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3日目 アルルのビデオ鑑賞 裏話超多め

 アルルと仲直りしない初期稿の迷走話。一時期載せてました。シン・ピーターのバースはまんま晋平太のバースです。没稿は最初の余談の後に載っています。


 当初はアルルとの仲直りはシャルナVSアルルの後、




「ねぇ、シャルナちゃん」


 立ち去ろうとするシャルナにアルルは最後に声をかけた。


「彼と、どうやったら仲直りできるかな……?」


「……」


 シャルナはにこりと笑って、端的に言った。


「ただ、そう言えばいいだけ」


 そして、玄咲の元へと走り去っていった。アルルは地に倒れたまま虚空を見つめてポツンと、


「……今度、お弁当とCDカード持って、彼に会いに行こうかな」




 みたいな展開になって、最終話で、



 シャルナとお弁当を食べていると背後から足音。振り返ると、


「や、やぁ、天之玄咲」


「ッ! アルル……!」


 玄咲はキョドった。嫌われている相手。思わず立ち上がり後ずさる。アルルは一瞬怯むも勇気を出して言った。


「こ、これ!」


「? え、えっと。ありがとう。これは……CDカード?」


「うん。仲直りの印」


「! ア、アルル。俺と仲直りしてくれるのか!」


「うん。それとこれ」


 アルルはお弁当を差し出し、笑顔で言った。


「一緒に食べよ」


「あ、ああ!」


 3人で並んでお弁当を食べる。その途中、アルルがシャルナに言った。


「シャルナちゃん。ありがとね」


「ううん。気にしないで。アルルちゃんのこと、大好きだもん」



 こんな展開になる予定でした。お弁当を一緒に食べるところだけ残ってますね。その予定がなぜ一日目で仲直りさせたかと言えば2章が肥大化しアルルとの仲直りが引っ張るネタとして弱くなりすぎたのと、アルルと仲違いしたままモヤモヤを抱えたまま長い話を読むのは読者に負担をかけるという判断と、1日目だけである程度話が完結する構造にしてメリハリをつけるためです。読者に1日目だけで1つの物語として読ませるためです。離脱率はそこそこ下がりましたし、仲直りの話はいい話になったので、仲直りさせて良かったなと思っています。


 本当、2章は長引きました……。ラノベで言えば文庫本2冊のボリュームになる予定だったのですが……。


 以下没稿です。







 真っ暗闇の自室でアルルはビデオを見ていた。傍らにはリモコン。ダサい赤白帽子は被っていない。テレビに映るはシン・ピーターのバトル映像。それを真剣な眼で見ながらアルルは思う。脳裏に浮かぶは3日前の出来事。


(……シャルナちゃんにラップバトルで負けた。その後、天之玄咲にカードバトルで勝利を収めた。到底勝ったとは思えない、敗北感に満ちた勝利を。僕はあんなの勝ちだと認めない――!)


 真剣な目で眺めるビデオの中でシン・ピーターが華麗なライミング。アルルの胸がトクン、と震える。


(そうだ、これが今の僕に足りないものだ。ライムのスキルがあればシャルナちゃんにもきっと勝ってた。天之玄咲にも、最初以降はヒプノシス・マジックの出力を上げて、もっと圧倒できてた。もっとライミングを鍛えるんだ……!)


 シン・ピーターが決勝の対戦相手にライミングで圧倒的な差をつけて100・0で圧勝する。アルルは再生を止めてビデオ・カードを次のものに入れ替えつつ思う。


(僕は、僕はママを、エルロード聖国の合従国戦略のせいで貿易赤字、そしてプレイアズ王国自身の赤字経営が続いて内心相当参ってる、最近僕の前でだけメンヘラみたいに振舞うようになってきた世界一大好きなママを救うためにももっともっと強くなるんだ……!)


 ビデオを見る瞳が映像を反射して光る。シン・ピーターが歴史に残る名バースを吐き出す。



 俺は 俺も

 ど自分が強いと

  それでズタ

 けど YA



(……そうだ。僕は強くなんてないかもしれない。井の中の蛙だったかもしれない。世界は広い。天之玄咲もだけど、昨日闘った七霊王家のA組の特待生も化け物だった。僕は全然強くなんてなかった。身の丈も分からない愚かものだった。敗北感と失言でメンタルもズタボロかもしれない。でも、言葉で戦うんだ。未来を切り開くためには、前を向いて戦うしかない――!)


 映像の中でシン・ピーターがバースを吐き終わる。そしてを喫する。どう考えてもシン・ピーターが勝っていたにもかかわらず。意図的な誤審だ。客席からもブーイングが起きる。だが、シン・ピーターはその暑苦しい顔に爽やかな笑顔を浮かべて、対戦相手と握手し、己の敗北を素直に認め、それ以上場が荒れないように明るくMCをして場を治める。そして再度対戦相手を讃えてから降壇した。後年のインタビューによれば、本当は凄く悔しかったらしいのに。アルルはその姿に、自分の目指すべき理想像を、レベルアップの光明を見る。


(シン・ピーターの前半生は敗北に塗れてた。それでもあきらめず何度も立ち上がって伝説のラッパーになったんだ。シン・ピーターは勝った試合よりも負けた試合の方が多い。それでも立ち上がり前に進み続けたから今のシン・ピーターがあるんだ。誰より負けを糧にする術を知っているラッパーなんだ。後年のこの試合だってどう考えても勝ってたのに、負けた。それでも敗北を認めて対戦相手の勝利を祝った。僕には出来ないこと。僕とは正反対な態度。そうだ。これこそがフリースタイラーだ。僕の目指すべき姿だ。僕は、まだまだ未熟だ。こうならなければならない。レベルを上げるために。強くなるために。彼とも、天之玄咲ともその内仲直りしないとな。先日もすれ違ってついふん、って顔逸らしちゃったけど、このままでいいはずがない。それは僕らしくない。そんな僕を僕は認めない。よし、やることが見えてきた。やるぞ。やるぞ。僕はやるぞ――!)


「よし!」 


 アルルはビデオを消し、床に手を突き体を両腕の力だけで跳ね上げて前宙返り。両手を挙げて着地。レベル32なのでこれくらいのアクロバティックは余裕。吠える。


「完全にメンタル復活! 音ノリだけじゃもう駄目だ! ラップはやっぱりライミングだ! 頑張るぞ! 早速特訓だー!」


 スピーカーのリモコンを取りに走り、そのスイッチを入れかけて、


「あ、ママへの報告忘れてた」

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