パーティーメンバーを寝取られたおっさん冒険者は自分に惚れている年下美少女と新たにやり直す〜NTR男が今更かつての仲間を返したいと泣きついてきてももう遅い〜
第37話 ほら、調子に乗るからそんなことになるんですよ
第37話 ほら、調子に乗るからそんなことになるんですよ
「……どうよレイちー、これがあーしたちの実力っしょ。惚れた?」
膨らみかけの胸を張りながらパストはふふんと鼻を鳴らす。
気づけば、握りしめていた手の内が湿っていた。
これは無事に戦闘が終了した安堵から生じたものではなく、興奮によってもたらされた汗だった。
「ああ、そうだな……」
恥ずかしい話、自分よりも遙かに年下の幼女たちに俺はすっかり魅了されていた。その衝撃たるや、幼少の頃のヴィオレットさんに助けられた時のそれと酷似していて、けれども彼女とはまた違った感情を抱いた。
あこがれや畏敬の念とは違う、もっと単純にして直情的な感情。
それは恋。
どうやら俺は幼女たちの冒険者としての資質に恋をしてしまったみたいだ。
特にセイ。彼女の大剣を自在に操る姿は幼き日に夢見た理想の冒険者そのものだった。
堂々たる立ち振る舞いで自身に向けられる攻撃をすべて捌き、決して後退をしない最強の武神。
そんな冒険者の間でまことしやかに囁かれるその伝説的な存在を彼女に幻視した。
……なるほど、あのヴィオレットさんが入れ込むのも分かる気がする。
特筆すべきはその圧倒的なまでの戦闘力だろう。
幼女一人一人が(エヴァンジールのみその実力を推し量ることはできなかった)一個師団を率いてもおかしくないほど十分な実力を秘めている。
幼女たちが披露してくれた技術も同時期にディ・アークズを卒業した冒険者のそれより遙かに抜きん出ており、これなら彼女らのあの満ちあふれた自信も頷ける。
ただ、それだけに惜しかった。
「みんな、今まで疑ってて悪かった。俺の想像よりずっとすごかったぞ。特に最後のパストとアーリアの連携は感心した。互いに意思疎通が取れていて、淀みない魔法の行使はなかなかどうして目を見張るものがあった」
幼女たちにまずは謝罪し、それから賞賛する。
「へっへ、だってさアーたん。あーしたちべた褒めじゃん?」
「う、うん……」
一人は当然とばかりに、もう一人は照れくさそうに顔を伏せた。その素直な反応に俺の顔もほころびかける。
「……だけど、よかったのはそこまでだ。後は不満しかないな。なんだ、あの戦略もへったくれもない戦い方は?」
凄みを意識して全員に問いかける。
いきなりの態度の豹変に幼女たちは虚を突かれたような表情をしていたが、構わず続ける。
「確かにお前たちは強い。一見するとなんの問題もないように思える。だけどな、これから先もあんな統率の取れない戦い方をするつもりか?」
書き記した戦闘記録を眺めながら、一人ずつ講評を述べていく。
「まずスティングベル。さっきみたいに一人で特攻するのは危険だ。盗賊は軽装だからどうしても防御がおろそかになる。囲まれたら一瞬で終わりだぞ。奇襲を仕掛ける時以外、基本は他の近接職と一緒に行動するんだ。それからセイ。お前はパーティーのリーダーであるとともに攻撃の要だ。敵一人を倒すのにあんなに時間をかけていては駄目だ。個人的にあの戦い方は好みだが、執事の立場からすると看過できない。パストは単純に魔法を使いすぎだ。あれだとすぐバテるだろ。瓦解した相手の追い打ちなら近接職で事足りるから、少しは魔力を温存することも覚えるんだ。アーリアも補助に回るのはいいが、万が一仲間が怪我をした時にすぐにでも動けるよう準備しておくこと。最後にエヴァンジール、お前は騎士なんだから戦闘時には真っ先に前線に立たないと迎撃の形が作れないぞ」
今しがたの戦闘で気になったことはざっとこんなところだ。
もちろんまだまだ言いたいことはあるが、それはまたの機会にしておく。
こいつらはなまじ自分に自信があるせいか、ワンマンプレイになっている箇所がいくつかあった。
これを正さないとパーティーを組む意味がない。
それぞれ不足しているところを補ってこその集団戦闘なのだから。
「――平民に戦闘のなにが分かるのかしら?」
反論してきたのはエヴァンジールだ。
言葉に険を滲ませ、端正な顔をさも不愉快そうに歪める。
「わたくしたちは平民と違ってとっくの昔に実戦を経験しています。貴方の言う戦略などいりません。みんなが自由に戦い、その時々で協力もする、今日までそれでやってこられました。なのに今更平民にそのやり方を否定される謂われはありませんわ」
エヴァンジールの主張に他の幼女もうんうん同意する。
文字通り門外漢である俺に自分たちの分野にまで踏み込まれて頭にきたのだろう、次第に剣呑とした空気になっていく。
「確かに俺は戦闘技術に関しては素人だ。だが遠目から戦局を見据える力はあるつもりだ」
「だとしても。地図作りの件に関しては平民の言うことにも一理あると思い妥協しましたが、こちらは妥協するつもりはありません。戦闘はわたくしたちの考えで、わたくしたちの意志で行います。無力な執事は女性の後ろでせいぜい巻き添えを喰らわないように慎ましくしていることですわね」
一つ解決したと思ったら、また新たな問題か。
とりあえず下手に説得はせずにここは一旦引くか。
嫌われるだけならまだいいが、いざという時に俺の言葉に耳を傾けてくれなくなると困るしな。
「分かった今はそれでいい。ただしこの先の戦闘でもしお前たちのやり方が通用しなくなった時は俺の指示に従ってもらうぞ」
「どうぞご自由に。男に頼るなどそのようなことはありませんので。……行きましょう、皆さん」
どこか挑発めいた口調をこぼし、エヴァンジールはセイたちを促して探索を開始した。
その場に一人残された俺だったが、味方のいない侘しさとは反対に気分は高揚していた。
やれやれ、――なんてやり応えがある仕事だ、と。
◆
その後も俺たちは地図を埋めながら森の中を練り歩いた。途中別の出入り口にたどり着いて後退する羽目になったが、探索はおおむね順調だった。
森の奥地に進むにつれ道幅は狭まり、うっそうと生い茂った木々が行く手に立ちはだかった。
そういう時は迂回をするか道なき道を切り開いていった。その都度地図に新たな情報を追加し、往路の整合性を確かめる。
以下これを繰り返す。
一見すると地味かもしれないが、こういう地道な作業が生存率を高めていくのだ。
ここまでにも何回かモンスターと交戦する機会があったが(その大半はゴブリンだった)幼女一行はこれらをなんなく撃破していった。
圧倒的火力で短気決戦。
スタミナ配分を考慮しない個人主義。
至って単純な戦闘方法。
しかしそれでもエヴァンジールが豪語するように、なんの恐ろしげもなくここまでやって来られていた。
正直、できすぎなくらいだった。
あまりに卓越した戦闘技術に、間違っていたのは俺の方かもしれないと思わせられるほどだった。
けれどもダンジョン探索とはそう簡単なものではない。
今は問題ないように思えても、必ずどこかで支障を来す。
常に全力ではいずれ井戸の水のように枯れ果ててしまう。
そして実際、ほころびは突然訪れた。
「……はぁっ」
パーティの後方に位置していたアーリアとパストの歩みが突然遅れ始める。
片方は息を切らし、もう片方は呼吸を荒くする。
正に疲労困憊といった様子だ。
これまでぶっ通しで歩き続けていたのと、再三の魔法の行使がたたったのかもしれない。
魔力の消費は体力と精神にかなり負担をかけると言う。
まして魔法はその消費量が桁違いだ。そんな魔法の連発はやはり無茶だったのだ。
なんにせよ放っておけない。
背後から二人に声をかけようとすると、いきなりアーリアの体が大きく横に傾いだ。
「おい、大丈夫か!?」
すんでのところでアーリアを抱きとめ、腕の中にくるまった彼女のそのあまりの軽さに驚くが、今はそんな場合ではない。
慌てて彼女の表情を伺う。
「……だ、大丈夫です。ちょっと足がもつれただけだから」
なんとも弱々しい返事だ。少しも大丈夫そうな顔じゃない。
せめて顔色が青ざめてさえいなければまだ安心もできるのだが。
「レイちー、あーしももームリ……」
続けてパストもその場にへたれ込む。小さな額に大量の汗をかいて肩で息をしている。
それでもアーリアと比べるといくぶんマシな表情に見えるが、それはひたすら魔法による補助活動に尽力していた彼女と違い、魔力消費が抑えめだったからだろう。
とはいえパストも不調なことには変わりない。
「ちょっと、どうしたのよ!」
いつまでも付いてこない俺たちに異変を感じたのか、先行していたセイが戻ってくる。
脱力しているアーリアとパストの様子に気がつくと、途端に表情をこわばらせた。
「なにがあったの?」
返事をするのも億劫そうなので、二人に代わって俺がセイの問いかけに答える。
「おそらく魔力が枯渇しかけているんだろう」
いわゆる燃料不足という奴だ。
いくら魔力量が多くても無尽蔵ではない。それはいかに天才児とて同じこと。
やたらめったに浪費していては当然限界が訪れるに決まっている。
そしてそんなのは最初から分かっていたこと。
だから口を酸っぱくして言ったんだこうなるから魔法を使いすぎるなって。
「とにかく、一旦どこかで休息を取ろう」
俺の提案にもさすがに誰も異議を唱えない。
手分けをしてアーリアとパストを介助し、すぐにこの場を立ち去ろうとする。
しかしこの絶好の機会をモンスターが見逃すはずがなかった。
ガサガサと草の根をかき分ける騒音がすぐ近くの茂みから聞こえた。同時に、ヌメリとした粘着質な響きを蓄えた擦過音も近づいてくる。
十中八九、組織体系の崩れたこちらを狙っているのだろう。
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