【特別編】紅の貴方へ。

 夕方。ただいまという聞き慣れた声が玄関から聞こえてくる。

「おかえりなさい」

 そう私が声をかけると、紅也さんは大きな紙袋片手に帰ってきた。

「それはどうしたの?」

「ああー、これね。今日、僕の誕生日だからって職場の皆から続々ともらっちゃって……」

 一緒にリビングへ行って、その紙袋の中身を開けると色とりどりのラッピングに包まれたプレゼント達が続々と出てきた。

「……貴方ってモテるのね」

「あっ!?この中にも同僚からのもあるからね!?別に女性だけじゃないから!!」

 慌てふためて説明する紅也さんを横目に、私はそれを一つずつ出して見てみる。開けるのは流石に本人に任せたのだけども。

「お菓子がいくつかあるから、これは一緒に食べようね」

「ええ」

 そうやって二人で一緒にプレゼントを見ていると、ついに最後の一つ。ラストを飾るプレゼントは、縦長の小包だった。なんだろうと話ながら、紅也さんがそれを開けると――

「ネクタイとピンだね。これ高いものかな……ブランド品っぽい」

「……」

 私はそれを見て絶句した。まさか、私からのプレゼントと同じものが出てくるとは思わなかったから。

「あ、手紙がついている」

 プレゼントの中にあった手紙を紅也さんが黙って読むと、次第に表情が無表情に変わっていった。一体何が書いてあっただろうかと尋ねると、紅也さんはなんでもないといってその手紙を丁寧に仕舞って手に持っていた。

「……あの、紅也さん」

「何?」

「実は、その――」

 本当は夕飯を食べ終えてから贈ろうと思っていた、紅也さんの誕生日プレゼント。でも先に同じのを出されてしまって、面白みのない状況となってしまった。その内容を伝えると、紅也さんは私をそっと優しく抱きしめた。

「そのプレゼントって無理したんじゃないの?」

「えっ、そ、そんなことないのだわ!?」

 本当をいうと。私の所持金――という名のお小遣いは未だに微量にしか貯まっていなかった。そのお小遣いのお金は紅也さんから毎月もらっているものだけれども。足りないと思って、家を出る時にお父様からもぎり取った……いえ、もらったお金を少し使った。本当はこのお金は使わないでと紅也さんと約束していたのだけれど、少し破ってしまった。

 私はそのプレゼントを持ってくるから待っていてと言って、部屋に戻ってそのプレゼントを取り、戻った。ブランドものでもなんでもないけれど、お店で悩みながら選んだネクタイとネクタイピン。気に入ってくれるといいのだけれど。

「先に出す結果となったけれど……」

 紅也さんはそれを受け取って、小包をそっと開ける。

「これ、蒼さんが選んだんだよね?」

「ええ、もちろん」

 ネクタイピンは青い石が入った少しおしゃれなものを選び、ネクタイも紺色で白のピンストライプがアクセントになったものにした。

「嬉しいなあ……ありがとう、蒼さん。これは使わせてもらうよ」

 紅也さんはにこにこと笑いながらそれを見ていた。私はそれを見てほっとする。

「でも、紅也さんの職場の方に先に越されてしまったのだわ……」

「あー……。あれは、その……」

 しどろもどろに紅也さんが説明したそれは、ちょっと曰くつきになりそうだと言っていた。理由を問いただすと、言いにくそうにしてそれを話した。

「手紙、あったでしょ?あれね、誕生日プレゼントと一緒に僕へ好意を寄せているというメッセージもあったんだ……」

「え」

 とはいえ、遠回しな表現で書かれていたのでなんともいえないとは語っていたけれども。

「僕と蒼さんの関係は表に言えないからね……。仕方ないとはいえ、だけれども」

「……そうね、そうよ、ね……」

 でも、といって紅也さんは再び私を優しく抱きしめた。

「僕は蒼さんのプレゼントが一番良かったと思っているから。……それに今年はこうして一緒にいることが、何より一番うれしい」

 耳元でささやかれると、なんだかくすぐったくて。顔も次第に熱くなっていった。

「そうやって貴方は……狡いわね」

「そうかなあ?」

 ならば、と私は紅也さんの顔の近くに寄せて、そっと唇を重ねた。

「! あ、蒼さん……!?」

「そろそろ慣れて欲しいのだわ」

「いや、でも、その」

 慌てふためく紅也さんの姿を見て、やっぱり可愛いと思ってしまう。いつになったら色々私に慣れてくれるのかしら。


――これからも毎年、貴方を祝うわ。


END

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