第一曲 第一楽章 ??? 鈴星学園第一グラウンドにて

時は現代の二月某日。


日本に存在する東京都和音区わおんくわおんくには音楽が盛んな都市として有名である。その中で最も音楽に力を入れていることで有名な小中高一貫の私立校・鈴星学園すずぼしがくえんで奇妙な事件が起ころうとしていた。





「ヘイパス!」

 「おい、ボールはこっちだ!早く行け!」

 放課後のグラウンドは今日もいつものように賑やかだ。先輩が引退してからもう半年は経つ中、俺は当時の主将キャプテンに指名され今ではサッカー部の大黒柱の存在になっている。

 「キャプテン、フリーキックお願いしやす!」

 今回レギュラーになったばかりの後輩に促され、俺はすぐにポジションへと駆けて行った。俺の目に映るのは、サッカーゴールと入部当初からずっと共に闘ってきた良きライバルが立っている。両者睨み合う中、顧問の先生がホイッスルを吹く音がグラウンド中に鳴り響いた。タイミングを見計らって助走をつけたと同時に右足をより大きく後ろに振り上げる。風を操る様にだんだんとその足をボールの方へ降りていく。

 何しろ俺は鈴星学園中等部ここのサッカー部の主将かつエース。ここで決めなければすたるぜ!












 あの少年、すごい音楽の源を感じる…。

 彼なら私と共に宇宙を救ってくれるだろう…。












 …?何か声がしたような…まぁいっか。集中しねーと!

 次の瞬間、ボールを蹴る寸前に突然の眠気が襲って来た。

 ここで決めなきゃいけないのに…

 俺はその場で倒れ込み意識を失った。






 目が覚めると俺は真っ白な空間にいた。

 「ここは…どこだ…?」

 すると何処からともなくビリビリと電流をまとったライオンが俺を素通りして消えた。

 「何なんだ一体…」

 「やっと起きたみたいだね」

 背後から唐突に声を掛けられのでさっと振り向いた。そこにいたのは髪形がとても特徴的な男性の姿がいた。

 「君のような人を捜してたんだ」

 男性は歩み寄りながら俺に近付いて来た。

 赤い燕尾えんび服に両脇にくるくるな髪形が特徴的な人。どこかで見たことがある人だと思ったが…、いやそんなまさか。ある訳が無い。

 「あの…、誰ですか?」

 俺は疑心暗鬼で男性に尋ねると、彼は何の躊躇ためらいも無く笑顔でこう答えた。

 「私はヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト。君に頼みがあって会いに来たんだ」

 ……………!?

 これは何かの聞き間違いだと思った。

 俺の目の前に立っているのがあの有名な『トルコ行進曲』や『アイネ・クライネ・ナハトムジーク』とか作曲したモーツァルト!?

 「ほ、本当にモーツァルト…ですか?」

 平成原人の俺はそれでも信じられず彼にまた尋ねた。

 「うん、そうだよ」

 「ええええええええええええええええええ!?」

 本音が丸出しになった瞬間である。

 「だっ、だって俺とモーツァルトさんは生まれも育ちも全っっっく違うじゃないですか!?なのに何で…」

 頭の中の整理が追い付かず、呼び捨てでは失礼だと思い思わず『さん』付けで呼んでしまう程だった。

 「実は私がいた時代にあるお告げがあってね」

 「お告げ…?」

 まだ理解出来ない俺はとりあえず話を聞くことにした。

 「君の時代からだと220年前くらいかな。突然神様からのお告げらしき言葉が私の頭の中でよぎったんだ。『貴方の時代から約220年後には音楽が滅ぶ事になるでしょう。そこで貴方に頼みがあります。貴方が死んだ後、約220年後に存在する最も音楽の才能あふれる人を捜して共に戦って下さい。貴方のその音楽への愛と私の力で、に実在する新たな戦士と地球の危機を救って下さい』ってね」

 モーツァルトの話はよく分からない上に意図が見えない。

 「まあ要するに私と契約して危機を救ってくれっという事かな」

 「え?おっ、俺がモーツァルトさんと契約して宇宙を護れてことか!?いやいやいやいや無理です!!俺はまだ未成年だし、そもそも俺よりも音楽愛がある人なんて他にもいるはず!なのにどうして…」

 「ん~、直観かな」

 この人絶対に考えて無いだろ。仮に考えていたとしても結構浅はかだろうな。

 「あ、そろそろ時間だ。んじゃ、そういうことで」

 モーツァルトは俺に背を向けて手を振った。

 「ちょっと待って!まだ話が終わって無いんだけど!」

 「そうだ、最大のピンチになったら俺を呼んでね」

 「だから一方的に終わらせないで!!」

 モーツァルトは終始笑でその場を去った。

 一体何が何なのかがよく分からないまま別れを告げられた。











 ……………………。











 「黒野!おい黒野!」

 遠くから顧問の先生が俺を呼ぶ声がする。

 …!!

 俺は意識を取り戻した。気が付くと俺は部室内のベンチで横たわっていた。

 「おいカナちゃん、いきなりどうした!?こんな所で眠りやがって」

 部員の一人が心配そうに声を掛けた。

 …思い出した。俺は突然眠っちゃってそこからはモーツァルトと話をして…、宇宙を救ってくれとか言われたような…。

 「黒野、最近頑張り過ぎて睡眠不足になったのか?」

 「いや、そういう訳では」

 「まあいい。今日はここまでにして帰って休め。後の事は僕に任せろ。他の皆はいつも通りトレーニングに取り組むように」

 そう言って顧問の先生は俺を気遣って早退するよう命じられ、他の部員はさっさとトレーニングに取り掛かった。

 本当に申し訳ないことをしてしまった。部室から退室して行く部員達の背をただ見送るだけだった。

 しばらくして俺は仕方なく帰宅しようとロッカーの扉を開けた。が、かばんの中身から黄色く光る何かを見つけた。

 今度は何なんだ…?

 取り出すと黄色の光が輝く大きな円盤の様な奇妙な物が出てきた。それはすぐに小さくなり、最終的に円盤はゲームソフト並みの大きさになった。それも一枚では無く二枚、さらにロッカーの奥からつるぎの様な長い物も現れた。一見剣に見えるが、よく見るとタクトにも見えなくも無い。












 …何だこれ…?












 

 とりあえず剣みたいな物と二枚の円盤は後で考えるとするか。

円盤はポケットの中にしまい、長さ約五十センチ程ある剣は流石に入れられないので誰にも見つからぬよう背を盾にして俺なりに隠蔽いんぺいしては、さっと鞄の中にしまった。

 今日は何か変な日だな…。あんな夢まで見ることになんて…けどあれは夢…だったのか?










 ………………………………………。











 ………あー、明日ピアノのテストだ。曲の練習…あれ、何弾くんだっけ?……まあいっか。






 そう思った俺、カナちゃんこと鈴星学園中等部二年・黒野くろの彼方かなたは一息ついてから部室を後にした。

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