第31話 幕間 簡易レポートでも数が多いとただの論文
『第6話 困った時はゴブリン出しときゃ何とかなる』
の途中、カノンがユーリに送った『戦う理由』を幕間に差し込みました。
実はこれ、元々プロローグだったのですが…最初から設定てんこ盛りはアウトっぽいので、ここまで読んで頂けだ方に読んで頂こうかと。
バックグラウンド、今後の展開へのちょっとした伏線なんかもあるので、是非。
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簡易レポート 〇〇一
新型ウイルス発生と蔓延
二〇✕✕年の終わりにアジアの大国で発生したそのウイルスは、年を跨いだ翌年、瞬く間に世界を席巻し人類の生活様式を一変させた。
ウイルスの猛威は留まることを知らず、様々な国で混乱を巻き起こし、世界は、いや人類が築き上げた国家は正に機能不全に陥っていた。
経済活動の停滞は失業者を増やし、職にあぶれた者たちが治安を悪くさせる。
各国政府は失業者達により引き起こされる治安の悪化や、国民の不満を解消させるため様々な施策を打ち出すもののそのほとんどが意味をなさなかった。
簡易レポート 〇〇二
ウイルスが齎した混乱
新型ウイルス発生から凡そ五年、遂にアフリカ大陸のとある国で悪化する治安を抑えるために、軍部による民衆の大虐殺が起きる。
この虐殺により、民衆の怒りは頂点に達した。民衆の怒りは留まる事を知らない暴動に発展し、政府は遂に耐えられなくなり、無政府状態に陥った。
この事態に即座に動いたのは、その国に多くの支援を送っていたアジアの大国だった。
名目上は「当該国政府への支援」を唄い武力介入を決定。暴動により混乱に陥っていた国への軍隊派遣を実施した。
これに異を唱えたのが、世界の警察を自称する大国であった。
アジアの大国同様、名目上は「当該国民の保護」を唄い、武力介入を大統領令にて即日決定。
ここに、アフリカ大陸のとある国を舞台に、アジアの大国と世界の警察との戦乱の幕が切って落とされる事となる。
簡易レポート 〇〇三
第三次世界大戦と国連の解体
アフリカ大陸のとある国を舞台に始まった戦争は、瞬く間に大陸全土を飲み込む大戦に発展。
国連によるPKOの派遣も検討されるものの、常任理事国である二大国が先陣を切って争っているため、機能が働かず。
それを受けた常任理事国の一つ、北の大国は、「機能を発動できない組織に先は無い」と安保理を含む国連のすべての組織から脱退を表明する。
脱退を表明した北の大国は、突如として隣国への電撃攻撃を開始。
名目は
「隣国が行っている『世界の警察』へ武器供与を止めるため。アフリカの混乱を助長する唾棄すべき行為。我々はアフリカ大陸の平穏を望んでいる」
としていたが、現存しているデータからはその内容が本当であったかは定かではない。
正否はともかく、名目を掲げ突如として進行を開始した北の大国の動きをけん制するため、欧州連合を組織するヨーロッパ各国も国連の決議を待たず、北の大国の隣国への援助を開始。
多くの常任理事国を失った国連は、その機能を全うする事が難しくなり事実上の解体を余儀なくされた。
簡易レポート 〇〇四
世界大戦が齎した技術の進歩
大戦は様々な国を巻き込み、時に膠着状態や小康状態になりつつも、一〇年の長きにわたって行われた。
そんな大戦期の一〇年で、人類の科学技術は飛躍的に進化を見せた。
残念ながら、人類と言うのは同胞を滅するという目的があると驚くべき進化を見せるらしい。
様々な兵器が開発・使用されていく中、世界の警察と蜜月な関係にある極東の島国にて、今の世の礎となるとある技術の開発が成されていた。
【ナノマシン】
当時開発されたばかりのナノマシンは、兵士一人一人の体調や感情の起伏の把握や調整と言った程度のものであった。
その程度のものではあったが、特に感情の起伏の調整については、兵士として任務遂行にあたって不必要な「恐怖」などを抑圧する事にある程度成功した。
アジアの大国側から「甚大なる人権侵害。兵士を道具としてしか見ていない」などと言った多大なる批判を受けることとなったその技術だが、強い非難が示す通り、拮抗していた戦況は世界の警察側に傾いていった。
簡易レポート〇〇五
一〇年もの月日を費やした大戦の幕切れは、突然訪れた。
人類の発明史上、最悪の爆弾を積んだミサイルが、優性を保っていた世界の警察本国へと打ち込まれた。
残念ながら戦争の幕引きを行ったこの一発が、どの国から発射されたのかは、大戦から長い年月の経った今の時代では定かではない。
ただ一つ分かっているのは、それにより世界の警察はその体を保つことが出来なくなった――ということだけだ。
そしてその代わりとばかりにアジアの大国へも報復のミサイルが撃ち込まれることとなった。
報復が報復を呼び、戦争に参加した各国の都市上空を、敵国の戦闘機が覆う最悪の事態へ――
最初の二大国へ行われたような最悪の爆弾こそ積んではいなかったものの、間髪なく降り注ぐそれはまさに天罰――
己が罪を裁かれるように降り注ぎ、至る所で上がる火柱の情景は、まさに終末思想の
たった一夜にして世界の地形も勢力図も変えたその
生き残った人々が身を寄せ合い、戦争の愚かさを嘆いていたその日、突如として地鳴りと共に雨雲が世界各地を覆った。
響く地鳴りと、やまぬ雨。
さながら地球のあげる慟哭は、三日三晩続くこととなった。
のちの歴史家はこの長雨を亡くなった人類への「地球の涙」と称し、以降この三日三晩は
簡易レポート〇〇六
未知との遭遇
それが初めて発見されたのは、
そこはアメリカ大陸のとある地域。
初めは遠目だったこともあり見間違いとされていたその目撃証言だが、それから日を待たずに世界各国で様々な異形の目撃証言が上がる事となる。
ある者は「聖書に記された悪魔を見た」と言い、
またある者は「絵本で読んだ怪獣」だと言い
更にある者は「ゲームに出てくる
異なる目撃証言ではあったが、それら多くの目撃証言には共通することが二つ。
彼ら異形は――空想や神話に描かれている存在。
彼ら異形は――人類に明確な敵意を持っている。
初めのうちは山奥や人里離れた地域ばかりであった目撃証言だが、最初の目撃証言よりおよそ五年、遂には都市部でも目撃されることとなった。
かつての幹線道路を闊歩してきた緑色の皮膚をした大男は、瞬く間に
簡易レポート 〇〇七
人類の後退
都市部で発見された異形と、それによる白昼の大虐殺は、当時の警察組織に多大なる被害を出しながらもなんとか鎮圧された。
この事件を受け、わずかに残っていた国家と言う組織は、各自が協力してその異形の調査と討伐に乗り出すことを決定する。
だが、様々な討伐隊や調査隊のどれもがあまり成果を上げることは叶わなかった。
まず第一にそもそもの生態が分からないという事。
加えて当時人類が主力としていた銃火器の類が、彼ら異形の多くにあまり効果を発揮しなかったという事が挙げられている。
初期討伐中に異形の同士討ちという偶発的事故から、「彼らが持つ爪や牙、角といった体組織が効果的である」という調査結果は人類に一時希望を持たせたが、
そもそも爪や牙など素材を取るための異形を討伐する事が困難。
素材の加工技術が未熟なため、単純武器しか作成できない。
という二点が人類に新たな絶望をもたらせた。
相手に有効打を与えることのできる武器を持ったとしても、身体能力で遥かに劣る人類が、剣や槍などで異形と渡り合える可能性は皆無に近かったからである。
結局、異形に対して有効な打撃を与えることが出来なかった人類は、その生存圏を狭めていくことを余儀なくされることとなった。
簡易レポート 〇〇八
極東にある異世界
更にその生存圏も年々狭まり、刻一刻と種の滅亡が近づいている事を、多くの人類が実感していた。
だが、その中にあって異形に対して優勢とはいかずとも、ある程度拮抗した状況を保っている地域が一つだけあった。
かつての大戦時、ナノマシンを開発した極東の島国――。
既に大戦後をもって、かつてその島国を治めていた国家自体の概念は一度消失したが、島国特有の隔離された環境か、とある大企業を母体とした組織により、即座に国家に近い形態を取り戻した数少ない地域の一つであった。
この驚異的な秩序回復スピードの要因は、元来の「真面目で勤勉な国民性」とも、「リーダーシップを持たない事なかれ全体主義の国民性」がいい方向に作用したとも言われているが定かではない。
ここで問題なのは、何故この地域だけが、唯一当時の技術で異形に対抗する事が出来たのか。という事だ。
今の世から考えると、対抗と呼ぶには些かお粗末な抵抗ではあったものの、ただ攻め込まれ続ける他の国家や地域に比べれば、はるかにマシな結果を残していたのは現存しているデータから見ても明らかである。
その要因は定かではないが、一説にはその地域に数多く生息していた「オタク」という人種がその功を担っていたと言われている。
彼らの多くが、空想から飛び出してきた異形に対する生態に詳しく、(驚くべきことに自国の神話体系や物語以外の異形に対する造詣も深かったと言われている)それらの生態を考慮した作戦が功を奏していたと言われている。
簡易レポート 〇〇九
極東の消滅
苦戦する人類を尻目に、拮抗状態から反撃に打って出た極東の島国。
世界中の人々が固唾を飲んでその作戦を見守る中、彼らが満を持して投入したのは近代武装とは程遠い、剣や槍といった原始的な武器を持った男女八人。
――対異形特殊部【八咫烏】――
まるで物語から抜け出した英雄のごとき強さで異形を屠ったという。
その光景は人々に希望と言うより疑問を持たせた。
「彼らは本当に人間なのか?」
その疑問に対する極東側から得られた解答は――
「彼らは異形の遺伝子をベースにしたナノマシンを組み込んである。
屠った異形を体内に取り込むことでナノマシンがそれを分解再構成し、宿主の肉体をより強く改造する。――端的に言えばレベルアップが可能な新人類だ」
――この解答は世界を再び割る事となった。
元となった人間の人権侵害だという意見。
人類に希望を持たせる画期的な技術だという意見。
そんな中、極東同様、欧州を始めアジアやアフリカなど各地域をを纏めた企業や国家、団体からある申し出がなされる。
「今回活躍した八人の英雄たちに人体実験などの大きな人権侵害がなかったかどうかの調査を」
この申し出に対して、極東をまとめるトップは承諾し、欧州地域をまとめる企業組織を主体とした調査団を受け入れることとなった。
その調査により出されて結論は、
「彼らのナノマシンは未だ実用段階には程遠い。これは明確な人体実験である。このような事は許されてはならない。我々は彼らを軽蔑する」
と言ったものだった。
つまり、当時の世界はこの技術を――
八人の人間に対する多大なる人権侵害
と結論付けた。
これに対する極東側は
「ナノマシンの投与は大戦時から行われていた事であり、我々の開発した新たなナノマシンも実用化に耐えうるものである」
という回答を発した。
だがこの回答には、世界のみならず当該地域でも大きな反発があがることとなりる。
この結果、調査から一ヶ月もたたぬうちに組織は解体されることとなった。
国家に近い秩序を保っていた組織が解体されたことにより、極東の島国を保っていた国家概念は完全に消滅し、五年と立たぬうちに、美しかった島国は異形に埋め尽くされ、人類の生存圏を示す地図から消滅することとなった。
簡易レポート 〇一〇
【人文再生機関】と【人類統一会議】の設立
極東の消滅により、再び人類は後退していくこととなる。
後退を繰り返し、ついに反抗できるのは極東にNOを突きつけた、かの欧州地域を残すだけとなっていた。
だがその後退を押し留めたのは、皮肉にも十数年前「多大なる人権侵害」とまで言わしめたかの技術であった。
後退を繰り返す日々に突如として、調査団の一つを務めたある組織が、極東同様の異形の遺伝子ベースのナノマシンを組み込んだ人類を生み出したと発表。
このマッチポンプのような事態に当時の世間は酷く反発したものの、当の組織からは
「我々のこの技術は、極東のそれとは全く別の技術であり、既に実用に耐えうるレベルである。人体実験の必要はないため何ら問題はない」
との一点張りの回答がなされた。
回答を受けて、世間の反発は熱を帯びたものの、
人類の後退が著しく、もはやインフラの維持すら困難になってきていること。
極東が投入した【八咫烏】とは違い、全て成人済みであるという事(極東が投入した【八咫烏】は成人していない人物もいた)
極東と違い、マウスや他の動物での実験データを詳細に提示した事(【八咫烏】の時はデータの提示等はなく、それもあって人体実験への信憑性がまことしやかに囁かれた)
以上の三点から反対意見は下火になっていった。
ともかくこの新人類の出現をもって、長らく後退していた人類は少しずつ反攻に打って出るようになった。
人類に希望を持たせた組織として、彼らは各都市ごとでバラけていた組織を一つにまとめあげ、【人文再生機関】という巨大な組織として再編を果たす。
そして【人文再生機関】内における最高意思決定機関として【人類統一会議】を設立し、全人類の協力と融和を唄い、現在に至るまで異形との戦闘において先頭に立っている。
簡易レポート〇一一
能力者と魔法という特異な力
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「なっげぇーわ!」
叫んだ青年がスクロールしていた指を止め、腕につけたデバイスの電源を切る。
「ピッ」と言う電子音と共に、中空に浮かんだ半透明のホログラムが消失する。
『…で、でもユーリさんが言ったんですよ? 「戦う理由が分かんねーんだよ」とかなんとか言って』
ユーリの耳、そこにつけられたイヤホンから若干不満そうな声が漏れてくる。
「…いや、あれは――」
その声に苦笑いを隠すように右の掌で顔を覆うユーリ。
ユーリとしてはもう何度目になるのかわからない質問をはぐらかす目的で言っただけだった。
(ま、本当の事なんて口が裂けても言えない訳で…)
と再び「戦う理由が分からないのであればこれをどうぞ」と送られてきた大量の簡易レポートを立ち上げスクロールしてみる。
(真面目なのか天然なのか…)
上下にスクロールしてみたものの、全部読めば日が暮れてしまいそうな量にユーリは肩をすくめながら立ち上がる。
「……戦う理由はいいや。とりあえず人類の為って事だろ」
『はい、そうです!』
イヤホンから流れてくる答えはまるでなぜかとても嬉しそうだ。
「んじゃま、人類の為ちょっくら行ってくるわ」
伸びをするユーリの耳に、オペレーターの声が届く、
『システムオールグリーン。バイタル、コンディション…
「んじゃまー行ってきまーす」
ユーリが飛び出した世界の先には、無数の
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