第16話 京都奈良全力ふたり旅―天龍寺


 御室仁和寺駅から終点の嵐山駅まで嵐電に乗り、いざ駅前の天龍寺へ。


 天龍寺。2回目であるが、前回来た時は夜だった。忘れもしない。中学の修学旅行で座禅体験を行ったのがこの天龍寺であった。


 おそらくあの頃、修学旅行生の浮わついたノリに辟易していたのだろう、座禅担当の僧侶に開口一番「やる気のない者は今すぐ帰って良い!」と一喝された記憶が甦る。


 あ、私が、ではなく生徒全員が、である。


 暗闇の寺、良く通る低い声で一喝される修学旅行生。


 全員を震え上がらせ、日々調子付いていた者たちまでも黙らせてしまったのだからそのお坊さんはすごいのだが、無害な生徒までをもビビり倒させたのはちょっと気の毒な気もする。私も怯えた一人であったが。


 そんなわけで天龍寺=怖いというイメージでそれ以降近寄ることはなかった。怖かったんだもん。


 だが庭好きの連れがどうしても行きたいと言うので、久しぶりに行ってみることにしたのだった。


 嵐山の駅前は相変わらずの原宿と化しており、のんびり見る気にもならないので足早に通り抜け、すぐ前の天龍寺へと足を踏み入れる。


 修学旅行の時は夜に観光バスで乗り入れたため分からなかったが、ずいぶん広くて立派なお寺なのね……。天龍寺と言えば庭園のイメージなのは知ってたけど……。


 にしても、やはりここも観光地化していて観光客がめちゃくちゃ多かった。まあ、嵐山駅の目の前だし、庭園は有名だしね。


 まずは御朱印をもらって、次に拝観料を払って法堂の八方睨みの雲龍図を観ることにした。これも期間限定の公開なのかな?


 こちらの雲龍図は1997年に完成の、まだ歴史の浅いものではあるが迫力は満点である。椅子がいくつも置いてあるので座ってゆっくり観賞しても良いし、いろんな位置から見上げてみるのもおもしろい。


 私は例によってぐるぐる回りながら観賞し、ついでに同じく法堂に安置されている仏像もじっくり見学させていただいた。ほお、天龍寺なかなか良い。


 法堂を出て、次は庭園を見に行く。こちらも別途拝観料が必要であるが、大方丈と呼ばれる本堂に上がって庭園を見学できる券と、お庭に下りて散策できるセット券の2種類があったので、セット券の方を購入。庭から北門へと抜けると、そのまま竹林の道へ出られるようだ。


 大方丈へと上がると、広々とした立派な庭園が目に入ってくる。風の通る畳敷きのお部屋にゆっくり座ってお庭を眺めるのも気持ち良さそうだが……ここって……まさに怒られたところでは……。


 こんなに景観の良いところで一喝された私たちって一体……。


 だがちょうどお部屋は満員だったので、先に他のお部屋などを見て回り、戻ってきたところで少し休憩を兼ねて畳の上に腰を下ろした。


 大きな池と、それを取り囲む大きな石、木々。建物を含めて完成する大きな庭園は、確かに見事である。涼しいし。


 だがふと気付く。


 お庭を散策してる人たち、圧倒的に外国人ばかりだ。日本庭園めちゃめちゃグローバル。国籍も多種多様。海外の人から見ると、やはりこういった寺社仏閣、日本庭園と言うのは魅力的なのだろうか。


 日本人があまり見向きもしないものに価値を見出だす外国人も多いしね。

 

 すこしの休憩を経て、次はお庭に下りて北門へ向かう。北門までは少しの傾斜があり、様々な植物、花を楽しむことができた。


 特に紫陽花が印象的で、見たことのない種類の紫陽花が咲いていた。ピンク色で、三角形の額の紫陽花。名前をメモしてくるのを忘れてしまったが、とても可愛い紫陽花だった。


 散策路に沿ってせせらぎが流れている。こういうところもまた風流だ。


 やがて北門にたどり着くと、その先に竹林が見えてくる。竹林の道を歩くのも久しぶりで、前回は冬の花灯籠はなとうろうの時だったと思うが、やはり夜。迷わず歩けるだろうか。


 竹林の道から常寂光寺へ行けるはずなのだが、ひとまず行ってみよう。


 両脇が竹林に囲まれた結構な上り坂を上っていくと、大河内山荘前に出た。昔の俳優さんの別荘だったか、ここも庭が有名なのだが、私は興味がないので黙っておこう。


 広い大河内山荘に入ったら、常寂光寺もその先の予定も多分無理。


 一つくらい行きたいところに行かせてくれぇ。

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