には巨大なモニターが取り付けられている。その前は開けた空間となっており広い地面が広がっている。ダンジョン内配信に使うモニターだ。
ギルドハウスに至るまでの超巨大空間には多くの巨大な展示棚があり、そこにモンスターの時を止めた死体がたくさん並んでいる。解体され中身が曝け出された死体もある。死体の前には白地のプレートに黒字でモンスターの解説文が書かれている。ダンジョンに出現するモンスターの見本市場だった。
「す、すご……」
「あ、ああ。圧倒されるな……それにしても……ゴクリ」
思えば入学初日にバエルを試し打ちした時以来のモンスターとの遭遇。死体とはいえ目映るインパクトは絶大だ。特にモンスターのいない世界から転生してきた玄咲にとっては。バナナモンキーがいる。キャンキャンドッグがいる。キングス・コングがいる。デッド・ケルベロスがいる。マーダー・ゾンビがいる。タイラント・ドラゴンがいる。オーク・エンペラーがいる。タワー・サイクロプスがいる。神龍がいる。玄咲は瞳から涙を零した。
(か、感動だ……! CMAの個性豊かなモンスターたちが大集合。いないモンスターもいるが、知らないモンスターもいる。こ、こいつらとこれから戦うのか。ワクワクする……!)
他の生徒も大なり小なり玄咲と似たような反応を示していた。
「なんだこれ!? 剥製か?」
「いや、学園長の魔法で時を止めてるんだゾ。学園長は相手の生物の時を止めて殺してしまう恐ろしい魔法の使い手なんだゾ」
「なんて恐ろしいの! こ、こんなの、出会ったら全員即ぶち殺すしかないじゃない! あ、キャンキャンドッグは別よね~」
「うひゃあああああああああああああああああああああああ! モンスターだぁあああああああああああああああああああああああ! たまんねぇえええええええええええええええええええええええええ!」
「ひっ! SS級モンスターのゴルゴーンだ! 目を合わせたら危ない……って死体だったな。まるで生きてるみてぇだからついビビっちまったぜ……」
「つか学園長って本当化け物だな。SSSランクモンスターまでいるぞ。生きた伝説(リビングレジェンド)の異名は伊達じゃねぇな……」
「……ふん。まぁ、凄いのは確かか……」
「すごいね、玄咲。まるでモンスター博物館だ」
「ああ。ドキドキワクワクする。ふ、ふふ、早く戦いたい……!」
「……うん! 一緒に戦おうね!」
「……ふん」
騒ぐ、あるいははしゃぐ生徒たちをクロウが諫める。
「……用があるのは受付だ。モンスターの展示物は個々にダンジョンに潜るときに参考にしてくれ。戦闘時の注意点や素材の回収の仕方を解説文に纏めてある。よく読んで対策してくれ。次、行くぞ」
クロウに続いて今度は学園ギルドへ。ギルドは広く、G組全員を収容可能なゆとりを持っていた。
「おはようございます! 学園ギルドへようこそ!」
G組の生徒が受付カウンターに向かうとはきはきした声と笑顔の受付嬢が開口一番言い放った。玄咲の脳内でほぼ全自動で記憶が蘇る。
(名前のないギルド嬢。だがプレイヤーが高頻度でお世話になる上、性格容姿共に華美でない等身大の美人さがCMA中では珍しく密かにプレイヤー人気の高いキャラ。この世界でもいるんだな。ちょっと嬉しい。しかし、なんて名前なんだろ……)
「よろしくお願いします。えっと……」
「山田涼子です。いい加減覚えてくださいねクロウ先生?」
(あ、意外と普通の名前なんだ。CMAだからもっと凝ってくるかと思った)
「それではこれより私山田涼子が当ギルドの使い方をレクチャーさせていただきます。まずは」
山田涼子がカウンターの下からいくつかの道具を取り出す。その内の一つ、アイパッドのようなリード・デバイスを生徒たちに掲げて見せる
「ダンジョンに潜入する際は予定時刻を伝えてから必ずこのダンジョン・リード・デバイスに生徒カードを挿入してください。位置情報の紐づけを行います。もし予定時刻内を大幅超過しても戻ってこなかった場合死亡したと判断し、専門の職員が位置情報を基に死体回収に向かいます。ダンジョン内で死亡しているケースは珍しくありませんから」
死亡。魔物と戦う以上当然起こりうる事態。だが、その当たり前の事実は幾ばくかの動揺を生徒たちに与えたようで、表情がひきつった生徒が何人かいた。だが、ラグナロク学園の校風に皆慣れつつあるようで、そのような生徒はごく僅かだった。シャルナも全く動揺していなかった。
「当ギルドにはワープゲートがございます。あちらです」
ギルド嬢の指さす先、学園ギルド内に10つの個室があった。その扉は開け放たている。個室の中央には青色の光を放つ魔法陣がある。
「ボス部屋を攻略し新フロアから帰還する度に、対応する魔法陣の転移機能がアンロックされます。魔法陣の上に立ってダンジョン・ワープと詠唱すると対応する魔法陣の上に転移します。これは元々ダンジョンに備わっていた機能をそのまま活用しているだけなので原理は不明です。悪しからず」
(ワープゲート……やっぱりあったか。ゲームではご都合主義だと流していたが、現実化すると疑問を抱かずにいられないな)
「また当ギルドにはカフェテラスや配信施設など数多くの施設がございます。使い方は――」
それからもしばらくギルド嬢の学園ギルドの使い方の説明は続いた。
「最後にダンジョン・カードの使い方ですが、これは担当教官――クロウ先生が実地で教えることとなります。なので私の解説はこれまでとなります。もし分からないことなどあればいつでも何でもお聞きください。何でもお答えいたします」
ギルド嬢の山田涼子はスマイルで話を締めた。
ダンジョン1階。
そこは茶色い壁に囲まれた洞窟だった。岩壁や、謎の松明や、蝙蝠の魔物が飛んでいたりする。シャルナが目をキラキラさせて玄咲に話しかける。
「本物のダンジョンだ。凄いね……!」
「あ、ああ。感激だ。洞窟だ。そして魔物がいる。感激だ……!」
周囲の生徒も大なり小なり興奮している様子だった。クロウが手に持ったカードを生徒たちに見せる。
「授業で教えた通りダンジョン・カードは通常の100倍の魔力に満ちたダンジョンの中でしか使えない特殊なカードだ。それだけに効果が強烈なものが多い。そのダンジョンカードの使い方を解説して今日の授業は終わる。まずはインベントリカードから」
「キシャ―!」
その時、蝙蝠型の魔物がクロウに襲い掛かった。鋭い牙を剥いて飛来する。クロウの手が閃く。
壁に激突した蝙蝠型の魔物が血塗れの肉塊となって死んだ。途中経過がない。そう錯覚するほどの早業だった。神速の手刀を放ったクロウが魔物の死体に視線すらやらず授業を継続する。
「この程度の階層の魔物ならレベルが上がれば魔法を使わずとも倒せる。魔力節約になる。ダンジョン探索は魔力リソース管理の戦いでもある。素手、あるいはADで倒す、低ランクの魔法を使う、交戦を避ける、等の手段を使ってボス戦まで魔力を温存するのが攻略の眼目となる。特にフュージョン・マジックは魔力消費が絶大なため絶対使用を避けたいところだ」
「あ、は、はい」
「普通に授業続けんだ……」
「センセ……やっぱ素敵……符闘会のビデオ100回は見ました……」
「ねぇ玄咲。クロウ先生って、強いんだね」
「近接戦のプロフェッショナルだよ。とにかく早い。そして身体能力もかなり高い。接近戦なら今でも最強論議に上がるくらいだ。教師の中では学園長を除けば最強だし、殆どの生徒よりも強いよ」
「へー……ただの、面倒くさがりな、ギャンブル狂じゃ、なかったんだ。符闘会、出れる?」
「相手によっては勝てるだろう。でも、今代の勇者を筆頭とする人間を辞めた化け物には敵わない。魂成期を過ぎてるからな。それに何より本人にもう気力がない。嫌なことがたくさんあったらしい」
「今代の勇者?」
「ああ。プレイアズ王国の同盟国のカーン聖国の魔符士だ。レベルは100。学園長を除いた現役魔符士の中では世界最強の一人と言われている魔符士だ。勇者を要するカーン聖国は今年の符闘会の優勝候補の一つだ。ゲーム……いや、後で話す」
「うん」
ゲームではプレイアズ王国が敗退した場合優勝する国。そこまで言いかけて、玄咲は口を噤んだ。クロウが授業を続ける。
「ダンジョンカードの使い方は普通のカードと変わらない。カード名を詠唱するだけだ。それでは早速使っていこう。そうだな……あの死体を使うか」
クロウが先ほど自分が殺した蝙蝠型の魔物の死体に近寄る。そしてカードを近づけて詠唱した。
「インベントリ」
ギュオン!
死体がカードに吸い込まれる。異常な光景だった。普通のカードとは明らかに発動する現象の異常性が違う。生徒たちが驚く。
「このインベントリカードの中には100平方メートルの亜空間が広がっている。物質にかざしてインベントリと詠唱すると亜空間に物質を収納する。詳しい理論は分からんが、外の世界の100倍の魔力で満ちたダンジョンの中でのみ実現可能な魔法らしい。モンスターの死体やダンジョン内の資源はこのインベントリカードに回収してくれ。中身を取り出すときは取り出す対象を念じながら」
クロウは地面にカードを向けた。
「リリース」
ベチャ。
魔物の死体が地面にぶちまけられた。
「と詠唱してくれ。オール・リリースと詠唱すれば強制的に全部ぶちまけられる。中身を忘れたらとりあえずオール・リリースだ。ダンジョン外では魔法が発動できない為、もし中身を取り出すときは学園ギルドの倉庫内でリリースすることになる。わざわざダンジョン内にギルドが設けられている理由だな。インベントリ・カードの説明はこれで終わりだ」
「凄い。超技術だ」
「うん。超技術だ」
ゲームでもご都合主義だと思っていたが現実化してもその印象は変わらなかった。
(まぁ便利だからいいか)
「最後に一番大事なエスケープカードの使い方。一定量以上魔力が残っている状態でエスケープと詠唱することで学園ギルドの転移魔法陣上に転移する。このように」
クロウがエスケープカードをポケットから取り出す。
「エスケープ」
ブン。
クロウの姿が消えた。そしてダンジョンの入り口から戻ってきた。
「瞬間移動する。モンスターからの逃走時、そしてダンジョンからの帰還時に利用する。ダンジョン探索時には必ずエスケープカード一回分の魔力を残しておくことが鉄則だ。当たり前だがモンスターに負けたら殺される。そしてモンスターに食われて死体も残らない、なんてことになったら学園長による蘇生さえできない。当たり前だが本当に死んじまう」
「う……」
「そうか。そりゃ、そうだよな……」
本当に死ぬ。その言葉は生徒たちに強く響いたようだった。たまに見せる真面目な顔でクロウは授業を締めくくった。
「ダンジョン探索の際には必ずエスケープカード分の魔力を常に残しておくこと。分かったな?」
「はーい! 分かりました! センセ―! 気を付けまーす!」
「……」
キャピキャピした媚びの気配がこびりついた声がその場の緊張感を完全に奪った。そのダンジョンカードの解説が今日最後の授業だった。その後は教室に戻り、HRを行って、いつものように放課後が訪れた。
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