サマー・エイジャー

瑞崎はる

プロローグ

第0話 永遠

 ―――――思い出は美化されるという。


 いな、嫌なことは時間と共に薄れてゆくのか。過ぎ去りし日々は胸の奥に大事にしまい込まれ、深い眠りにつく。しかし、密やかにるからといって、くすんでいるわけでも、ほこりを被っているわけでもない。特に十代の…大人になる直前の記憶は少し覗くだけでもわかるだろう。その記憶は圧倒的な強い輝きと熱量をはらむ。そして、そこには必ず忘れ得ぬ【友】の存在がある。現実には年月と共に、老け、価値観が変わり、疎遠になり、お互いを必要としなくなっていくのは致し方ない。しかし、共に過ごしたあの日々は…最も近く激しく濃く溶け合った時間は色せることはない。


 ―――――思い出は変わらない。


 それぞれの胸の奥で、誰の目にも触れることなく永遠に埋もれ続ける輝かしい宝物のように…


 その電話は友の訃報を告げるものだった。


 誰よりも真っ直ぐな男だった。

 死ぬその瞬間まで、悪を許せなかったのは、犯罪者となり、家族の全てをめちゃくちゃにして、家庭を崩壊させた彼の父親を反面教師にしていたのかもしれない。


【後悔しないように生きる】


 目の前で暴漢に襲われている女性を救うことが、君にとっての後悔しない選択だったのだろう。とても腑に落ちる。君はそれで良かったのかもしれない。しかし、もう僕らが四人揃って会うことが出来ないというのは寂しいじゃないか。君と一緒にあの日を懐かしむことが出来ないのは本当に残念なことなんだ。


【君がそばにいれば、僕は何も恐れない】


 あの時は幸せだとは思わなかった。

 ただ苦しかった。

 無我夢中で生きていた。

 けれど、今思えば眩しいくらいにきらめいていた。


 …そばに君がいた。


 思い出すと切なくなる。

 もう戻らない時間。

 もう会えない君。


 …忘れない。君といた日々。



 ―――――少年でいられたあの夏を。

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