第12話 ギミック ―パワーチャージ―

 ギミック。


 グルグルに言わせればAD固有のAD強化魔法。ADの個性の最たるもの。その試し打ちに、否が応でも玄咲のテンションは上がる。


「いくぞ! シャル!」


「きて! 玄咲!」


 遠くで手を振るシャルナにシュヴァルツ・ブリンガーを構える。ゲームでのパワーチャージの効果を思い出す。


(1ターンのチャージのあとに、次に使う魔法の威力を3倍にするゲームではシンプルながら強力だった、大空ライト君のお気に入りでもある王道のギミック。ゲームだと特定条件下で無限ループを起こせたが、まぁ、ゲームならではのバグだからこの世界では無理か。さて、この世界のパワーチャージはどんなものか……)


 そして引き金を引き、呪文を詠唱した。


「パワーチャージ」


 ADがスリットから光を放って唸りを上げる。さらに玄咲はスペルカードを詠唱。


「ダーク・アサルト・バレット」


 魔法が、発動しない。


 パワーチャージは呪文を詠唱後に初めて詠唱したスペル・カードの発動を、スペル・カードを再度詠唱するまで遅らせ、その時間に応じて威力を上昇させる呪文。要するにチャージショットだ。ADによってはその機構は差異があり、銃型ADの場合はチャージしている間引き金を引いていなければならない。威力の強化は無限ではなく、ADが内蔵している特殊なバッテリーカード――ギミックカードに充填された魔力が尽きるまで。ギミック・カードの魔力が尽きるとギン! と音が鳴る。また、残量はADの横についた小さなパーセンテージメーターで確認できる。メーターに100%満ちた魔力光が、0%まで減っていく。


 玄咲のADがギン! と音を立てた。


 玄咲が合図をする。


「撃つぞ」


 シャルナが答える。


「うん。きて」


 いくら疑似的かつ減衰化された痛みとはいえ、痛みは痛み。受けるにも心の準備があった方がいい。


(――躊躇うな。痛みには慣れた方がいい。俺も、シャルも。シャルが痛みを感じると俺も心が痛む。けど、戦闘指導に妥協はしない。最善だと思えば何だってする。シャルだって覚悟は決めている。だから)


 躊躇うことなく、玄咲は引き金にかけた指に力を籠める。


「ダーク・アサルト・バレット」


 トリガーを離すと同時、魔法を再詠唱。


 シュヴァルツ・ブリンガーが激しい闇色の光をスリットから放ち、その赤い目までも光らせる。


 銃口から、極太の黒い光条が解き放たれ、一直線にシャルナの心臓へと突き立った。


 シャルナは激しい痛みの中で、避ける間もなかったなと思った。

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