人間関係に疲れて離島の高校に入学したら、生徒が俺と美少女の二人だけだった件。

海の家

プロローグ

「あーもう!全部めんどくさいんだよ!」


 教室中に俺の声が響き渡る。

 隅で俺の方を見て、コソコソ話す奴ら。

 グループで群れをつくり、俺を笑う女子。 


 そしてなにより目の前でスマホをいじっているカースト上位の男子ども。

 その全てが嫌に思えた。


「おい、いきなりどうしたんだよ。座れよ」


「それなー、怜司すべってるで」


 俺のクラスは別に表立っていじめが横行してるわけじゃないし、学級崩壊している訳でもない。

 だが、俺はこの教室の空気には耐えられそうになかった。

 

 口には出さないが、暗に示されているスクールカースト。

 生徒同士のご機嫌取り。

 全員がこの歪な空間を諦めている雰囲気。


 大人たちは言うだろう。

 これが社会の縮図だと、それも勉強だと。

 こういう世の中を上手く渡っていかなければダメなんだぞと。


「何でもないよ」


 中3の10月、この日を境に俺は学校に行くことを辞めた。




***




「………マジでなんもないな。人住んでるのか?」


 上陸一言目が、これなんて思いもしなかった。

 けどしょうがない。

 だって、目の前に人っ子一人いないんだから。


 年が明け、春が来た。

 俺は今、人口400人ほどの島―佐熊島にいる。


「えーっと取り敢えず学校に行けって言われたけど……」


 ポケットからスマホを取り出し、マップを開く。

 一応、ネットは入るみたいなのでそこは一安心。


「1キロちょいなら歩きで行くか」


 少し凸凹している舗道を歩きながら、俺は島に来る前のことを思い出す。


 不登校になった俺が勧められたのは、この佐熊島に唯一ある私立高校への進学だった。

 どこから仕入れた情報から分からないが、勧めてくれた両親には感謝しかない。

 

 聞けば入学する高校には生徒が俺を含め三人しかいないらしい。

 それならば下手な人間関係に悩むことはないだろう。


「ね、ねね」


 左手にはどこまでも海が広がっている。

 都会の真ん中で生きてきた俺には新鮮な光景だ。


「ねーね、聞こえてる?」


 しかし、この島には本当に人がいるんだろうか。

 右手には車道があるが、車が通る気配はない。


「てかそもそも車あんのかな」


「あるよ!うちの島にはタクシーがあるんだからね」


「へー、タクシーあるんだ。使えばよかったな」


「ふふふ、残念でした!タクシーは平日お休みです」


「平日休みのタクシーって意味あるの?……てかお前さっきから誰だよ」


「よくぞ聞いてくれました!」


 風に乗った甘い香りが鼻をくすぐる。

 その香りに促されるように俺は後ろを振り向いた。


「ようこそ佐熊島へ!」


「お、おう。ありがとう」


「私は桑島千夏だよ。千夏って呼んでね」


 千夏と名乗った彼女は、笑顔で俺の返答を待っていた。


 ただ、色々突っ込みたいところがある。

 まず服装だ。

 なんでまだ学校が始まっていないはずなのに制服を着てるんだこいつは。


 それに、いきなり声をかけてくるのも怪しい。

 こいつもしかして、新手のキャッチじゃないか?

 やっぱりこんな島じゃ稼げるところがないから本土から来た人を狙って……。


「ごめんなさい。俺、そういうの間に合ってるんで」


「何が間に合ってるの?!私まだ何も言ってないよね?」


「いや大丈夫です。俺今から学校に行かなきゃいけないんで失礼しますね」


「知ってるよ!だから私が声かけたんじゃん」


 そう言うと彼女は俺の横に並び、前方を指さした。

 目を向けると、そこには隆起した岩が海原に聳えていた。


「あれが、我が佐熊島名物の烏帽子岩です!さぁ次行きましょう!」


 手を握られ、引っ張られる。

 俺は彼女の後ろを追うように走り出した。


「ちょっと何?いきなり怖いって」


「怖いってなんだよー。あ、ほらそこにあるのが君が住む予定の宿だよ」


「へー意外とでかいな。一階はお食事処なんだ……ってなんで知ってんだよ!」


「あははは!ほらほら走ってー」

 

 彼女は俺の質問に答えようとせず、更にスピードを上げた。

 俺もこけないように足を速める。


「ここが島で唯一の病院です。ま、診療できるものも限られてるからヤバイ時は本土からヘリが来るよ」


「え、ヘリ来るの?すげえな佐熊島」


「呼ばないに越したことないけどね。ほらもうすぐ学校だよ!」


 視線を前にやると、昔懐かしの木造建物が見えてきた。

 一応、校門らしきものもあり『佐熊学園』と彫り込まれている。


「ちなみに高校の部の生徒は二人だよ。ま、そのうちの一人は私なんだけどね」


「……お前同級生だったの?てっきり観光客をぼったくる悪徳案内人かと」


「悪徳案内人ってなによ!え、話いってなかった?私先生に君のこと学校まで連れてくるように頼まれたんだけど」


「え、聞いてない」


 二人して目を見合わせる。

 どうやら俺が勘違いするに至った犯人は別にいるらしい。


「いやでも悪徳案内人って………私のどこが怪しいの!」


「しょうがないだろ。本土から来たやつに制服姿でいきなり話しかけてくる奴なんて怪しすぎるじゃん」


 まぁ実際に一番疑ったのは、彼女の容姿だ。

 正直、本土でもここまで可愛い人は見たことがない。


 くっきりとした顔立ちに、引き締まったスタイル。

 後ろで結ばれた髪からは元気な印象が感じられる。

 なによりも笑顔が眩しいくらいに魅力的だ。


 街中でここまで可愛い女性に話しかけられたら、真っ先に変な商売を疑ってもおかしくないと思う。


「むぅ……」

 

 じっとこちらを見つめてくる視線を無視し、校門を通り抜ける。

 校舎は近くでみると、より年季を感じられた。

 

「ここで三年間過ごすのか」


「そうだよー。私と君とで三年間過ごす校舎だよ」


「……そうだよな、二人きりなんだよな」


 先のことは全く分からない。

 けど、取り敢えずは一歩踏み出すしかないだろう。


「三年間よろしくな」


「うん!よろしくね!」


【あとがき】

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