第2話 はじめてのいせかい

 ごとごとガタガタ。何だか体が揺れている?

 あっ。かえでくん、起きちゃったみたい。

 目をパチパチして飛び込んできたのは。おやおや?もしかして?


「この光景……田舎じゃねえか!?というかここは──うおっ!?」


 あっダメだよかえでくん!車の中でいきなり暴れたら!

 シートベルトが絡まって、危ないよ!


「何だこの黒い帯のようなものは!くっ、拘束にしては少し妙だなっ。魔力を全く感じない、が。ふんっ、こんなもの、初級の炎魔法ファイヤで焼いてしまえば」

「こーら。カエデ?もうすぐおばあちゃん家だからって暴れないの。いい子にしてて?」


 おや、かえでくん。目をパチクリしてママを見てる。

 

「貴様……我の、勇者ハナノキの真名まなを知っているのか?我の真名まなを知るのはもう、おばあちゃんしかいないはず──何者だ?」

「ねぇパパ、カエデったらまたゲームの勇者に成り切ってるわよ。このやり取りもう何回目かしら?」

「まあまあ、カエデはもう6歳なんだぞ?そういうのが楽しいお年頃なんだって。俺も、これくらいの時はずっとヒーローごっこしてたって母さん言ってたしな」


 かえでくん、状況がわかってないみたい。今、パパの車でおばあちゃんの家に向かってるんですよ〜


「……ここは馬車か?いや、馬車にしては早すぎる。いくら加速魔法ファストをかけてもこの速度で風景は移動しない。それに、馬車に御者は二人もいない。第一、馬が見えない……」

「どうしたカエデ。設定に悩んでるのか?パパがワルモノやるぞ?」

「な、貴様らやはり魔王軍の残党か!?くっ、何故魔法が出ない……!」


 かえでくん、シートベルトをガチャガチャして落ち着かないみたい。だってもうすぐ大好きなおばあちゃんに会えるもんね!


「っつ。剣はない、魔法も使用不可。絶体絶命だが──いいだろう。勇者ハナノキ、この程度で魔王の手先に遅れはノワァ!?何だ!?一瞬で外が夜に!?辺りを闇で覆う暗夜魔法ノワールか!?発動の兆しすら感じなかったぞ!?」


 トンネルだね〜


「暗闇はマズイ!魔王軍の力が増幅する!急いで闇夜魔法ノワール解除……いや!魔法の範囲から抜け出さなアイタァ!?」


 ガラスに頭ぶつけちゃった。


「見えない壁がある……!?何だこれは、何なんだこの空間は!というか貴様らは何でニコニコしながら我を見てるんだよ!全く敵意も感じないし……うん?」


 かえでくん、トンネルの中が気になるみたい。ぽつぽつ並んだだいだい色のあかりを目で追って──何か、気がついたみたいだ。


「おい!外だ、外に子供がいる!薄ぼんやりとしていてはっきりとは見えないが確かに!少年がこちらをじっと見ている!この速さの中どうやって──まさか、完成していたというのか!?古に伝わりし、天馬がごとき翔けることができるという、伝説の俊足魔法、シュン・ソックス──」

「パパ、この子窓に反射した自分の顔見てなんか言ってるわよ」

「相変わらずカエデはゲーム大好きだな。おばあちゃんの家では1日1時間にするんだぞ?」


 怒られちゃった。ゲームはほどほどにね。


「窓?今、窓と言ったか?確かに夜間に窓を見ると光の反射で自分の顔が見えるが……いや、それはおかしいだろう。この見えない壁が窓ならば。反射で見えるのは当然、自分の姿のはずであって──」

「というか、カエデ口にご飯付いてるわよ?ママ取れないから自分で見て取って。はい携帯」


 おっ。ママからスマートフォンを渡されたぞ。口についてるご飯粒、ちゃんと取れるかな?


「何だこの四角い板は……天井が写ってる。つまり、鏡か?……まあ、貴様らは敵ではないようだし。受け取るが、鏡が何だと……は?」


 スマートフォンの内カメラに映った彼は、東京都〇〇区在住の花茶屋 楓はなじゃや かえでくん(6歳)。

 ゲームとおばあちゃんが大好きな小学1年生。

 この作品では、福島県にあるおばあちゃんの家に帰省したかえでくんの一夏の大冒険をお届けします。


「……口の端の白い粒……自分の口の端から取れば、鏡の少年からも取れる……信じられない、信じられないが──我は、我は!!?」


 ……そして、そんな花茶屋 楓はなじゃや かえでくんに憑依してしまった、剣と魔法の異世界元在住のカエデ・メープルロップ(25歳)。

 人助けとおばあちゃんが大好きな勇者(通称・勇者ハナノキ)。

 この作品では、現代日本の文化に振り回される異世界勇者の一夏の大奮闘もお届けします。

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