072 四層単独行、そして混沌の精霊石を手に
視聴率レース8日目。
今日は休みの日で、俺は4日前と同じように一人で迷宮に入っている。
視聴者数はコンスタントに増え、6億人に到達しているが、順位はまだ8位だ。
地球人口が70億人だとしたら、視聴率は8.5%くらいだろうか。
十分な数字――いや、凄まじい数字と言ってもいいが、8位は8位。
俺はスタート時の視聴者数が少なかったから、最終的に圧倒的な数の視聴者を集めないことには1位になれない。
1位になるのは、これまでと同じ調子では難しいと考えたほうがいいだろう。
残りもう半分しかないのだ。一位になるには何か特別なものが必要。
すべての転移者で初めてのなにかを成し遂げるような、なにかが。
現代は情報社会だ。
誰かが何かを成し遂げたら、そのニュースは一瞬で世界を駆け巡る。
まして、異世界転移者のことなら尚更だろう。
ただ、それが何なのかは、思いつかなかった。
だから、命を張るのだ。
今日は単独で第四層「雨竜大瀑布」へ降りる――
二層までは魔物をすべてスルーして抜けられるが、三層は出会った魔物をキッチリと処理しながら進まなければならない。
ダークネスフォグで隠れながら進むという、一層二層で通用したことが通用しないからだ。無理して進んでいけば、出会った魔物を全部引き連れて歩くことになりかねない。
そんなリスクを冒すくらいならば、出会う端から殺していったほうが安全だ。
三層の地図はギルドで購入した。格安で売っていたところをみるに、ほとんど紙代だけで頒布しているのだろう。ギルドからすれば、こういう情報を出し惜しみすることに意味などないからだ。
探索者は多ければ多いほど良く、死者は少なければ少ないほど良いというわけだ。
俺は、方向感覚が良いほうだから、地図があれば最短ルートを通っていくのに苦労はなかった。ただ、四層への下り階段は、ほとんど端から端まで歩かなければ到達できないため、どうしても時間がかかる。
しかも、行きだけでなく帰りのことも考えなければならないわけで、なるほど四層以降に潜るのは難しいというリフレイアの話も理解できる気がする。
とにかく、ようやく四層への下り階段に到着して一休み。
精霊術はかなりの回数を使っても平気だが、肉体はそうでもない。
自分自身の位階……つまりレベルというやつが、どの程度上がったのか、ステータスボードでは確認できないから、強くなったのかどうか、イマイチ実感がなかった。
(神に要望でも出してみるか? レベル制なら、それをわかるようにしろって)
大精霊に聞きに行けば教えて貰えるらしいが、それができない俺は自分のレベルがどの程度かもわからないのだ。レベルなんて目安みたいなものだろうが、その目安は案外重要で、ギルドでも四層に降りる推奨最低位階なんてものまで決めているくらいだ。
ちなみに二層で推奨最低位階6。
三層で最低10。
四層で最低20だ。
しかも、この数字は「6人パーティー」を組んで、なおかつほぼ全員が精霊術を使えることを前提とした数字。
それまでは一層で頑張って位階を上げたり、仲間を見つけたり、精霊術の契約の為の金を貯めたりしろということなのだ。
推奨6人パーティーは、「3人が戦士、1人が回復術師、1人が斥候、1人がポーター兼予備要員」という編成であるらしい。
そして、俺の位階。
鍛冶屋の親父が俺の素振りを見て9くらいと言っていた。
俺は「体力アップレベル1」を取得しているから、あの時で位階4~6くらいだったのではないかと推察できる。
そして、あれから何日も経っていないから、現実的に考えて俺の位階は多くても10前後だと思う。つまり、本来ならばフルパーティーでやっと三層になら潜れる程度のレベル。
それを単独で四層である。完全に無謀だ。
でもやるのだ。
だからこそ、やるのだ。
「それでは四層に降りてみようと思います。四層は三層と比べるとかなり危険度が高い場所ということなので、集中していきたいところです。死にたくはありませんからね」
死んだらナナミを生き返らせるもへったくれもない。すべて水の泡だ。
死なずに、しかし最高のパフォーマンスを見せなければならない。
ダークネスフォグは使わず、素の自分のまま階段を降りる。
油断は禁物だが、階段には魔物が出ないという話だからだ。もちろん、「そんなはずじゃなかった」なんて言っても、誰も助けてはくれないのだから、こんなことでもかなりリスキーな行動であるのかもしれない。
そのリスクを負いに行くのだから、今更な話だが。
「四層の推奨レベルは、フルパーティー揃っていて20レベルなんだそうです。俺は自分のレベルがわからないので、なんとも言えませんが、20はないのは確かです」
無音にならないように、喋りながら降りていく。
「四層で出現する魔物は『ジャイアントクラブ』『スライム』『マンティス』『サハギン』『リザードマン』『ラミア』、そして『スキュラ』だそうです。闇と相性が悪そうなのは、スライムとリザードマンでしょうか。闇に隠れていても関係なく攻撃してくる相手だと、かなり拙いです」
今回はギルドで情報収集してきた。
俺が情報なしで迷宮に降りて死にそうになれば、視聴者は増えるだろうが、そのことで増える視聴者の数と、俺自身が初見殺しにやられて死ぬリスクとを天秤に掛ければ、四層の情報は必要だと判断したからだ。
四層の魔物は、全体的に二層や三層よりかなり強いらしい。
さしあたり、スライムには注意が必要だろう。精霊術に弱いらしいから、サーチ&デストロイの精神でいくしかない。
リザードマンは、ヘビなのかトカゲなのかで違ってくる。ヘビだとすると視力が弱く、代わりに熱探知器官を持っている可能性がある。その場合はかなりヤバい。
闇が効かない魔物といえば、三層のトレントがそうだったが、あいつは動きも遅いし、攻撃力が強いわけではなかった。
だが、リザードマンはいかにも強そうだし、脚も速そう。闇に紛れて逃げられない相手は俺にとって鬼門だ。
ちなみにラミアは下半身がヘビで上半身は人間なので、熱感知は持っていないだろう。……多分。
いずれにせよ、どの魔物も闇が通じるのか試す必要はある。
一番の強敵とされるスキュラは、下半身が長い触手状になっている女の姿の魔物で、その脚すべてが武器となるため、近寄ることからして困難な強敵らしい。
しかも3~4体のラミアを伴い出現することもあるそうで、その場合はベテランの高レベルパーティーでも全滅させられることがあるのだとか。
ギルドでも出会ったら、ありったけの干し肉や煙玉をばら撒いての即撤退を推奨している。
「ギルドにはいろいろな情報が張り出されていますが、それによると魔物とは『混沌の精霊力』の影響を受けたもののことらしく、その姿は『混ざりあっている』ほど混沌の影響を受けている度合いが高いのだそうです。ラミアはヘビと人間、リザードマンはトカゲと人間、サハギンも魚と人間、マンティスはカマキリと人間。そういう魔物は『混沌の精霊石』を落とす可能性も高いそうです」
混沌の精霊石は、普通の魔物でも一定確率で落とす。
前回の一人探索の時と、リフレイアたちとの探索でも、いくつか入手して、実はストックしてある。
「四層ではクリエイトアンデッドを使ってみようと思います。闇の精霊術でそういうのがありまして、混沌の精霊石があれば、その石の生前の魔物を生み出すことができるんです」
四層の探索では一人きり。
しかも、これまでと違って四層を探索するパーティーは格段に少ないのだ。
クリエイト・アンデッドを使っても見られる心配は少ないだろう。
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