ゆうしゃとまおうのなつやすみ

何屋間屋

第1話 決着

 雌雄は決した。結果だけ述べるなら、相打ちであった。


 勇者ハナノキの剣は魔王の肉体を貫き、その心臓の鼓動を止めた。


 同時に、魔王シラトリの凶悪なる鉤爪かぎつめにより勇者の胴には巨大な風穴が空けられた。


 互いに致命の一撃。彼らの生涯に悔いは無い。


 元よりきっと、この瞬間を迎えるためだけに命を授かったのだろうとさえ思えた。


「どうだ魔王。貴様が暴虐と破壊の限りを尽くし手に入れんとしたこの世界は、その破壊と暴虐の遺恨から生まれ出でた、取るに足りぬ人類が一人によって救われてしまったぞ。互いにもう数分と持たぬだろう。遺言くらいは聴いてやる」

「……ああ、ならば。言ってやるさ。取るに足りぬ人類が一人に残してやる言葉などは無いとな」


 魔王の躰が崩れていく。魔王の証たる魔王刻印もその暗黒の光を完全に失った。


「余は滅びぬ、たとえ肉体が幾千と殺され潰され塵にされようと、この魂の乾きが満たされぬ限り何度でも──」


 勇者の口から渇いた笑いが出てくる。同時に赤黒の塊がこぼれ落ちて行く。


「は……そうか、ならば我も、貴様が蘇り続ける限り、幾億と立ち上がりその血で世界を洗い続けるとしてやろう」


 城には白と黒の死に体二つ。

 最期に見やるは宿敵の瞳とは。

 この命は確かにこの時のためだった。とは、思う、が──

 だからこそ、最期に、ただ一人の、我/余の肉親に──




 おばあちゃん/祖母に会いたかった、な──



 互いの意識は望郷の夢と共に落ちていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る