第18話 幼馴染の家でゲームをした
「わたしの家でゲームしよう」
俺は幼馴染の女の子の家に誘われた。
そう表現すると何か特別なイベントのように聞こえるけど、実際にはそんなことはない。
今までにも
最近はオンラインで「Predators」ばかりプレイしていたけど……たまにはアリだな。
「久々に他のゲームを遊ぶのも悪くないな」
そんなわけで、俺は予定を変更し、電車に乗って瑠衣花の家を訪れた。
高校入学以前は近所に住んでいたので、俺と瑠衣花は頻繁に互いの家に遊びに行っていたが、新居に来たのはこれで二度目。
その時は父さんと一緒に、引っ越しの手伝いとお祝いを兼ねて軽く挨拶をしに行っただけなので、新しい瑠衣花の部屋に入るのは初めてだ。
「飲み物取ってくるから、適当にくつろいでて」
部屋に入ると、瑠衣花はそう言ってすぐに出ていった。
俺は一人、瑠衣花の部屋に残される。
(ゲーマー女子……って感じの部屋だな)
大きなデスクにパソコン、複数のモニター。
部屋の角に置かれたテレビにはゲーム機が接続されているし、本棚には本の代わりにゲームソフトのパッケージが並べられている。
あまり飾り気はなく見た目よりもゲームに没頭することを何より重視した趣味部屋だ。
「さすがは俺以上のゲーマーだ……」
そんなことを呟きながら部屋を見回していて、俺はある物に目を止めた。
「お、これは確か最近出たマウスだよな」
俺が気になったのは、デスクの上に置かれた最新のゲーミングマウスだ。
興味を持っていたデバイスだったので、触ってみようと手を伸ばしてみる。
「それ、お小遣いもらったから買った」
ちょうど瑠衣花が飲み物をお盆に載せて戻ってきた。
「実は俺も買い替えるか迷ってるんだよな」
「わたしはこのマウスに変えてから調子がいい。
瑠衣花はデスクにお盆を置きながら、そう言ってくる。
実は最近、俺がここ数年愛用してきたゲーミングマウスの調子が悪い。
「瑠衣花がそこまで言うなら、本格的に検討してみるか」
「うん、お揃いにしよう」
瑠衣花はどこか満足そうにうなずいた。
「どうせなら買う前に瑠衣花のマウスを使って試してみたいけど、PCゲーだと一緒に出来ないよな……今日はどんなゲームをするんだ?」
「これをやる」
瑠衣花は棚からテレビゲームのソフトを一つ取り出した。
世界的に人気な格闘ゲームだ。
「コントローラーでゲームをするのは久々だ」
「ん、今日は気楽にできるゲームにした」
気楽……と言えばそうかもしれない。
瑠衣花が選んだゲームは、本格的な格ゲーと比べたら多少カジュアルな操作性で子供でも楽しめるよう設計されている。
けど、根本的には対戦ゲームだ。
二人でプレイすれば、一人は勝ってもう一人は負ける。
(瑠衣花って、FPSは上手いけど格ゲーは下手なんだよな……それなのに格ゲー好きで負けず嫌いだし)
今日は長くなりそうだ。
案の定、俺が予想していた通りの展開になった。
俺と瑠衣花の一対一で格ゲーを対戦して、現在は俺の30連勝中。
「む……次は勝つ」
「いや、いい加減諦めたら……」
「いいから、準備完了押して……!」
俺の一言が瑠衣花に更なる火をつけてしまったらしい。
瑠衣花の心はまったく折れる気配がなかった。
むしろやる気を燃やして挑んでくる。
そんな瑠衣花を見ていて、俺は思う。
(プロゲーマーを目指したいと思ったのも、瑠衣花のこういう負けず嫌いな姿勢に引っ張られたのがきっかけだったな……)
対戦ゲームが大好きな瑠衣花の影響を受けて、俺もその手のゲームをやりこむようになった中学生の頃。
俺たちはバトロワ形式のシューティングゲームである「Predators」でランクマッチをプレイしていた。
当時は明確な目標などはなくただ漠然と、強くなりたい、楽しみたいと思いながらゲームを遊ぶだけの一プレイヤーだった。
自分で言うのもなんだけど、割とセンスがあったらしく俺と瑠衣花は順調に勝ってランクを上げていた。
しかしある日、とんでもなく強い敵プレイヤーに手も足も出ず倒された。
その相手とは何度か敵としてマッチしたが、毎回倒されてしまった。
それがきっかけだったのかは分からないが、俺と瑠衣花は段々と負けることが増え、若干スランプに陥りつつあったある日。
件の最強プレイヤーが味方として同じパーティーにマッチングしたのだ。
「どうしてそんなに強いのか」
俺はゲーム内のボイスチャット機能で、思い切って彼にそう聞いてみた。
聞けば彼の職業はプロゲーマーであり、世界大会で優勝経験もある有名人らしい。
そんな会話をしながら一緒のパーティーでプレイして、俺はその人の強さに魅せられていた。
心の中に湧き上がってきたのは敬意……だけではない。
この人に負けたくないという、強い意地のような感情が俺の中に渦巻くのを感じた。
結局、負けず嫌いな瑠衣花に付き合ってずっとゲームに熱中できる俺は、知らない間に彼女から多大な影響を受けていたってわけだ。
「貴方に勝つにはどうしたらいいか」
俺の問いに対して、そのプロゲーマーはこう答えた。
「たくさん練習してプロになって、世界大会で1位になって誰にも負けない実績を残せばいい」
そう言われた時、俺の目標が固まった。
……この人を超える最強のプロゲーマーになりたい。
俺がそう決意した時だろう。
瑠衣花の負けず嫌いが発動したのは。
「プロは一人じゃなれない、チームメイトが必要」
瑠衣花はそう言い出すと、言葉を続けた。
「でも、葵には他の人じゃなくてわたしと一緒にゲームをしてほしい。だから葵がプロゲーマーになりたいなら、自分もなる」
まだ見ぬ俺の将来のチームメイトに張り合って、瑠衣花はそう言った。
あの時の俺は……正直、嬉しかったと思う。
(……あ)
過去のことを思い返しながら、格ゲーをプレイしていた結果。
31戦目にして、俺は瑠衣花に敗北した。
「……わたしの勝ち」
「トータルでは俺の圧勝だけどな」
「関係ない。最後に勝った方が勝ち……なので今日はこれで終わり」
いつも無表情な瑠衣花は、よく分からない理屈とともにドヤ顔を浮かべていた。
「……瑠衣花がそれで満足なら、この辺にしておくか」
こういう時、最終的に折れるのは俺の役目だ。
自分でも言ったけど、トータルでは30勝1敗だしな。
普通に考えたら俺の圧勝だ。
「ん、満足した。葵は楽しかった?」
「まあ……そうだな」
「それなら良かった。最近の葵、何かに悩んでいそうだったから」
「俺が……悩んでいた……?」
「うん。でも今日はゲームに没頭して楽しそうで良かった……いつも通りの葵が見られた」
確かに、他のことを考えずにゲームに熱中して時間を忘れていた。
気づけばもう夕方だ。
外を見たら、もう空が橙色になっている。
……どうやら、瑠衣花なりに気を使って俺に気分転換の機会をくれたみたいだ。
「ありがとう、瑠衣花」
「別に……大会も近いから、葵には全力で頑張ってもらわないと困る」
「確かに、今は目の前の大会に集中しないとな」
二週間後から、俺と瑠衣花がやり込んでいる「Predators」の大会が開催される。
出場するチームの多くは俺たちと同じアマチュアだが、この大会で勝ち進めばプロの出場する上位大会への出場権を得られる。
その上位大会で結果を残せば、プロチームからの誘いだってあるかもしれない。
そういう意味で、今度の大会は目標を実現するための足掛かりだ。
だから。
今は、他のことに頭を悩ませている場合じゃない……かもしれない。
姉さんとは、家族としては良好な関係を築けているわけだし。
取り急ぎ、問題はないだろう。
「……瑠衣花のおかげで吹っ切れた気がする。改めて、ありがとう」
「だから、お礼はいい。それより練習」
「そうだな。今日も帰ったら練習だ」
そう。
そもそも俺みたいなゲームしか取り柄のない奴に恋愛なんて時期尚早だったんだ。
◇◇◇◇◇
今は恋愛で頭を悩ませている場合じゃないと思い立った葵でしたが、弟くんを恋愛対象として認識したニノンが放っておいてくれるかは別の話。
次回はまたニノンにスポットが当たっていく予定です!
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