第12話 クラスの美少女に話しかけられた、その後で。
次の日。
日曜日の夕食には、一家全員が揃っていた。
我が家では俺が夕食を作ることが多いけど、今日は母さんが作ってくれた料理を食べている。
「まだ言っていなかったけど、明日から母さんと二泊三日の旅行に行ってくることにしたんだ」
食事中、父さんがおもむろにそう言った。
「それは……急な話だな?」
「予定していた仕事が急にキャンセルされて、二人とも余裕ができたからな。この機会を逃したら次の機会がいつになるか分からないし、思い切って休暇を取ることにしたのさ」
だからって、明日からいきなりとは。
まあ、でも。
その行動力があるからこそ、父さんと母さんはこうして再婚するに至ったって部分もあるんだろうな。
「新婚旅行ってことか。まあ、いってらっしゃい」
「二人とも、楽しんできてねー」
俺と姉さんは、父さんと母さんの旅行を歓迎した。
「きょうだいになったばかりの
母さんは俺と姉さんを微笑ましげに見てそう言った。
仲の良いきょうだい。
それが父さんと母さんにとっての、俺たちに対する認識だ。
「家のことは私に任せて!」
「家事をやってるのは大体俺だけどね」
「私の買ったハイテク家電だってちゃんと活躍してるよー」
姉さんと俺は、冗談半分で張り合っていた。
「ふふ。頼もしい子供たちを持って私たちは幸せね」
「そうだな母さん。本当に……結婚してよかった」
しみじみとそう口にする両親を見て、俺は思う。
……二人が理想とする家族の形を、壊してはいけない。
俺がどう思っていようと、姉さんが俺のことを「弟くん」としか認識していないのだから、尚更に。
でも、この家で数日間、姉さんと完全に二人きりになるって状況は嬉しいような、少し気まずいような。
「あ、そうだ。二人が旅行に行ってる間に、友達を呼んでもいい?」
俺の懸念は、姉さんの一言によって払拭された。
「
「別に問題ないよ」
父さんに聞かれて、俺は小さくうなずいた。
(けど、姉さんの友達ってどんな人だろうな……?)
以前姉さんは、配信関係以外の友人がいないという話をしていた。
もしかして姉さんの友人って、いつも絡みのあるVTuberとか……?
いや、そんな人を俺がいる家に呼ばないか。
その人たちの身バレにも繋がってしまうしな。
〇
月曜日。
放課後。
「あの、さ。
俺が自分の席で帰り支度をしていると、クラスメイトの女子が話しかけてきた。
校則に引っかからないギリギリのナチュラルな茶髪に、制服のスカートをかなり短くしていて、いかにも陽キャJKって感じだ。
クラスで一番の美少女と評判の王城さんだけど、基本的に同じクラスの女子グループと行動しているので俺と会話する機会は少ない。
いつもは関わりのないクラスの美少女が話しかけてきた。
一体何の話だ……?
「いいけど、どうかした?」
「図書委員の仕事、代わってくれない? 実は今日予定があって、急いで帰らないといけないの!」
クラスの片隅で過ごしているゲーマーの俺に青春っぽいイベントが訪れたりはせず。
(単に雑用を肩代わりしてほしいだけか……まあそうだよな)
俺と王城さんの唯一の共通点。
それは同じ図書委員であることだ。
本来、委員会なんて所属せずにさっさと家に帰ってゲームをやりたい俺だけど、この学校では部活に所属していない生徒から優先的に委員会に所属させられる風潮がある。
だから俺はやむを得ず図書委員をしている。
図書委員は各クラス二名いて、当番制で図書室のカウンターで貸出の業務などを行う。
今日は本来、王城さんが当番の日だ。
けど。
「まあ、予定があるなら仕方ないか。今日は代わりに俺がやっておくよ」
「本当!? ありがとう、めっちゃ助かる!」
「どういたしまして」
美少女から明るい顔でお礼を言われたら、悪い気はしないな。
「次に黒川君が当番の時は、私が代わるから。あと、それとは別でお礼もする!」
「当番の話はともかく、それ以上のお礼は別にいいよ」
「それじゃあ私の気が済まないから、いつか埋め合わせするね! それと……今日は話せてうれしかった!」
王城さんはせわしない様子で教室を出ていった。
(うん……?)
図書委員の仕事を肩代わりしてお礼を言われるのは、分かるんだけど。
話せてうれしかったって、どういう意味だろう。
まあ、気にしても仕方ないか。
〇
図書委員の仕事を終えて、いつもより遅い時間に帰宅した。
玄関に入ってすぐ、俺は見知らぬ靴がいくつか並んでいることに気づく。
(女物っぽいし……昨日言ってた、姉さんの友達の靴かな)
俺はそんなことを考えながら、手を洗うために洗面所の方に向かう。
扉を開けると、そこには。
全裸の女の子がいた。
「ニノンさん、どうかしましたか……って。え、あ、あれ……なんで?」
この家の住人ではない。
だけど、俺の知っている人物だった。
さっき学校で話したばかりのクラスメイト。
王城愛乃だ。
スタイル良いよなとは薄々思っていたけど、実際に見たらその通りだ……なんて、感想を抱いている場合じゃない。
「あー……ごめん」
俺は目を逸らしながら、謝った。
(何がどうなってるんだ……?)
この家の洗面所は浴室の隣にあって脱衣所も兼ねている。
王城さんはシャワーでも浴びるために、ここで服を脱いでいたんだろう。
だから、服を着ていない理由は分かる。
何故この家にいるのかは、分からないけど。
「ひゃああああ!?」
困惑していた王城さんは、少し遅れて叫び声をあげた。
◇◇◇◇◇
というわけで新ヒロインの登場です。
次回はニノンの連れてきた友達とお泊り会的なイベントが勃発……?
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