第一曲 第二楽章 ??? 鈴星学園初等部低学年館音楽室にて
放課後に訪れるクラブ活動。あたしは音楽室に入って荷物を指定の場所に置き、何の
曲は合唱曲では定番の『遠い日の歌』。あたしが奏でるピアノの音と皆が歌う声の調和がとても合っている。しかし、しばらくするとあたしはつい気になってしまいピアノを弾くのをすぐに止めた。
「ちょっとそこ!声が高過ぎる!もうちょっと低く歌えないの?」
あたしが指した女子生徒は、突然の注意に怯えていた。
「あ…そのっ…すいません…」
女子生徒はへこへこと頭を下げると、指揮を担当している女子にあたしの手を強制的に下ろした。
「やめなよひかりん、きょーちゃん怖がってるじゃん。注意ならわたしがするから、ひかりんは黙って弾いててちょうだい」
少しの罪悪感を背負ったあたしは頷き、黙って席に座った。
そう、こう見えてもあたしは絶対音感の持ち主。そのせいでピアノ担当のあたしでも楽器の音だけでなく、皆が歌う声のズレにもつい反応してしまうのがどうしても止められないのだ。
「えへ、ごめんなさい。もう一回初めからやるから」
そう言ってあたしはピアノの白鍵盤に両指を添える。
「始めるわよ。皆、準備はいい?」
指揮の女子が両腕を上げ構えると、他の部員も一斉に歌う準備を整い始めた。
またやっちゃったな…。けど今度は気にしないで最後まで弾かなきゃ。次に行われる夏の合唱コンクールで入賞を目指すんだから、精一杯頑張らないと!!
あのピアノの女の子…心に音楽の源が宿ってる。
あの子なら宇宙を救ってくれるかもしれない…。
「…ねぇ、何か聞こえなかった?」
「何言ってんのひかりん」
ソプラノパートを務める合唱クラブの部長が首をかしげた。
「だって、女の人の声が…」
「そんなの聞こえないですよ。会長それって空耳でも聞いたんじゃないんですか?」
テノールパートの男子も耳を疑ってる。
やっぱり気のせいなのかな…。確かに女の人の声がしたような気がするんだけど…。
「ひかりん、もしかして疲れてる?」
指揮担当の女子があたしの顔を覗き込んだ。
「大丈夫だって!!さ、練習練習!!」
皆に心配されたくない。そんなことを考えていたあたしは笑顔を皆に振り撒き、再び白鍵盤に両指を添えた。
「気を取り直していくよ。せーの!」
ちょうどその時、急に眠気が襲って来てその場で意識を失った。
目が覚めると周りは何も無いただの真っ白な空間にいた。一体何が起こっているのか全く予想出来ない。そんな中で上半身を起こした。
すると目の前には小さな花を
「何…?今の…」
「やっとお目覚めですか?」
後ろから男性の声がした。振り向くと明らかに日本人では無いことだけはすぐに把握出来たが、どこかで見たことあるような顔をした男の人が立っていた。
「あの…ここは一体…」
半信半疑で尋ねると彼は口を開いて笑顔でこう答えた。
「突然すまない。私はフレデリック・フランソワ・ショパン。長年もの間君のような才能
「え!?あの『子犬のワルツ』や『華麗なる大円舞曲』とか作り上げたあのショパンさん!?」
ショパンはにこやかにこくりと
…そうだ。何処かで見たことあると思ったら、音楽室にあるあの肖像画…!!本当に本物とほぼ同じだったんだ…。けど、謎が沢山ありすぎて整理が追い付かない。
「あの…何でここにいるんですか?生まれた時代も国も全く違うのに…」
「それについては話が長くなるけど聞いてくれませんか?」
よく分からないまま頷くとショパンは一息ついてから語り始めた。
「私がこの世を去る約二ヶ月前の頃、突然神様から『貴方の時代から遥か未来には音楽が無くなる世界となってしまうでしょう。貴方の様に音楽の才能が溢れるその力と私の力を合わせ、私の死後から約160年後の時代に音楽の才能がある人を見つけて共に戦って下さい。』というお告げがありましてね。その時代で捜していたらピアノの愛や才能が特に高い君を見つけたんだ」
話を聞いていても話は全く理解不能。ただぽかんとしているだけであった。
「まあ確かに、君に話しても信じられる訳が無いですよね。私もよく分からないまま死んでしまったからね」
ショパンはくすりと笑いながら発言した。
そう言うショパンもしっかりしてくれ。そう思う自分がいた。
「あの…話がよく理解出来ないんですけど…」
「そうですよね、簡潔に言えば私の音楽の力で宇宙を救って下さい、ということですかね」
???????何でそんな大規模な話になってんの?あたしが宇宙を救う?ますます意味が分からない。
「おっと、そろそろお時間のようですね。最大の危機に陥った時はまた呼んで下さい」
そう言ってショパンはあたしに背を向けて立ち去った。
「待って!まだよく分かってないんですけど!?行かないで…」
右手を伸ばしても追い付けずショパンは消えてしまった。
……………………。
気がつくと、あたしはピアノの座席から転がり落ちて床に倒れ込んでいた。
「会長!?大丈夫ですか!?急に眠ってしまったようですけど!?」
皆があたしを囲んで心配そうに見つめていた。
「大丈夫、ひかりん?あんた児童会とこれの二足の
部長があたしの左腕を肩に回しながら、そっとあたしを立たせた。
そうだ、その後ショパンに会って宇宙を救ってくれとか言われたような…。
そのことを話しても信じられなさそうだと判断したあたしはとりあえず場を治めることにした。
「ううん、大丈夫!!ちょっとぼーっとしてただけだから」
と、ここで一学年下の男子が時計を見て指した。
「おい見ろよ!もうそろそろ時間だぜ!」
「マジか、とっとと帰ろうぜ!」
と、部員達が荷物を持って音楽室を後にした。時間は午後四時を回ろうとしていた。
「ひかりん、やっぱ疲れてるんだよ。今日はここまでにして帰ろう、ね?」
指揮担当の女子があたしの肩に手を乗せて言った。
「…うん」
どうも
長さ五十センチ程のタクトみたいで
…何だろうこれ…?こんなおもちゃ、誰が持ち込んだのかな…?
「ひかりーん、何やってるの?」
指揮担当の女子に声を掛けられるまで、ついこの剣(?)と二枚の円盤に見とれてしまった。
「ごめん、今行くー」
あたしは急いで楽譜と共にそれらを拾い、鞄の中に詰め込んだ。
あの夢といい、さっきのおもちゃといい、一体何だったんだろう…。
そう思いつつ鞄のチャックを閉め、あたしは何事も無かったかの様にピアノの鍵盤の蓋を閉め、音楽室のドアの鍵を
「お待たせー。どうしたの?そんな難しい顔して」
指揮担当の女子が滅多に見られない表情をしているので声を掛けると、彼女はあたしにこう尋ねた。
「…ねえ、あたしさっきまで何の曲奏でてたんだっけ…?」
「忘れたの?さっきまで…」
………………………………………。
………あれ、さっきまで弾いてた曲って何だっけ…?まあ別にいっか。
難しい事は深く考えるのを止め、気楽に生きようとするあたし、鈴星学園初等部の児童会長兼合唱部のピアノ担当の五年生・
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