第11話 アルバイトを始めたので、捗らないフラグです その1

 試験3日目。


 と言っても兎角は関係無いが。



 兎角は朝から来た紅羽を迎え入れる。



 今日は日曜日。


 試験は学校の休みを挟んでする行程なので、早く終わった兎角はあと2日はのんびり過ごせるが……。



「じゃ、店長に話しは通してあるから、今日のお昼には面接行くわよ」



 兎角の服を選びながら言う紅羽。


 兎角は一昨日から疲労が思ったより取れず、動きが鈍く、何も出来なかった。


 今日は紅羽に家事のアシストを頼んだのである。



 の、筈だが……



「待って待って。---僕は未だ紅羽のお店で働くか言ってないよ?」


「人手不足なの。私は調理担当なのに、兼務でホールしてるし」


「だからって……」


「愛里熾亜も『空き時間に小遣い稼ぎでなら』って来てくれる事になったけど?」



 これに兎角は嫌悪感を示す。



「えー……。マジで?」


「うん。前々から話しはしてたけど、昨日急に連絡あってねー。本当なら、水先案内人として、試験期間中はコロニナへ居なきゃいけないけど、昨日に急遽、こっちに帰って来たみたい」


 若干、理由に心当たりがある兎角。


「……そっか。---僕の存在は?」


「言ってる」


「……嫌がってなかった?」


「むしろ、喜んでた」


「……マジでか?」


「?」



 紅羽の疑問に兎角は事情を言う。


 昨日の試験内容について……。





「ふーん、喧嘩中か。---私は好都合だけどね」


 紅羽はそう言って、興味を失った。


 兎角は、


「……そっか」


 と、紅羽があまり興味を持ってくれなさそうなのは判っていたので、気にしない。



 そして、2人はこの後、また波乱が待っているとも知らずに店へ向かうのであった……。









 2人は件の店へ到着。


 スタッフ控え室へ行き、紅羽は扉を開ける。



 兎角は、中で待っていた店長の『坂本智子』を見て一言。





「え、姉貴?」


「げ、統閣⁉︎」





 まさかの、生き別れた実の姉、『富河統子』が居た。







 全然変わらない容姿。


 むしろ、益々自分の生き写しみたいな顔をした姉に驚く。



 チェーン店且つ、本社採用であるが、最近ここへ赴任したらしい。





 感動の再会の筈なのに兎角は、


「げ、とはなんだよ」


 と、突っ込む。


「あ、ごめん。死んだって聞いたから」


「生きてる生きてる!」


「ホントだ」


 そう言いながらも、統子は兎角を抱きしめる。


 兎角の顔を豊満な胸に顔を埋める。



「ホント、生きてて良かった」


「……それホントに思ってる?」


「んー……少し?」


「酷くない?⁉︎」


「冗談よ。---ま、お前がおっぱい星人と言うのはよく判った」


 紅羽の胸元を見ながら、智子は言う。


「……だからそれ、再会した実の弟に言う台詞?それとこんな事する?全然感動感とか無いんだけど?---僕も良い歳なのに?」


「ん?良いじゃん。姉弟ってそんなもんでしょ?たかが4年振りの再会なんだし。ね、紅羽ちゃん?」


 紅羽は「あはは」と愛想笑いをする。


「---最初、智子店長見た時。兎角ちゃんと双子並みによく似てるから、まさかって思っていたけど……」



 ここで改めて、智子は兎角を離してから言う。



「こっちは生き別れた実の弟、『富河統閣』で今はなんだっけ?兎角だったか。---ま、姉弟共に宜しくね、紅羽ちゃん」


「はい、弟さんにはいつも……お世話してます!」


「まさか例のセフレが実の弟とは思わなくて、複雑な気分だけど〜」


 ニヤっと笑う智子。


「あはは〜。それについてはノーコメントでお願いします〜」


 紅羽は苦笑いをする。


「あ、統閣……じゃない、兎角は問答無用で採用ね」


「おい、マジか。---緩いな」


「ま、生き別れた実の弟を無下にする程、落ちぶれてない。---んで、もう1人の興味がある娘って---」



 ここで兎角は思う。


(あれ、そうなると、僕の記憶は消されているけど、愛里熾亜とも姉貴は久し振りの再会?」




 丁度、表の方で誰かが来て、こちらへ向かう音がする。



『コンコン』とノック音がする。


 智子が「どうぞ」と言う。



「お待たせしましたのーー、お待たせしました!今日面接を頼んで頂いていー……---」



 案の定、愛里熾亜が来たタイミングであった。


 しかも固まる一同。



 智子は「はっ」となって、兎角をまた抱きしめる。


 兎角の顔を完全に胸に埋める。



「ヤダヤダ、帰って!私の統閣を奪いに来たのでしょ⁉︎」



 智子は愛里熾亜から離れる。


 愛里熾亜も「はっ」となって口を開く。


「あやや、統子さん、妾はそんなつもりで来た訳じゃなく---」


「じゃあ何⁉︎---例の面接しに来た娘?」



 智子は紅羽を見る。



「そ、そうですね。例の興味がある---」


「不採用。統閣と仲良くなんかさせない」


「落ち着いて下さい、智子店長。今、この2人、不仲全開なので」



 これに智子はまた『はっ』となって、落ち着き、兎角を離す。



「あらそうなの?安心したわ。---奉行所へ情報リークして、親の汚職暴いて貰って、統閣と愛里熾亜との結婚を、そうしてわざわざ阻止したのに、勿体無いところだったわ」



 これに兎角と愛里熾亜は驚く。



「え⁉︎なんだって⁉︎⁉︎」「え⁉︎なんじゃと⁉︎⁉︎」



 ほぼハモる2人。



「ええ、そうよ。美菜流は美菜流で、統閣をわたしの前で犯しすし、愛里熾亜も愛里熾亜でずっと『統閣ちゃんと統閣ちゃん』ってベタ惚れだし。それはもう腹が立って腹が立って……。---そこから、どうにかして統閣から2人を引き剥がそうと、思い付いたのが、……それ」


 兎角は突っ込む。


「すげぇ理由で一族全員路頭に迷わされたのか」


「うん。そうよ」


 自身満々に言う智子。


 愛里熾亜はそっぽを向き、


「昔話しはもうよい」


 少し恥ずかしそうに言う。



 智子は兎角へ問う。


「それより、統閣は覚えていないの?愛里熾亜の事」


 兎角は頷く。


「愛里熾亜に記憶消された」



 これに智子は一瞬考え、愛里熾亜を見る。



「え、何故に?」


「ま、色々とな」


「ま、でもグッジョブ。そのまま消したままにしといて」



 兎角は智子へ言う。


「僕ももうそれで良いって言ってるから、大丈夫」


「あら、どうでも良い冗談のつもりだったけど……。---何だか本気で仲悪い様子で、それはそれでちょっと調子が狂うわ」


「僕はフラれたから、そもそももうそう言った関係性にはならない」


「あらま、紅羽ちゃん、悪い事しちゃってるじゃん。わざわざ引き合わせて」


 智子は紅羽を見る。


 これに紅羽は反論する。


「いやー、仲直りのキッカケにならないかなーってねー?しかも愛里熾亜、喜んでたし」



 紅羽は愛里熾亜を見る。



「おい、それを言うな!大体、余計なお世話と言っておろう……」


「えー、何だかずっと気落ちしててさー。敵に塩を送る訳じゃないけど---」


「それは今後の妾の生活の見通しが立たないからじゃ」


「それの理由を教えて欲しいって昨日から言ってるのに……」



 紅羽は肩を落とす。


 智子は頭に『?』と浮かべながら、


「とりあえず、話しが見えないから統閣……じゃない、兎角は貰っていくね、紅羽ちゃん」


「……もう好きにして下さい、ブラコンさん」


「ブラコン上等」


 開き直る智子に呆れる紅羽だった……。



 愛里熾亜は溜め息混じりに言う。


「漁夫の利って奴じゃな。---ブラコンめ」


「弟が好きで何が悪い」


 智子が勿論、反応する。


 しかし兎角は呆れる。


「ねぇ、僕達、実の姉弟だよ?判ってる?」


「そうよ、判ってるわよ。姉弟愛って奴」


「……何だかそれだけじゃない気がするのが増してる」


「そりゃあ、見ない間に急成長した弟に見惚れるのは当然よ。変な虫が付いてないか心配で心配で……」


「逆に変じゃない虫って?」


「んー……。---わたし?」


「ほらー、やっぱりー。ないわー」



 ブラコンと、何だか言ってシスコンの2人を見兼ねた紅羽は、


「いい加減話し進めないと智子さんも仕事、捗らないですよー」


 と、ハッパをかける。



「あら、いけない。とりあえず兎角はこの後、紅羽ちゃんから制服受け取って。愛里熾亜は……どうする?真面目な話し、お金に困ってるなら、一先ずはうちで働いてみる?割は悪いけど」



 愛里熾亜は頷く。


「はい、そうして貰えるとありがたいのじゃ」


「ま、兎角と色々あるみたいだけど、仲直りするなら早目にしてね」


 智子は兎角を見る。


「ん……。多分、どうにもならないねぇ〜」


 と、兎角は言う。


「え、そんなに酷い話しなの?---あと、さっきから気になってたけど、兎角のその喋り方何?何だか昔と違って凄く気持ち悪いんだけど?」


「……そう?---ま、色々僕もあったのさねー」


「へぇ。ま、可愛い顔して罵られるのもゾクゾク---悪くないから、たまには罵って」


「……うわ、マジ無いわ。実の弟に発情すんなや」


 本気で軽蔑する兎角。



「ん〜〜、良いわね。良くないけど」



 愛里熾亜は「どっちじゃ……」と突っ込む。


 紅羽も「バカ姉弟ね」と、また智子が兎角に抱き付く姿を眺めるのであった……。

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