第11話 アルバイトを始めたので、捗らないフラグです その2

 仕事へ智子は戻らないといけないのに、智子は兎角を一方的に弄り、兎角がつまらない返しをしするので、更に智子が兎角を弄ると言う悪循環が展開される。


 

 愛里熾亜はそろそろ本気で収集がつかなくなり始めたので、智子に提案をする。


「そろそろ働く為の手続きやら、せねばならぬ事を指導して欲しいのじゃが……?」



 智子は「はっ」となり、


「---あら、いけない。そうだったわ」


 智子は愛里熾亜に向く。


「---最後に一つだけ、愛里熾亜に訊くわ」


「うむ」


「兎角と不仲な直接な原因は記憶操作の事じゃないわよね?---最近、何かあったらのでしょ?」



 少し鋭い質問に、紅羽と愛里熾亜は驚く。



 愛里熾亜は少し間を開けて答える。



「……一昨日、兎角を打ったのじゃ」



 これに智子は、


「あらま、穏やかじゃないわね?」


 と、言うが、兎角は、


「知らん」


 と言って、黙り込む。



 仕方無いので、智子は愛里熾亜に尋ねる


「……ドユコト?」



 愛里熾亜は「うーむ……」と唸り、しばらく考え込む。


「……訳アリ?」


「そう言う訳じゃないが、背後関係がの……---」



 昨日の試験について、軽く概要を言う。



 兎角が討伐した黒龍は長年、忌み嫌われ、存在に困っていた。


 兎角の黒龍討伐を口実にイツミが兎角をコロニナへ拉致って、花婿候補にしようとしている。



 智子はしばらく考え込む。



「……そのイツミって娘に仕組まれたんじゃない?」



 愛里熾亜は否定する。


「あり得ぬ。籤引きじゃ」



「あり得るわ。統閣が掴んた籤を、瞬時に魔法で文字を書き換えるとか、容易い物よ」



 これに愛里熾亜は懐疑的である。


「……そもそも、クエスト内容は黒龍の鱗回収じゃ。過剰な攻撃は容認されるべきでない」


「あら、相変わらず力づくなのね、統閣」


 智子は兎角を見る。


「……事前に地形を変えてはならない、って無かったから」


「そうね。---来年から文言として加わるでしょうけど」


 智子は愛里熾亜にもう一度言う。



「偶発的トラブルを狙ったと、わたしは見ている」



 しかし、愛里熾亜は納得しない。



「憶測で話しを進めるでない。でないと、イツミ……コロニナの代表者の思う壺になってしまう。確実な証拠が無いとじゃな---」


「愛里熾亜は何を求めてるの?」


「……それは、そうじゃな。---ま、お主等には関係無いのじゃ」


「ちゃんと言いなさいよ?」


「何じゃ?お主等は妾に協力する気があるのかえ?」


「それは内容次第ね」


「ふん、どうせそう言う事じゃろう」



 兎角は話しがまた平行線になりそうなので、


「そろそろ僕は紅羽についていくねー」


 そう智子へ言って、部屋を出ようとする。


 紅羽はいつの間にか、どこかへ行ってしまっている。



「待ちなさい」


 智子はそう言って「はぁ〜」と溜め息を吐いた。


「ま、追々2人切りでそれは話しましょう?---兎角が居ると話し難いのでしょ?」


「……う、うむ」


「兎角も何か意地張ってるけど、仕事中は私情を持ち込まないでね。---さもないと本気で貞操狙っちゃうから」


 そう言われた兎角は頷く。


「うへぇ、冗談に聞こえないのがヤバい。---そこは判ってるよ。むしろ、嫌われてるのは僕だからねー」


「ならヨシ。---全然良くないけど、2人共、期待してるからね?」



 こうして、兎角は紅羽と愛里熾亜と一緒にアルバイトをする事になった。









 紅羽の作る賄いを、兎角と愛里熾亜は食べた後、智子から軽いオリエンテーションと接客業について学ぶ。


 それが夕方まで続き、少し早目の晩御飯を智子の奢りで、ディナーメニューを食べる2人。





 このあと、閉店の21時まで兎角と愛里熾亜は軽く接客をする。



 これが思わぬ効果を産む。



 女性用制服が可愛いと評判且つ、男性服も執事っぽくて良いと、噂の店で愛里熾亜と兎角が居ると言う話が広がる。


 結果、晩飯を食べていない生徒や学生が押し寄せて来たのである。



「あ、噂の香椎君だ!」



 ラクロス部の女性陣が来客。


 順番待ちの案内で立っている兎角がそう言われる。


 元々、イベリスとの決闘で1度、有名になりかけていたのがどうら---。



「イベリスさんから聞いたよ?コロニナでの1番の厄介モノ、黒龍を討伐した、功労者!国家英雄になるみたいだね?」



 兎角は驚く。


「……何ですか、それ?」


 そもそも、昨日今日と、学校へ行っていないので判らない。



 女生徒は言う。


「んー、それは鈴蘭さんに聞いた方が良いかな?言いふらしてるの鈴蘭さんだし」


「成程、承知しますた」


「あはは、何それ?」


「いえ、何でも。---それではこちらに名前をご記入頂き、しばらくお待ち下さい」



 と言ったら感じのやり取りを、男女問わずにするハメになる。



 地味に面倒だが、女生徒とやり取りしていると、紅羽と愛里熾亜の目線が痛い気がする。



 愛里熾亜も愛里熾亜で、絡まれるのだが、需要がどうも兎角が考えていたのとは違う。


 愛里熾亜の蔑んだ目が人気の模様。


 それ以外の客は至って普通。


 あとは、普段の『のじゃ娘』でない口調の愛里熾亜も印象深いらしく、新鮮だとかで、野次馬は多い。



 愛里熾亜はたまに兎角と目が合うと、どこと無く余所余所しいが、気にしない事にしている。


 仕事に私情を持ち込まない。


 なので、表面上は仲良く見えるらしい。



 特にお互い、下の名前を呼び捨てで呼ぶので。



 苗字と言う制度の浸透はしたものの、下の名前で呼ぶ方と半々である。


 それに敬称を付けるのが一般的だが、敬称がないのは、逆に親しい証拠とされる。



 異世界探索部はイベリスに忖度して、軽いカースト制度を導入しているが、兎角はイベリスとの決闘の過程と結果で、事実上の序列1位らしく、『敬称免除』となっている。


 それをうっかり、部活外でもしているが、悪名で有名な部活なので、今更誰も気にしていない。



 とは言え、実年齢が何歳か判らないと有名な愛里熾亜と『元許嫁』と言うのは改めて、他の生徒からインパクトは強烈であり、こうした中でも、自然なやり取りは憧れられりしている……。


 ……らしい。





 それは閉店まで続き、一気に売り上げが伸びたのであった。



 智子はそれで少し味を占める。



「愛里熾亜。話題性に寄る人気も今の内だろうけど、歩合制でしっかり働かない?」


 これに愛里熾亜は少し乗り気になる。


「ふむ、良いのか?」


「うん。統か……兎角はどう?」


「小遣い稼ぎで良い」


「女性服着せて欲しいって要望あったけど、どうする?」


「き、ま、せ、ん!」


「あら、残念」



 智子はそう言いながら、レジを閉める。



「それじゃ、貴方達は帰る準備してさっさと帰って。後片付けは後日教えるから」


 智子の指示を素直に聞いて、兎角はささっと着替えて更衣室を出る。


 部屋が1つしか無く、愛里熾亜と入れ替わりで。





「……夜は寒いな」


 兎角は先に外へ出て、星空を見る。



 愛里熾亜を待とうと思ったが、『迎えが来る。気にせんで良い』と言われた上に、裏から出て来る気配も無い。


 表から帰ったと思い、兎角は帰路につこうとしたら、足音が2つ聞こえる。



 紅羽と愛里熾亜だった。



 何故か紅羽がお怒りモードであるが、彼女は少し強い口調で言う。


「愛里熾亜が少しだけ、話しがあるんだってさ」


 兎角は頷く。


「う、うん……。---どうしたの?」



 愛里熾亜は辿々しく言う。



「妾がの。婚約者相手が学費を払っておったかの話しでの……ちゃんと説明をしたいのじゃ……」


「……うん」



 先程の働いている間とは打って変わって、急にしおらしくなって少し戸惑う兎角。



「実はの……」


 本気で落ち込んでいる様子でもあるが……。





「---全部嘘じゃ」

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