第4話 スペースときめきロボット
昼食を広げる少し前。
「シャルナ。今日はグルグル工房に行こう。そろそろ完成しているはずだ」
そういう訳で魔工学科校舎へ。相変わらず眼鏡率の高いどことなく劣等感を刺激される人波の中を歩いていると、見覚えのある毛量の多い金髪ツインテールが目に入った。玄咲はそれとなく距離を開けて校舎内に向かうも見つかってしまう。
「あっ! あなた方は!」
「……やぁ。ミッセル・コンツェルタント」
シュババ! と金髪ツインテール――ミッセル・コンツェルタントが駆け寄ってくる。相変わらず元気がいいなと思いながら手を上げて挨拶をする玄咲。ミッセルはいきなりその玄咲の手をガシッと掴んだ。
「っ!? つ、艶やかだ……!!」
「玄咲?」
「当り前ですの。毎日スキンケアを欠かしてませんから。じゃなくて!」
ミッセルはずいっとちょっと血走った目で玄咲に顔を近づける。玄咲は顔を逸らしつつもドキドキした。
「ここに再びきたということは、この前の依頼は白紙になったのですよね!? まぁ、相手がグルグルだし当然の帰結ですが。ならば、今度こそ是非この私にィ! この前のことは水に流してあげますしこの際あなたの人格さえも問いませんからァ!」
「……なんか、前にもまして必死だな」
「なぜかいつも話が途中で拗れて契約までこぎつけませんの。なぜかいつも途中で怒って逃げていきますのぉっ! 知り合いに3日で見つけるって言いふらしたのに今日がもう4日目なのですの! 朝笑われましたの! やっぱりって! あの腹黒女――! じゃなくて! こんな屈辱、もう耐えられませんわあ……!」
「……そうか」
玄咲もやっぱり、と思った。
「じゃあ、俺はこれで……」
「あ、あなたも私を見捨てますの! こ、このミッセル・コンツェルタントを、置いていきますの!?」
「……3日前グルグルに頼んだADを取りに来たんだ。だから、もう頼めない」
「え?」
「ご、ごめん。それじゃ……」
仄かな罪悪感に襲われながら玄咲はその場をシャルナと立ち去る。ミッセルはその背に中途半端に手を伸ばした状態で茫然と呟く。
「え? 3日で、2人分? オーダーメイドで? え? え?」
信じたくない結論しか導き出せなかった。
「……グルグルって、天才?」
グルグル工房。
ネームプレートに張り紙をして無理やりそう改名した魔工学科校舎内の一室。その部屋のドアを玄咲はノックした。
コンコン。
「失礼します。グルグル博士はいますか?」
「あ、お兄さん! 入って入ってー! 丁度いいや。合わせたい子がいるんだよ!」
「!」
玄咲は勢いよくドアを開いた。
「失礼します!」
ガチャリ。
「グルグル博士、凄いです! コスモ、普通に喋れてます! まるで人間です! コスモ、グルグル博士にラブです!」
(あ、ああ! やっぱりコスモちゃんだ……! ちょっと不思議なスペースときめきロボットコスモちゃんだ! か、可愛いなぁ……!)
想像通りの人物。この世界でも有数の待ち望んだ邂逅に玄咲の胸がトゥンクする。
「……」
またか。そんなジト目のシャルナの横で玄咲が瞳を輝かせる。その美少女を見る時だけやたらときらきら輝く瞳にはばっちりとコスモの姿が写っている。以前玄咲とシャルナがかき分けて作った道を通って近づきながら、コスモの姿を眺めながらCMAの知識を思い出す。
(コスモ・ミストレイン。90年代に流行ったロボット系&電波系&鬱シナリオ系ヒロイン。CMA一の変人で、でも人気投票3位の人気キャラ。えっちで可愛いからだ。俺も大好きなキャラだ。まぁ俺の場合は俗人と違ってえっちだからという理由からではなく純粋にそのキャラクターが気に入ってるという純粋でまともな理由からだが。グルグルの助手で、友人で、護衛で、パトロンで、機人。体の一部が機械で構成されている機人の中でも変わり者。機械化領域が80%超え。機人の中でも最上位クラス。両腕がAD。バスターモードの掛け声で変形する。ちょっと悲劇を背負ってるけど、そこがまた愛おしさを倍増させる。うむ、可愛い、可愛いな……)
水色の髪。水色の目。白い肌。どこか浮世離れした雰囲気を持つ淡い淡色の美少女。しかしパステルチックな淡色に反してそのキャラクターはどこまでも濃い。機人ならぬ奇人。それもCMA一のという枕詞が付く。茫洋、超然とした無表情がデフォルト。しかしてその容姿はやはりどこまでも美少女だ。
髪型は丸みを帯びたミドルヘアー。女の子らしい適度な長さでコスモの頭部を丸く覆っている。UFOを連想させるちょっと横広がりで下垂れのかなり毛量のある空色が丸い頭を覆っている。その水色の瞳には星が入っている。ばっちりと星型だ。コスモのキャラクターテーマは宇宙人。宇宙をイメージした黒髪黒目黒肌というデザイン案もあったが際物に仕上がりすぎたため現在の可愛らしいデザインになったという経緯がゲームにはあったことを玄咲はふと思い出した。
その体は豊満だ。女の子にしては大きめの体躯にむちむちとした女性らしさが詰まっている。胸が大きい。神楽坂アカネ程ではないが、とにかくむちむちしている。尻も同様にだ。コスモは全身がロボットなのに妙になまめかしい肉付きをしていた。それがコスモの性とは無縁の真性純粋天然な雰囲気と合わさってコスモにしか存在しない得も言われぬ魅力を放っていた。
「ぴきゅるぴ! ときめきパワー全開です!」
そんなちょっと大人びた体のコスモが無垢な瞳で無垢な台詞を吐く。万歳の形に両手を伸ばす。胸が強調される。イケない雰囲気。ドキドキする玄咲の視界の端っこで、コスモに褒められたグルグルがちょっと鼻を伸ばす。
「あはは、ま、まぁ僕は割と天才だからね! でも、本当のところはそんな大したことはしてないよ。人が気付いてないことに先に気づいただけだから」
「それが凄いです! コスモグルグル博士に一生ついていきます!」
「う、うん。照れるけど嬉しいよ」
短期間で随分と仲のいい様子。何があったのかは何故かゲームでも不自然なまでに描写されていないので分からないが、とにかくメンテナンスか何かしたらしい。
「お兄さん。紹介するね。こちら、コスモ・ミストレインちゃん。ちょっと変わった機人の女の子だよ」
「うむ、可愛いな」
心の声がそのまま出る。
「玄咲?」
「……冗談だ。俺は軟派な男じゃない。可愛いと思ったのは本当だが」
「それは冗談とは言わないよ?」
「コスモは可愛いですか。嬉しいです。ありがとうございます。そして以後よろしくお願いします。天之玄咲」
コスモがぺこりと頭を下げる。胸の谷間がちょっと見える。隙が大きすぎる。
(か、可愛くて、エ……いや、ヒロインでそういう想像はしないと決めているんだ俺は。可愛い。それだけでいい。でも、大きくて可愛いなぁ……)
「……」
何故かシャルナが妙に深く俯く。下を見る。
「それであなたがシャルナ・エルフィンですか。あなたにもよろしくお願いします、とコスモはコスモは挨拶します」
「あ、うん。よろしく……」
シャルナはコスモの体を、特にその白い肌をまじまじと見る。興味深そうな視線。
「機人、だっけ」
「はい。コスモは機人です。スーパーアンドロイドと呼んでもいいですよ」
「やっぱりその白い肌、固いの?」
「いえ。そんなことないですよ。このように」
コスモが何故か玄咲の手を取る。
「え?」
そしてその手を躊躇いなく自分の胸に導いた。その美しい以上にどこまでも柔らかそうな胸が玄咲の手に押し寄せられて、歪む。
むにゅん。
「「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!?」」
「平均以上の柔らかさを備えていると自負しています。コスモはパーフェクトアンドロイドですので。なので、このように固い男性の手に触れられても驚異的な柔らかさでむにゅり返します」
むにゅり。むにゅり。
(あっ、あっ)
「な、なに、してるのっ!?」
(あっ)
シャルナが慌てて玄咲の手をひったくり手を離させる。玄咲の手が虚空を揉む。コスモがたゆんと胸を張って解説する。ちょっとドヤ顔で、
「コスモのハイパーインテリジェンスで解説いたします。シャルナ・エルフィンは女性。天之玄咲は男性。つまりより手が固い。固いものの方が柔らかさが対比で際立つ。そういう思考です」
「おっぱい、触らせなくても、いいでしょ!」
「おっぱいがコスモの体の中でもっとも柔らかいのです。まぁ」
コスモが。
何の躊躇いもなく己のスカートの前部を掴み。
「本当に一番柔らかいのはこの中なのですが」
そしてやはり何の躊躇いもなくへそまで捲り上げた。
3者の視線がその行為に注がれる。
「「「――」」」
「そこまでする必要はないと判断しました。視覚的にも分かりやすいおっぱいで十分かと」
「女の子がそんなことしちゃダメーーーーーーッ!」
「思いまして――」
シャルナが慌ててコスモのスカートを抑える。上から下に、強く引っ張る。
強く引っ張り過ぎた。
ずりっ。
「おや?」
スカートが脱げる。
シャルナの指にひっかかったその下のものまで含めて。
もうコスモの下半身を隠すものは何もなかった。
玄咲が鼻血を噴き出しよろめく。シャルナが凍り付く。グルグルが慌ててコスモに駆け寄る。
「――なるほど」
コスモは理解した、という表情でコクンと頷いた。
「コスモはどうやら、シャルナ・エルフィンにセクハラされているようですね?」
頭を下げるシャルナの背後で大柄の体躯がゴシャァっと床に倒れる音が響いた。
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