114 第一功、そしてナンパ男

「第一等とは?」

「討伐に一番貢献した探索者という意味ですよ」


 嘘だろ……?

 ギルドは俺がポーターとして参加したことは承知しているはずだろうに。


「第二等以降は複数人選出されますが、第一等は一人だけです。もう何人かに話を訊きましたが、あなたが魔王を倒したんですよね?」

「いえ、違います」


 俺はきっぱりと否定した。

 実際、倒したのはリフレイアだ。

 ダメージソースとしても、アレックスたちや、他の探索者のほうが貢献しているはず。

 どうして俺が倒したなんて話になっているのかは謎だが、そんな間違いで第一等などとなったら後が怖い。


「え? でも――」

「倒したのはリフレイアですよ。僕もこの目で見ました。間違いありません」

「トドメを刺したのはリフレイアさんだとは、私のほうでも確認しています。ですが、あなたの活躍なくば討伐はかなわなかったとも聞いておりますよ?」


 どうだろうか。確かに俺の精霊術があればこそ時間を稼げた部分はあると思う。

 みんな浮き足立っていたし、魔王に対応できていなかったのも確かだろう。

 だが、第一等かどうかと言われれば微妙だ。

 第二等が複数人選出ならば、それにふさわしい程度には動けていたかもしれない。

 だとしても、俺はそれに選ばれたくはなかった。


「とにかく誤解です。僕はブロンズですよ? 参加もポーターとしてです」

「しかしですね」

「魔王がどういう魔物だったのかは聞いてますよね? 僕の細腕ではダメージすら与えられませんよ。活躍なんてとてもとても」


 嘘は言っていない。俺の攻撃はほとんど効果がなかっただろうから。


 褒美は欲しい。

 でも、こんな形で目立つくらいなら、デメリットが勝る。

 闇の精霊術士は珍しいだけで、別に迫害の対象とかそういうのはないようだが、俺は「愛され者」だ。目立つことでそれを知られてしまう可能性のほうが怖い。

 大勢の中の一人として、通り一遍の褒美なら欲しかったが――


「それはこちらも認識しておりますが、魔王の第一発見者はあなただという話ですし、討伐に関しても精霊術を用いて大きく貢献したと、リフレイアさんを始め、討伐戦に参加したみなさんが口を揃えておりますが――」


 どうやら、このギルド職員はバインダーを持って魔王討伐の全体の流れと、具体的に誰が戦ったのかを訊いてまわっていたらしい。

 だが、当の本人が否定すれば、信憑性は薄れるだろう。

 素直に話してくれたみんなには悪いが、さすがに第一等からは降りたい。

 妙な注目のされ方をしたくないんだ。


「それは……なにかの間違いというか、みなさんの見間違いでしょう。極限状態でしたし」

「というと?」

「だって、普通に考えてブロンズのポーターがそんな活躍をすると思いますか? 僕だって、本当にそんな活躍をしたのなら、褒美だって欲しいですけど、そんなズルで評価されたら、後が怖いですよ」


 ハハハと愛想笑いで俺は誤魔化した。

 戦闘の様子を録画しているわけでもないのだ。これでギルド職員もそれもそうかと納得するかと思われたが――


「……いえ、あなたはリフレイアさんと組んで、短期間でかなりの量の精霊石をギルドに納めてますよね。魔王との戦いで活躍するだけの実力があったとしても不思議ではありません。そもそも、あのリフレイアさんが組んでいるという時点で、普通でないのは明白ですし」

「……リフレイアって有名なんですか。そんなに」

「金等級以上のいろんな有力パーティーから誘われてましたから。でも、元々組んでいたパーティー以外の人とは組まないと公言していて、実際、その通りにしていました。それが、駆け出しの男の子と急に組んだらしいって、かなり噂になってたんですよ」

「でも、それが僕の実力を担保してるってのは、ちょっと行き過ぎな考えでしょう。僕が彼女に寄生しているだけかも」

「まあ、そういう風に言う職員がいるのは否定しませんが」


 いるのかよ。

 でも、それくらいで良い。

 視聴率レースが終わった今、また視聴者の数を引き籠もっていた頃まで戻さなければならないのだから。


 遠く、「真紅の小瓶クリムゾンバイアル」の面々と歓談しているリフレイア。

 プラチナブロンドの髪が、シャンデリアの明かりに照らされて、まるで光の精霊のように輝いている。

 圧倒的な存在感。

 彼女は、もう探索者を辞めて地元で光の聖堂騎士になるのだ。

 そして、俺は迷宮でひっそりと目立たないように生きる。

 そう決めたのだ。


「……まあ、寄生なのは否定できませんね。リフレイアさん・・は優しいから、僕のことを立ててくれているみたいですけれど、実際に僕は脚を引っ張っていただけです。ですから、どうぞ正しく評価をして下さい。第一等はリフレイアさんで。僕も、少しは術で貢献したかもしれませんが、基本的には荷物を持っていただけです。他のポーターと同じ評価を」

「なるほど……。まあ、だいたいわかりました。では」


 女性職員はやれやれと肩を竦め、踵を返した。

 わかってもらえたのかどうかはだいぶ怪しいが、彼らとしても他の探索者の納得を得られそうもない人間を評価しても仕方が無いはず。

 なにせ、本人が否定しているのだし、他の探索者だって自分の活躍をアピールこそすれ、他の人間の話などしないだろう。

 あの角笛の少年などは熱く語ったのかもしれないが、ありがた迷惑というものだ。

 リフレイアにも釘を刺しておくべきだった。彼女が第一等を取れると来る前に言った時は、いつもの過大評価だと思ってスルーしたのだが、まさか本当にこうなるとは……。


「ふぅ……」


 ……第一等などと突然言われて、その話に終始してしまったが、魔王討伐のマズさにも触れておいたほうが良かっただろうか。

 一度しか参加したことのない俺にはわからないことも多いのだろうが、それにしても今回の討伐はお粗末だった。ヘタをしたら後半の隊は全滅していたのだ。

 後半の隊がただの見張り役なのだとしても、もう少しやりようがあったように思う。

 

(……ま、それも今更か。終わってからなら、なんとでも言えるもんな)


 そもそも俺は魔王のことなんて、ほとんど知らないのだ。今回がどれくらいイレギュラーだったのかも知らないし、案外いつもこんな感じでやっているという可能性もある。

 それに、俺自身は免許取り立てのブロンズだ。意見をできるような立場でもない。

 俺にできるのは、せいぜい、次があった場合に向けて備えておく程度か。


(みんな……楽しそうだな)


 こうしてパーティー会場にいて、暗い顔で一人でいる俺はもの凄く場違いだった。

 知り合いだってほとんどいないし、話すことも別にない。

 話せないことが多すぎるといったほうが適切かもしれないが。


「よっ! ヒカル、楽しんでるかぁ?」

「そう見えるか?」

「うんにゃ。退屈そうだ」


 数少ない話すことがある知り合いであるアレックスが声を掛けてきた。

 さっきまで、カニベールと二人であっちこっちの女性探索者に声を掛けていたが、あまり上手くいっていないのか、ナンパは小休止といったところのようだ。


 アレックスは、髪を油でキッチリと調え、体格の良さも相まってかなり男前である。

 標準的日本人の俺などは、つい腰が引けてしまう。

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