第23話 グルグルの素顔とコスモ
「「!!!!!!!!!!!!!!!!?」」
――眼鏡を外したグルグルは凄まじい美少女だった。瞳が大きくて、小動物を思わせるピュアさと大きさだった。
(か、可愛――!?)
つぶらで大きな瞳が涙に光っている。純粋で綺麗な輝きを灯した零れ落ちそうな程大粒の白亜の宝石が、もぎたての果実の瑞々しさで生の輝きを放っている。陽の光の明るさと雲の柔らかさ。青空の爽やかさと緑風の揺蕩い。そして雨にも負けないたくましさが、宝石のような瞳に七光りする生の彩りを加えている。小動物のような、いや、小動物以上に愛くるしい、無邪気な魅力がグルグルの瞳には宿っていた。そしてそんなグルグルの瞳はその小さな顔と体と比してあまりにも大きすぎた。つまり童顔が極まっていた。あまりにも、犯罪的な風貌だった、可愛すぎると言う意味でも、幼過ぎると言う意味でも。メリーを彷彿とさせる容姿。だが、玄咲はこう思ってしまった。
(メ、メリーより、可愛い――! あ、ああ、そんな、グルグルが、こんな美少女だったなんて、ど、どうしよう。俺はこれからグルグルとどう接していけばいいんだ。分からない。分からない――!)
答えを求めてシャルナを見る。シャルナはわなわなと震えていた。その手はグルグルへと伸びかけている。具体的に言えば契約書へと伸びかけている。どういう心情なのは分からない。だが、とにかく混乱していることだけは玄咲にも伝わった。シャルナに答えを求めても無意味なようだった。惑乱する2人の前で、
「よいしょ」
涙を拭ったグルグルが再び眼鏡をかける。やぼったさを取り戻す。2人ともほっとする。グルグルがポンと手を打つ。
「そうだ! ちょっと待ってて! お兄さんたちにサービスしてあげる!」
グルグルがたたた、と低身長ゆえに少し微笑ましい足取りでゴミ山に向かい、どこに何があるか完璧に把握してるらしく、迷いなく一ヶ所に手を突っ込んで、ズボッと引き抜き、たたた、と玄咲の元へと戻ってきた。
「はい、これ。あげる。よければADが完成するまで使ってよ。ちょっと見た目は悪いけど機能には問題ないよ」
「こ、これは……銃型のADか。ありがとう。ありがたく使わせてもらうよ」
妙に機械の継ぎ目が多い灰色のADを、グルグルの思いやりの結晶体を妙に愛おし気に撫でながら玄咲は答える。眼鏡さえかけていればグルグルはグルグルだった。未知の美少女ではない。無理やりそう思い込んでいる節があるにしても、眼鏡さえかけていれば普通に会話ができた。ADを撫でる仕草を見てグルグルが気を良くする。
「うん、使って。多分新しいADは3,4日で完成すると思う」
「早いな」
「うん、ボク、人の3,4倍は作業が早いよ。それもボクの自慢の一つかな。シャルナちゃんにはさっき渡したADをあげる」
「あ、ありがとう……使わせてもらうね」
シャルナも少し動揺を引き継ぎつつも普通に受け答えをする。その様子を見て安心してから、玄咲はグルグルに聞いた。
「その、差し出がましい申し出だと思うが、もう一本短剣型のADを貸してくれないか。もちろんあとで返す。シャルと打ち合いたいんだ」
「あるよ。訓練に使うんだね。あはは、僕が持ってても宝の持ち腐れだからあげるよ。ちょっと待ってて」
グルグルが再びゴミ山に向かう。そして短剣型のADを持ってきたとき、事件は起こった。
「あっ!」
グルグルが玄咲の眼の前で道具箱に躓いて転ぶ。カラン、カラン、と音が鳴る。自分の方に転がってきたADを拾いながら玄咲はグルグルに声をかけた。
「大丈――」
瞬間、玄咲の視線は凍り付いた。
グルグルの眼鏡は再び外れていた。グルグルと玄咲の間に眼鏡が転がっている。玄咲はその存在に気づかない。グルグルにその視線を縫い付けられている。グルグルと玄咲は現在正面から向かい合っている。グルグルは地に手足をついて四つん這いの姿勢。その白衣は大きくたわんでいる。インナーも結構だぼだぼだ。
さらに言えばグルグルは胸が大きい。
(っ! い、いかん――!)
その体躯からしたらアンバランスなまでに大きな、上半分がほぼ見えてしまっているそれから慌てて視線を逸らす。その先に。
グルグルのコンプレックスでもある大きな尻があった。白衣に包まれているが天を向くそれは否が応にも目を引く形と大きさ。胸も、尻も、童顔と幼児のように小柄な体躯とのギャップが凄まじく、それがイケない雰囲気を醸し出している。ロリ巨乳、あるいはトランジスタグラマー。よく見たら手も、足も、むっくり、というか、むっちり、している。小さいのに全身肉付きがいい。眼鏡を外したグルグルは全身美少女だった。
「眼鏡、眼鏡ぇ―」
グルグルが眼鏡を求めて地を這う。揺れる。ビクン、と玄咲の身体が震える。「ハァ、ハァ……」恐怖で涙が零れる。グルグルへの親愛が別の感情に変じそうになる。玄咲はそれが怖かった。
(誰か、助けてくれ――!)
玄咲がそう願った次の瞬間。玄咲の視線が白い背中に遮られた。サッと眼鏡を拾ったシャルナがグルグルに眼鏡を渡す。
「はい」
「あ、ありがと。ボク、眼鏡がないと何も見えないんだ。だからこのグルグル眼鏡が欠かせなくって――」
スチャ。
(! グルグルだ! グルグルが戻ってきた! グルグルの眼鏡は変身アイテムだったんだ!)
グルグルが未知の美少女からグルグルに戻る。玄咲は安心する。やはりグルグル眼鏡のグルグルの方が玄咲は好きだった。安心した。見ててほんわりした。心臓に優しかった。親しんだ姿がやはり一番だった。グルグルが地面にADを探す。もう、胸元に眼がいかない。
「えっと、ADは――あ、お兄さんがもう拾ってるね。それ、大事にしてね。材料費0円だけど、大事なジャンクで作ったADなんだ」
ジャンク。その言葉で玄咲は大事な確認をしていなかったことを思い出した。
「ありがとう。大事に使わせてもらう――それと、グルグル。ジャンク改造って、できるか?」
「え? うーん、できるけど……今はやめておこうか。もう少しこの学校で新しい知識を学んで、自信つけてからにしたい。ADは一点ものだからね。失敗はできない。絶対成功するって確信が持てるくらい実力をつけたら、ボクから提案するよ。だから、それまでは待ってて」
「分かった」
ゲームと同じく、まだジャンク改造は解禁されないようだった。玄咲は当分、ゲームで言えば次の章まで待つことになりそうだなと、少し残念に思った。肩を落とす玄咲に、なぜか厳しい表情をしたシャルナが問いかける。
「玄咲、話、終わった?」
「ん? ああ、もうない」
「ボクももうないよ」
「じゃあ、もう行こう。早く、訓練したい」
「!」
玄咲はシャルナの厳しい表情の理由を理解した。時間を急いていたのだ。訓練を早くしたかったのだ。夢のために。玄咲は己の怠情を反省した。ピンク色の行動原理に、愛欲に支配されてばかりの自分が情けなくなった。グルグルの胸に夢中になっていた自分を殺したくなった。
(シャルはいつもこんなにも真面目なのに、俺だけが不純だ。よし、気持ちを切り替えねば!)
玄咲は頬をピシャリと張り、シャルナに真面目な顔で向き直った。
「シャル。次はカードショップだ。カードを補充してバトルルームで訓練をするぞ!」
「うん!」
「グルグル、4日後にまたくる。頼んだぞ!」
「任せて! 初仕事、120%でこなすよ!」
「任せた! シャル! 行こう!」
「うん! 行こ!」
玄咲はシャルナとグルグルのADを持って勢いよく工房を出た。シャルナと一緒に小奇麗で広々とした眼鏡をかけた生徒が多い廊下を歩きながら、ふと思う。
(そういえばグルグル工房だから彼女に会えるかと思ったけど会えなかったな。まぁ、その内彼女と鉢合わせる事もあるだろう)
コン、コン。
ノックの音。机に座って10分で書き終わった2枚のADの設計図を見直していたグルグルは入口に声を飛ばした。
「お兄さんーー? 忘れ物―ー? 勝手に入ってきていいよーー」
「いいえ。違います」
過剰なまでに一音一音をはっきり発音する特徴的な喋り方。メカニカルな響きを帯びた女性の声。グルグルは来訪者の種族をすぐに察した。
「んー? あ、もしかして機人かな? ボクに何か用?」
「いえ、すさまじいときめきパワーを感知したので訪れたのですが今は感じません。どうやら膨大なるときめきパワーの持ち主は去ってしまったようですね。残念です。エネルギー補給のチャンスだと思ったのですが」
「あ? さっきの二人のこと? 確かに仲良かったなー。そっか。そっかー……」
「どうやらコスモはすれ違ってしまったようですね。残念です。それはそれとして」
扉が少し開く。浅黒い腕がヌッと扉を押し開ける。機人の少女――コスモは概ねグルグルの想像通りの姿をしていた。腕か。グルグルはそう思った。
「コスモはあなたに惚れ込みました。心センサーのアンテナがかつてなくビンビンです。まるで運命の相手に巡り合った男性器です。この校舎一、いや、
「あ、うん。いいよー。多分ADのメンテナンスでしょ?」
「はい。その通りです。ちゃんとポイントは払います」
「OK。現行の作業が思ったよりイマジネーションがドバドバ溢れて設計図一瞬で書き終わっちゃったんだ。大分時間余りそう。まぁでも、このADはちょっと気合入れて細部まで作り込みたいから、ちゃちゃっと終わらせちゃうけど、それでいい?」
「スピードとクオリティに因果関係は介在しない。それがコスモのインテリジェンスブレインが導き出した自論です。早く終わるなら大歓迎です。あなたはコスモが見込んだ通りの凄腕のようですね。コスモはあなたを気に入りました。よろしければお名前をお聞かせください」
「ボクの名前はググル・イコールズ。グルグルでいいよ。君は?」
「コスモの名前はコスモ・ミストレイン。正確にはCOSMOS―MISTRAINと表記します。親に貰った名前、らしいです」
「オッケー、コスモちゃんだね。じゃ、早速始めようか。まずは鍵をかけてっと」
グルグルは扉の鍵を己の生徒カードでかける。そして扉の前に突っ立っているコスモ――機人は指示されないと中々動かない――の背を押して作業台へと案内する。
「あ、呼び方コスモちゃんで良かった?」
「グルグル博士に呼び方は委ねます。お好きなようにお呼びください」
「じゃあコスモちゃんって呼ぶね。ボクのことはグルグルでいいよ」
「了解しました。グルグル博士」
「……ま、いいや。あの作業台に横になって」
「はい。グルグル博士」
コスモは作業台に横になった。上体を起こして裾に手をかける。へそを剝き出す。
そして、服を脱いだ。
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