第05話 パーティー結成と再始動

 ミュリエル・アッセムハートと出会ったのは、俺が前のパーティーを追放されてから少ししてのことだった。

 冒険者互助組合——ギルドで次のパーティーを探していたところ、馴染みの受付嬢からそれならこの子はどうかと新米の彼女を紹介されたことがきっかけだ。


「は、初めまして、ミュリエルと申します。職業は戦士です。田舎から出てきたばかりでまだ右も左も分からないですが、や、やる気だけは人一倍あります! ええと、あと趣味や特技は――」


 初対面の印象は取り立てて普通。

 どうやら年上の男に緊張しているようで、最初はどこか態度がぎこちなかった。

 まあ俺は人からよく人相が悪いと言われるのでそれも原因の一つかもしれないが。

 とりあえず簡単な自己紹介をし終えたあと剣の腕前を見せてもらったところ、今はまだダイヤの原石に過ぎないものの、なかなかどうして将来性を感じさせられた。


「うん、思い切りがよくて見ていて気持ちのいい太刀筋だ。長年冒険者を見てきた俺には分かる、こういう子は伸びるのが早いってな」


 多少おべっかも交えつつ、素直に良いと思った部分を褒めると純真そのものなのかミュリエルは嬉しそうに花の咲いたような笑顔を浮かべ、

 

「ほ、本当ですかっ⁉ レイドさんみたいに熟練の冒険者さんにそう言ってもらえるとなんだか私も自信がついちゃいます。……あ、あの! レイドさん、でしたらぜひ――」


 ちょうどその頃ミュリエルもすぐに加入できる執事を探していたらしく、それからとんとん拍子でまず俺たちが組むことになった。

 そこまではいいのだが、彼女のパーティーには他の冒険者の姿が一切見受けられなかった。


 だからてっきり今後も継続して共にダンジョンに挑む仲間捜しをするのかと思いきや、どういうわけか彼女は俺以外の冒険者を引き入れるつもりはないと言う。


 つまり冒険者ではあるが非戦闘職である執事を除き、たった一人でダンジョンの奥深くに巣くう魔物と戦うというのだ。けれどある意味でそれは自殺行為といっても過言ではない。


 そも冒険者家業は主に女性社会だ。

 というのも、この世界では女性にしか魔力——身体能力の向上や魔法を使うための力を有してはいないからだ。

 魔力を持たない男はあくまで裏のサポート役に徹することでしか冒険者として生きる道がない。


 そのため執事という男が唯一就くことのできる職業が存在するのだが、しかし先述の通り俺たちには魔力がないためもっぱら戦闘行為全般を女性に任せるしかないのが現状だ。


 魔素の薄いダンジョン外の小柄の動物ならいざ知らず、ゴブリンなどに代表される一般的に雑魚扱いされる魔物でさえ魔力なくしては正面切ってまともに太刀打ちができないのだから。

 逆に男ができることがあるとすれば、それは命からがら逃げおおせるのがやっとだろう。


 そのため執事は誰かと組まなければならないが魔力を持つ女性はその限りではない。

 素質のある者は、なんとソロで活動する場合もあると聞く。


 とはいっても流石に一人でダンジョンに潜ろうものなら、低階層ならまだしもそれ以降はすぐにバテてしまうだろう。

 なにせ周囲の警戒や戦闘といった一連の行動をすべて一人でやらないといけないのだから。


 であるからして様々な戦闘職の女性冒険者同士で組み、ダンジョン攻略を行うのが結局のところ定石なのは間違いない。

 だからミュリエルの宣言がいかに困難な道のりであるかは想像に難くないだろう。


 こうしたのっぴきならない事情もあり、所属先パーティー探しに奔走する執事連中からもそっぽを向かれてしまっていたらしい。


 さしもの俺も最初は躊躇したもんだ。

 だが捨て置かれた子犬のような彼女の姿を見て結局そのまま契約を継続することにした。


 どこかで人知れず死なれても目覚めが悪いし、なにより彼女の必死な様子が無下むげに捨てられた俺と重なって見えた。

 それにどうせさもしい中年おっさんの再就職先だ、後進の育成に今から精を出すなら一人が限界だったからな。

 

 まあ、ともかく。

 そういうわけで俺たち二人だけのパーティー、『栄光までのアライアンス二人三脚パートナー』は始動したのであった。



__________


 次の話はいったん番外編となります。

 それにともない物語の視点が変わりますので、前もって告知させていただきました。

 主人公レイドの追放とパーティー崩壊の危機を作った男のこれまでのNTRの軌跡を描き、やがて本編に繋がる物語を何回かに分けてその都度公開していきます。

 

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