033 いざ王都!

「リディア様。明日から王都へ出発するわけだが、護衛は誰についてきてほしい?」

「護衛? 私が選んでいいんですか? じゃあ、ガルディンさんで」

「即答かよ。どうして俺だ?」

「一番強いからというのと、あっちでも訓練につきあってもらいたいですから」

「なるほどねぇ」


 なぜ彼がそんなことを訊いたかというと、今回の王都行き、家族の護衛が別に必要になるからだそうだ。

 もともと王都への旅自体は安全であり、父付きの騎士たちもいるし、そもそも父が太陽紋を持つ紋章士であるわけで……要するに常駐騎士をわざわざ随伴させるほどのことではない。

 だが、王都で過ごしている間のことはまた別。ラピエル領は治安が良いわけではないが、結局ただの田舎なので、悪いといっても底が知れた治安の悪さなのだ。逆に王都となれば、また別種の治安の悪さがある。

 そういう意味でも護衛は必須。父付き騎士は家族の護衛に割けないというか、彼らには彼らの仕事がある。それで、一人だけ連れて行くということで、その選択を私に委ねたいということらしい。


「ずるいですよ、隊長! リディアお嬢様なら隊長がいいって言うに決まってんじゃないですか! 一番なついているんだから!」

「バッカ野郎、一番強いからだって言ってたのを聞いてなかったのか? 悔しかったら俺に勝ってみろ!」

「勝てるわけないじゃないですかァ!」

「横暴だ! くじ引きによる抽選を希望する!」


 他の騎士たちがわめき出す。

 どうやら彼らにとっても王都は魅力的な場所らしい。

 まあ、そりゃそうだ。田舎でずっと訓練やら魔物退治やら治安維持なんかの仕事をしているより、領主の護衛として都会に行くほうが楽しいだろう。

 王都には、この田舎町にはないものもたくさんあるだろうし、若い騎士ならなおさら。

 でもまあ……だとしてもガルディンさんがいいな。

 一番話しやすいし、6歳児だと思ってバカにしないしね。


「とにかく、護衛はガルディンさんにお願いします。騎士さんたちも留守中、領内の警備よろしくお願いしますね」


 ニコリと笑いかけると、騎士さんたちも苦笑いを浮かべた。


「お嬢様がそうまで言うんじゃ仕方がねぇな! 隊長、おみやげ期待していますよ!」


 ハッキリいって、今回の王都への遠征は式典への参加がメイン行事であって、別に危険はない。

 道中は多少の危険があるかもだが、父とガルディンさんがいれば、よほどのことがない限り問題にもならないだろう。

 というより、怨霊の記憶でも、取り立ててなにがあるわけでもなさそう。というか、さすがに他人の6歳時点の記憶をピンポイントで引っ張り出すのは、ほとんど無理。

 ただまあ、取り立てて思い出すような記憶がないってことは、特になにもなかったのだろう。


 それにしても王都か。

 私も、将来は「学園」への入学を希望しているのだ。

 どんなところなのか様子を見に行くのもいいだろう。

 情報も持っていないし、そもそも何歳から入学できるのかも知らないわけだしね。

 ていうか、そもそもホントに実在するのだろうか、学校。

 怨霊の記憶は噂話レベルのものが多くて、あんまり当てにならないからな……。


 ◇◆◆◆◇


 話は少し遡るが、王都へ出発まであと2日。

 私たち家族は準備に余念がなかった。

 田舎だろうと領主は領主。上位貴族と言っても良い、伯爵様である。

 貧乏臭さ全開では物笑いの種だ。


 母はドレスの仕立てを急がせ、私のドレスもなんとか間に合った。

 母のアクセサリーは、赤珊瑚の豪華なネックレス。

 指輪は清楚に魔導銀ミスリルの3連リング。

 

 私はまだ6才児なので、アクセサリーはなし。

 こっそり買った小学生がはくような半ズボンと、動きやすいチュニックを荷物に入れ、ドレスもケースに収納。王都まではいつも着ているような木綿のワンピース――というか普段着で行くのである。

 王都では個人的にもっと良い剣が欲しい。

 私がの持っている剣は、片手剣で刀身も薄い、さらに刃を潰した代物。

 クロエの剣はさぞかし強いだろうが、魔力を吸う魔王仕様の剣だし、見た目も豪華すぎるし、普段使いしたくなさすぎる。

 正直いって、騎士が使っている普通の剣くらいのもので十分だ。むしろ、収納があるから、質より量を重視したほうが良い可能性すらある。剣って、刃がダメになったり欠けたり折れたりするし。

 

 あの日、レイスの討伐依頼をこなしてからも、いくつかの討伐依頼をこなした。

 ただ、「例のリディアお嬢様似の坊主」を密かに探していたガルディンさんと鉢合わせになりそうになったりした。まあ、ドッペルは自らを任意で消すことができるから、問題なかったが。

 基本的にクロエが付いてきてくれたから、ギルドでは特に追求されずに済んだ。クロエさまさまである。


 そんな状態でも、金欲しさにいくつかの依頼を受けたが、騎士たちがどうもガルディンさんと連携して、私を探っており、最終的にはギルドにもその権力が及びそうになり、それ以上の依頼を受けるのは止めておいた。

 さすがに、身内に見つかればバレるし、ガルディンさんは魔法を間近で使えば気付きそうであり、完全にリスクだ。。

 なにより、私とドッペルはどこからどう見ても同一人物なわけだし。


 いっそ、全部言っちゃうというオプションも考えなかったといったら嘘になるんだけど、じゃあ、どこまで言うのって話になる。リディアの魂の消滅やら怨霊の話をすれば、「中身」であるところの「私」の正体にまで言及しなければならなくなる。

 だが、彼らが忠誠を誓っているのは、伯爵の長女である「リディア」だ。

 中身はどこの馬の骨とも知れない喪女でぇ~~~す! なんて言えるわけがない。彼らの心情としても、そんなこと言われたら辛すぎるだろう。

 もうリディアは存在しないと言うのと同義なのだ。

 ……無論、薄々は、なにかが変だとは思ってはいると思う。

 見せている分だけでも、私はすでにちょっと異常な6歳児なのだろうから。


「ま、そんなこと考えても仕方がない! 前向きにいこう前向きに!」


 私は荷物をまとめながら自らを鼓舞した。

 お金はまあまあ貯まった。6歳児としてはかなり金持ちだと言えるだろう。


 王都行きまでの話はこんなところだ。






 ◇◆◆◆◇






 フレイムバード王国中興の祖、リディア・ティナ・フレイムバードの生涯は謎に満ちている。


 なぜ彼女が、創世神が世界で最初に統一王へと贈ったと伝えられる、失われし神器【覇王の冠】を所持していたのか。


 なぜ彼女が、古代100年戦争を終結させた勇者が手にしていたとされる【魔剣ミスティルテイン】を所持していたのか。


 なぜ彼女が、魔王の証である【魔杖ニヴルヘイム】を所持していたのか。


 記録では、彼女は「親友から預かった」と微笑みながら答えたとされている。

 その親友が何者なのか、それを知る手がかりは一切残されていない――





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