友達の家

姿形。

訪問

日曜日の15時頃、私は友達のE子の家に向かっていた。E子の家は私の家から徒歩で20分ぐらいかかる。

私の手にはコンビニで買ったお菓子が入っている袋と夕方には雨が降るらしかったので一応傘を持っていた。

住宅街、人気のない道を私は早足で歩いていく。E子は幼稚園からの付き合いで大の親友だ。私が遊びに行ったときはバカ話に花を咲かしたり一緒にゲームで盛り上がったりしている。


E子の家に着き玄関のチャイムを鳴らす。

いつもはE子の母親が直ぐに返事をしてくれて、玄関は私のために開けてるから入っていいよと言われる。はずだった。返事がない。返事がないのでもう一度チャイムをならしてみる。…返事がない。私は大きな声で「E子!来たよ!」と言ってみるがまたしても返事がなかった。

この時間に行くって言ったのに、E子もいなければ親もいないのだろうか…私はそう思い玄関のノブを捻ってみる。

ガチャッと音がした。

なんだ開いてるじゃんっと思いドアの隙間から家を覗き、「E子!来たよ!」と大きな声で言った。静寂、なにも音がしない。あまりに返事が返ってこないので私はE子に電話でもしようと玄関の扉を閉めようとしたとき、家の2階から、ドンドンッと音がした。反射的に私は玄関から見える2階に続く階段を見た。

「部屋の前で待ってて!部屋の前で待ってて!」と慌てているような声がした。E子の声だった。

私は「分かった!入るね!」と言い玄関に入って、傘を傘立てに置き靴を脱ぐ。

なんだE子昼寝でもしてたのかなと考え、階段をトントンと上がってE子の部屋の前まで来てノックをする。

「E子ぉ、何してたの?私との約束忘れて家族と出掛けてるのかと思ったよ」

シーンとする。返事がない。

またコンコンとノックをする「E子二度寝?開けていい?」と言いドアノブに手をかけた。

「まあだだよぉ!まぁだだよ!」

と叫び声が聞こえた。体がビクッと反応した。静寂。持っていたビニール袋がガサリとなる。E子の声だが何かがおかしい。心臓が高鳴る。部屋にいるのはE子でしょ?まあだだよってなに。

部屋の中からバタバタバタバタと走り回っている音が聞こえ始めた。1人の足音とは思えなかった。

私は恐ろしくなりドアノブから手を離した。

階段の手すりに手を置きゆっくり下に降りようとしたとき

「もぉいいよ」

とE子の声がした。明るい声。

「入っていいよ。遊ぼう!」

E子の声だが違和感がある。

ガチャガチャガチャガチャッと部屋のドアノブが中から激しく回される。ドンドンドンとドアを叩く音。

私は階段をかけ降りた。玄関に立ち、靴を履こうとするが上手く履けなかったので靴の踵を踏みつけて外に出るため玄関のノブを回す。が開かない。

焦る。鼓動が早くなる。ノブは回せるのに扉が全く開かない。

リビングに窓があるからそこから出ようと振り返り廊下を早足で進む。

リビングの扉を勢いよく開けた。

ヒュッと息を吸った。

明るい部屋の中、テーブルの上に異様なものが立っていた。白い布を頭に被り首と腕が長い。

私はそいつから目が話せなかった。

そいつは小さい振り幅で前後に揺れている。

こっちに来ている、そう思った私は踵を返し、玄関のほうに走った。

開いて開いて開いて、私は心のなかで何度も念じドアノブをガチャガチャ回した。

ズリリ、ズリリと後ろから音がする。あいつが近づいてきている。

E子、E子!助けて!助けて!

着信がなった。

私はハッとなり急いで携帯をポケットから取り出し耳に当てる。

「助けて!誰か助けてぇ!!!」

バァン!!と音がした。玄関の扉が勢いよく開いたのだ。私は飛び出した。転けそうになりながら夢中になって自分の家まで走った。


「あんたこんな時間までどこいってたの!?」

私は母親に抱きついていた。小さい子供のように泣きじゃくっていた。

「あんたがE子ちゃん家に遊びに行ったっきり帰ってこないからお母さん心配してあんたの携帯に電話したのよ?でも出なかったから今父さんに連絡しようと思って…大丈夫なの?何があったの」

母親は私を抱き締め返してくれた。

母は私の話を真剣に聞いてくれた。信じてくれたかはわからないけど、私の背中を撫でながら大丈夫、大丈夫と何度も言ってくれた。



学校でE子と会った。

なんだか気まずかった。

E子は私におはようと挨拶してくれたが目を合わせてくれなくてすぐに別の友達の方へ行ってしまった。


私が体験したあの出来事を境にE子とは話もしなくなっていった。


大人になった今でも考える。

あそこは本当にE子の家だったのだろうか。遊ぶ約束をしたのは本当にE子だったのか。私の傘とお菓子の入ったビニール袋はどこに行ったのか。未だにわからない。


同じような出来事がまた起こらないかと私は今でも怯えている。





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