第17話 バトルセンター
「バトルセンターへようこそ。当施設のご案内はご必要ですか?」
「いいえ」
「はい」
玄咲はシャルナと顔を見合わせる。
「はい」
そして180度意見を翻した。
「ふふ……かしこまりました。ではご説明させていただきますね」
入り口横、90度の円形カウンターの向こう側の、蒼い制服を着た妙齢の女性受付嬢が微笑み説明し始める。
「バトルセンターは名前の通りカードバトルを行う施設です。当施設の最大の特徴は仮想魔法(イミテイトマジック)となります。世界で唯一ラグナロク学園のみが開発・実用化に成功した画期的なシステムです。今回の試験はこの仮想魔法を用いた仮想魔法戦闘(イミテイトバトル)によって行うことになります」
(仮想魔法……殺傷力を備えた兵器であるカード魔法を使ったバトルが学内で行われまくってることへの言い訳設定か。学内で生徒に話しかけるとその場でカードバトルを行えるが設定上はこのバトルセンターまで行ってバトルしてることになってるんだが……現実化すると煩わしいことこの上ないな)
ゲームと現実の違いに複雑な思いを抱く玄咲。受付嬢の説明は続く。
「仮想魔法は実態を伴わない外観だけのカード魔法です。被弾しても負傷しません。ただし、カード魔法の威力に応じた疑似的な痛みを与えます。そして、実態は伴わねど魔法同士はリアルに干渉し合います。時に増幅し合い、時に打ち消し合い、現実のものと相違ない結果を抽出いたします。仮想魔法は安全にリアルな魔法戦闘経験を積むために開発され、ほぼ完璧な形で結実しました。その成果はこれから体感いただけることになると存じます。
仮想魔法戦闘はその名の通り仮想魔法を用いて行うカードバトルです。番号の降られた各部屋――バトルルームに入るとまず短い通路が、そしてその先に天井の高い長方形の広けた空間があります。その空間の360°全てが戦闘フィールドです。バトルルーム内で発動する全ての魔法は、バッテリーカードによって稼働するバトルルームの地下に埋め込まれた巨大リードデバイスに差し込まれた巨大カードのカード魔法によって仮想魔法となります。痛みはありますが傷は負いませんので思う存分戦ってください。
仮想魔法は当校のSDと連動しております。バトルが開始するとSDはバトルモードとなり対戦者の抗魔力に応じた【HPゲージ】が表示される仕様になっています。ご存じですか?」
「はい」
「いいえ」
玄咲はシャルナと再び顔を見合わせた。
「いいえ」
「別に、合わせなくて、いいよ?」
「ふふ……ゴホン。えっと、HPゲージは仮想魔法に被弾すると減少するようになっています。そして先に相手のHPゲージを0にした方が勝者となります。どちらかのHPゲージが0になると戦闘は終了し、仮想魔法は解除され、戦闘結果に応じたポイントの増減が自動的に行われます。
また、バトルルーム内では純粋な魔法戦闘技能の向上と戦闘中の不慮の事故の防止という2つの観点から、物理的衝撃によるダメージの魔法障壁による自動的な無効化処理が常時発動しています。お忘れなきようお願いいたします」
さらっと超技術を口にする受付嬢。あとで魔法障壁の仕様を確認しておかないといけないなと玄咲は思った。
「最後に、バトルルームの使用方法についてです。バトルルームの扉はSDを扉横のキーロック・リード・デバイスにかざすことで開きます。出る時も同じです。強制マッチングの予約がされた扉は試合の履行、または一定時間の経過による試合の無効が成立するまで使用状態となり開きません。使用する場合は空いているバトルルームを探してご利用ください。
バトルルームに入りましたら通常の対戦と同じようにSDのバトル画面から対戦を行ってください。教職員から説明を受けたはずです。対戦の合意が成立すると5秒のカウントダウンの後にピーっと音が鳴りSDがバトルモードに切り替わります。それが対戦開始の合図です。言うまでもないことですがデバイスカードは対戦開始前から
試合開始位置は床に描かれた魔法陣の上からでお願いします。両者が魔法陣の上に乗らないとカウントダウンが始まらないでご了承ください。対戦はバトルルームに入って10分以内に開始してください。開始しなかった場合、態度に問題があると判断された生徒の敗北となります。
また、バトルルームの部外者の立ち入りはペアの方も含め禁止されております。試験の公平性の維持のためです」
「えっ」
「説明は以上になります。なにか質問はありますか?」
「ない」
「な、ないです」
「それでは試験の合格を目指して頑張ってください。お二人の合格を心よりお祈り申し上げます」
スマイル。玄咲は頭を下げて会釈しカウンターを離れる。シャルナも追従した。
「その、シャルはもしかして、俺の試合を見学するつもりでついてきていたのか?」
「う、うん。不安だから、一度見ときたくて」
「っ!」
玄咲はシャルナの言葉と憂いを含んだ顔色に、この試験が自分一人の試験ではなくシャルナも巻き込んだ試験であることを改めて思い知らされた。罪悪感と羞恥心が胸の内に湧き上がる。アイス・バーンなどというゴミカードを選んだせいでシャルナを無駄に心配させている。そして、シャルナに不安だと言われるまでその事実に気付くことさえなかった。なんたる甘さ。なんたる低能さ。なんたる醜悪さ――玄咲は己に殺してしまいたいほどの怒りを抱く。
そして、その怒りは闘志に転じた。
「大丈夫。必ず勝つ。戦闘の天才なんだ俺は。それ以外何も能がないがそれだけは誰にも負けない」
「うん――信じ、てる」
あまり信じていなさそうな、けど僅かな期待が入り混じった、そんな曖昧な笑み。必ず確信で塗り替えて見せると、玄咲は己の僅かばかりの誇りに誓った。
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