第173話 楽しむ時は全力で楽しむ。人生メリハリが大事(後編)

 エレナを囲む女子たちが盛り上がりを見せる中……


「何だ何だ? 面白そうな話してんじゃねーか」


 ……近くの席で料理に舌鼓を打っていたリンファが、椅子を揺らしてエレナ達の席を見ていた。


「おい……面白そうだし、アタシらも混ぜてもらおうぜ」


 そう言ってリンファが振り返った先には、同じテーブルを囲むエミリア、ノエル、イーリン、そしてノエル達のオペレーターであるベルタという女性の四人だ。比較的おとなしい女子グループにリンファという組み合わせだが、他のところも当初は部隊間の括りなくバラバラで座っていたので、端的に言えば偶然このメンバーになっただけだ。


 隣で盛り上がる女子会も、元々はエレナ、アデル、ヴィオラ、リザという面子だったのだが、気がつけばノエル部隊の残り三人にリリアも加わり、あれよあれよと言う間に大所帯である。


 出遅れてしまったリンファとしては、ぜひとも参戦して楽しい話を聞きたい所だが、自分ひとりで行くより、ノエル達を連れて行った方が面白そうだと感じている。


「な? 皆でクラウディアとかバークリーアデルとか、誂おうぜ」


 笑顔を見せるリンファだが、


 ノエルは「え、えええっと」とリンファとエミリアをビクビクと見比べ、

 エミリアは「興味ありませんわ」とすまし顔で、

 イーリンは「……リンファだけで行くといい」とグラスを傾け、

 ベルタは「あらあらあらぁ」と何故か微笑んで首を傾げるだけだ。


 そんなメンバーに、リンファは「そうか」と小さく溜息をついて、エレナ達が騒ぐ席へ――。リンファが居なくなった事で、さらに静かになったテーブルだが……


 賑やかな声が急に近づき、それにノエルやエミリアが顔を上げれば、エミリア達の席に向けて、エレナ達が移動してくるのが目に映った。


 完全にテーブルとテーブルがくっつけられ、エミリアやノエル達も女子会の輪の中に組み込まれてしまう。まさかの事態に、エミリアが白黒させる瞳に映ったのは、したり顔で笑うリンファの顔だ。


「ちょっとリンファ、どういう事ですの?」


 眉を寄せるエミリアに、「仕方ねーだろ」とリンファが肩を竦めてみせた。


「だって、お前らが移動したくないなら、アタシらが移動するしかねーだろ?」


 悪びれる様子のないリンファに、「アタクシ達は――」とエミリアが口を尖らせた瞬間、「私がお前たちと話したいのだ」とエレナが優しく微笑んだ。


「駄目だろうか?」


 エレナのダメ押しに、「だ、駄目ではありませんが」とエミリアがモゴモゴと口籠ったのを見計らい、リンファが手を叩いた。


「パーシヴァルとドラグニルルカの事も聞こうぜ?」


 悪い顔をして笑うリンファに、エミリアが「な゛――」と奇妙な声をもらせば、そこかしこから黄色い声が再び響いてくる。


「あ、アタクシは――」


 顔を赤くして逃げようとするエミリアだが――「……駄目」――その手をイーリンがガッシリと掴んだ。


「……それは、私も気になる」


 普段は眠たげで感情の抑揚が分からないイーリンの瞳だが、今だけはやたら熱を帯びて見える。その瞳に映るエミリアの顔が更に赤く染まり――


「う、裏切り者!」


 と声を上擦らせるが、もう遅い。抵抗むなしくエミリアが女子会の波に飲まれていく――





 そんな女子会の様子を、少し離れた席でフェン達男性組が苦笑いを浮かべて眺めていた。


「ったく……姦しいと言うか、何と言うか」


 苦笑いを浮かべるフェンだが、騒ぐ女性陣達から目を離さない。どうも聞き耳を立てているようなフェンに気がついたロランが、ニヤリと笑って肩をたたいた。


「アデルの話が気になるんだろ?」


 ロランの言葉にフェンが思い切り肩を跳ねさせ、「は、はあ?」と声を裏返して振り返った。


「な、何言ってんすか!」

「皆まで言うなって」


 ニヤニヤと笑うロランとルッツにダンテ。その隣では静かに酒と料理を楽しむディーノとラルド……そして――


「ゲオルグさん、こっちも美味しいですよ!」

「なんと! こちらも美味であるぞ!」


 ――一心不乱に料理に齧り付くカノンとゲオルグ。


 女子会同様、男性陣にもそれらしい会話の種が芽吹いた瞬間、それをカノンとゲオルグの食欲が一気に刈り取っていった。


 暫し流れる沈黙……


「カノン……お前、?」


 ……苦笑いのフェンの言葉に、「何がでしょう?」とカノンが口の周りにソースをつけたまま小首を傾げて……フェンの向こうに見える女子の塊を見て固まった。


「な、ななな! 皆さん! 何楽しそうなことしてるんですか!」


 叫ぶカノンに、その場の全員が「気づいてなかったのか」とガックリと肩を落とした。


「こうしてはいられません!」


 立ち上がったカノンが、「クロエさん! 私達も参戦しますよ!」と未だにカウンターでまごまごしているクロエを引っ張って女子会の中へ飛び込んでいった……かと思えばUターン。先程まで食べていた料理の皿を抱えて再び女子会の中へと飛び込んでいく。


「食い気なのか、色気なのか……」

「ボーイは苦労するな〜」


 カノンの様子に誰ともなく肩を竦めて歯を見せて笑う。たまには男ばかりもいいものだ、と全員が目の前の料理に手を伸ばし――


「で? フェンとアデルはどこまでいってんの?」

「それ、まだやります? 折角男同士だし、熱い仕事の話でも――」

「ふ、二人はまだ手も繋いでない」

「ラルドてめっ!」


 男性のテーブルも女性陣には敵わないまでも、いつにない賑やかさを見せていた。





 そんな賑やかな二グループから少し離れたカウンター……


「あー。酷い目に遭ったぜ」


 ……片手で頭を抑えるユーリが、眼の前に出された水を一気に呷った。


「変なモン食うたらアカン、って千度言うたやん」


 なんとか抜け出してきたのだろう、呆れ顔のヒョウに、「退けない戦いってのがあるんだよ」とユーリが口を尖らせ、ヒョウが「何やねんそれ」とクツクツと笑ってみせた。


 暫し流れる沈黙に、ヒョウがグラスに手を伸ばして――


「そういや、馬みたいなん……たったわ」


 ユーリと同じ様に水を呷ったヒョウに、一瞬だけ驚いた表情を浮かべたユーリが、「そうか……俺もだ」とヒョウを見ずに答えた。


「何か言ってたか?」


 ユーリの言葉にヒョウが黙って首を振るが「ただ……」と呟いて続ける。


「ただ、色々分かったことはあるわ」


 ヒョウの真剣な表情に、「そうか……」とだけ答えたユーリが、近くのボトルから強めの酒をグラスへ注ぎ、ヒョウにもボトルを向ける。それに気がついたヒョウがグラスを差し出せば、ユーリが酒を注ぎながら口を開いた。


「俺も、色々……な」


 酒を注ぎ終わったユーリが、ボトルを置くのと同時にほぼ二人一緒にグラスを一気に呷った。


「くぅー。キッツい酒やな」

「たまにぁ良いだろ」


 笑ったユーリが、サイラスのグラスにも酒を勝手に注ぐ――眉を寄せるサイラスだが、ユーリはその手を止めずにサイラスに視線だけ向けた。


「ジジイ。今度話しがある」


 ユーリの真面目な顔に、サイラスが顎髭をさすり、「今では駄目なのかね?」とユーリに身体ごと向き直った。


「バカか。打ち上げでなんかするか。酒が不味くなるわ」


 鼻を鳴らしたユーリが再び自分のグラスとヒョウのグラスに酒を注ぎ、「宴席ってのは、楽しんでこそ風流だろ」と再びグラスを呷った。そんなユーリの言葉と態度に、ヒョウが笑って頷き――ユーリの目の前のホットサンドに、クロエの暗黒物質を忍ばせた。


 ケラケラと笑うユーリがホットサンドを持ち上げ、豪快に齧り付く――


「ん? 何か味が――」


 ――再びフリーズし、後ろにひっくり返るユーリ。響き渡る音に、全員の会話が止んでひっくり返ったユーリへ視線が集まった。


「ナ、ナルカミ! またか!」

「平時でも大お荷物ッ!」


 騒がしい声と笑い声は続く……宴会の夜はまだまだこれからだ。





 ☆☆☆




 人類の生存圏内某所――とある小高い丘の上に、一人の男性が座って星を眺めていた。まだ陽が沈んで間もない空は、僅かに明るく見える星も少ない。


「あー! やっぱここにいたよ」


 男性の後ろから聞こえてくるのは、粗暴だがどこか優しさが感じられるエリーの声だ。


「オレのお気に入りの場所だったのに、最近は隊長の方が気に入ってんじゃん」


「エエやん。黄昏れたい時くらいあるやろー?」


 ワイワイと騒がしい二人に囲まれて、隊長と呼ばれた男性は「フッ」と静かに笑みをこぼして再び空を見上げた。


「……二人共……本当にいいのか?」


 呟く隊長の声に、「何がだよ?」とエリーが盛大に眉を寄せた。


「……これは、単なる復讐だ。正義なんて――」


 言いながら顔を二人に向けた隊長の瞳に映ったのは、真剣な表情で彼を見つめるエリーの姿だ。


「知ってるよ」


 叫ぶわけじゃない。それでも力強いその言葉に、「そうか」とだけ答えた隊長は再び空を見上げた。


「正義なんていらねー。この世界は……この世界に知らしめてやるんだ……


 膝を抱えたエリーの指が、音を立てそうな程強く握りしめられていく。


「ウチはー。あんさんにぃついて行くだけやさかいー」


 マモはそれ以上何も言わないといった雰囲気で、隊長の様に空を見上げた。二人の言葉と態度に、「そうか」とだけ返した隊長も暫く空を見上げたままだ。


 暫く流れる沈黙を、温かい南風が攫っていく――


「ならば二人共行こうか、世界に夜を届けに。世界に……悪夢は続いていると報せに――」


 立ち上がる隊長の言葉に、二人も頷いて立ち上がった。


「っしゃあ!」

「久々に頑張ろかー」


 大きく伸びをした二人を温かな南風が包む……長い長い夜が来る。回りだした運命の歯車は、ゆっくりとだが、確実に進んでいる――







 ※ ここまでお読み頂きありがとうございます。これにて三章(後編)終了です。


 漸く物語が動き始めた本作ですが、このスロースタートに付き合い頂き感謝しかありません。毎話ハート、コメントに加え、星やレビューまでありがとうございました。非常にありがたくモチベに繋がっております。


 まだ星を投げてないよ。って方はこの機会に是非投げて頂けると、大変喜びます。レビューも書いてやろう。と言う方は、書いてくだされば小躍りして喜びます。


 ハート、コメントは勿論のこと、小説のフォローだけでもお待ちしてます。


 最後に……これはずっと申し上げております一番のお願いです。まだまだ話は続きます。そして四章の中程からは山場の連続の予定です。ぜひぜひ続きもお読み下さい。


 読んで頂ける。それが一番のモチベーションになりますので。



 それでは、四章をお待ち下さい。(幕間を挟みます)

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