030 複数紋だ!
「やった……! ついにできた……!」
「やったわね……!」
「おお~……。できるかどうか、実は半信半疑だったんだけど、本当に可能とはお姉さんも驚きだわ」
私はドッペル・リディアとクロエと、三人で喜びをかみしめていた。
ついに、二つの紋章を発動することに成功したのだ。
話は少し遡る。
まず、ここまでになんとほぼ2ヶ月もかかった。
毎日、少しずつだが魔力を操作する感覚を覚えていったのだが、それで発動に至るほどの魔力を流すのは想像を絶するほど困難だったのだ。
実際のところ、今の私の魔力では最低でも6割は使わなければ紋章を発動させることができない。
糸口こそあるものの、なかなかうまくいかない時間が続いていた。
太陽紋と収納紋だけではなく、他の組み合わせも試した。
その流れで、月光紋と火炎紋も発動させられることを確認した。
つまり、単独でなら私が知っている紋章は4つとも発動させることができる(もちろんクロエの紋章は無理だけど)。それはそれで良かったのだが、複数発動はどの組み合わせでも同じように困難だった。
糸口となったのはクロエの「じゃあ、前に言ってた邪道な方法試してみる?」という言葉だ。
月光紋の「
クロエによると「こんな単純な魔法、魔族なら誰でも使える」といのことで、実際、クロエはなんと私が求めていた「魔力を減らす魔法」つまり「マナドレイン」も使えるとのこと。
クロエに言わせると、私が知っている――というか、神殿で扱っている紋章はすべて「低レベルなものだけ」で、不自然とのこと。まあ、クロエに言わせると「考えられない低レベル魔法」である太陽紋が一番人気なのだから、単純に需要の問題という気もしないでもない。
そう考えるとクロエの紋章は、史上最大級の「大物」なわけで、めちゃくちゃピーキーで使いにくく意味不明な魔法である可能性が…………いや、そこはもう考えないでおこう。勇者は使いこなしているようだったし、大丈夫大丈夫。
とにかくである。魔力譲渡による切っ掛け作りは効果があった。
二つ目の紋章に魔力が送られることで、紋章が反応している感触があった。
あとは、その感触を再現するように魔力を少しずつ送っていくだけ……だったわけだが、まあ、それも言うは易しというやつで、もどかしく辛い時間が続いた。
クロエによると、人間の魔力はほとんど色のない無垢なる魔力で、その魔力が一番『紋章』と適応しやすいのだが、すでに1つ紋章を入れた後だと無垢なる魔力の割合が減り、紋章へと魔力を通すのが難しくなる……とかなんとか。
まあ、それもあくまで難易度だけの問題であり、魔力操作に慣れればどうにでもなるというクロエのアドバイスに従い、魔物狩りもそこそこにドッペルはずっと魔力操作の訓練。
まあ、まさに特訓の日々だったというわけだ。
そして、そんな日々の集大成は突然にやってきた。
「さて、今日もがんばりましょう」
「じゃあ、私が背中に書くわ。サイズというか朱墨の量も、一番少なくて済む太陽紋と、一番多く必要な収納紋とで試してみましょう」
「なるほど。燃費の良い紋章を小さく書けば、吸われる量も減るってわけか」
「たぶんね」
ということで、本体である私がドッペルの手のひらに太陽紋を描き発動。
その後に、背中にでかでかと収納紋を描き、複数紋章の発動実験、再チャレンジ。
最初はそれでもうまくできなかったが、何時間も集中して魔力を通し続けることで、ついに発動させることができたのだ。
少しずつ赤みを増していく収納紋が、ついに真っ赤に輝いた時の興奮は忘れがたい。
「どう? どう? 感覚つかめた?」
「つかめたつかめた! やっぱり大きく書いてもらったほうが楽みたい」
「じゃあ、この流れで3つ目もいこう!」
「うそでしょ!?」
嘘じゃないんだな、これが。
紋章は発動時に魔力が回復する。
つまり、魔力量は十分にあるのだ。
――そんなこんなでさらに10日。
私は、3つの紋章を同時に発動させることに成功したのだった。
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