第24章 詩英6
第232話 説明
翌日、Yがもう一度俺の家に来て、丸一日経っても、瑛太達とMOINEで通信出来る事を確認してから仁美叔母さんの家に伝えに行った。
予想通りというか、予想以上というか、落ち着いて話を聞いてもらうまでが大変だった。
最初のうちは冗談を言っていると思われて、中々信じて貰えなかった。同じように行方不明の家族をもつYが一緒だったから、まだマシだったかもしれない。
「からかっているんだったら許さない」とも言われた。
なんども冗談などではないと説明し、瑛太から送られて来た動画や写真を見せた。
やっと、写真が本物だと思ってもらえたら、次は何故連絡が取れているのかの説明だとか、異世界ってどこなんだとか、結局誘拐犯は誰なんだとか、彼らが帰ってくるのは何時なんだとか、答えに困る事を山ほど質問された。
仁美叔母さんが涙ぐみながら俺に掴み掛かってくるのだけど、俺も泣きたかったよ。
俺だって何一つ理解できていないのに、説明しろって言われても困るんだ。
「ごめん。仁美叔母さん、俺も詳しいことは全然良くわかってないんだよ‥‥。ただ、瑛太と連絡が取れた事だけ伝えたくて来たんだ。」
「‥‥うう‥‥。そう‥‥。」
ハンカチを目に当て両手で顔を覆っていた仁美叔母さんが、急に顔をあげて携帯を取り出した。
開いた画面を見て慌てて止めたのはYだった。
「ちょっ‥‥!待ってください!家族の会のグループに書き込む気ですか!?」
「だって!手がかりがあったのよ!皆に知らせないと!」
「待って!待ってください!」
「仁美叔母さん!待って!」
仁美叔母さんが「行方不明者家族の会」のグループチャットに書き込もうとするのをYと俺とで必死に止めた。
「全員見つかってるわけじゃないんだよ!写真に映ってない子の家族から『うちの子何処だ!』って聞かれて
『知らない』で納得して貰えると思う?」
「知らないのなら知らないと説明するしかないじゃない!」
仁美叔母さんは、携帯から一旦手を話してくれたけど、まだ納得していない様子だった。
「納得してもらえなかったら?ずっと説明し続けるの?」
「それはそうでしょう?」
「‥‥俺は少なくとも無理‥‥。」
「なんでそんな事をいうの?ご家族が行方不明の方達がどんな気持ちでいるか、わからないの?」
仁美叔母さんがキッと鋭い目で俺を見つめた。俺はその言葉を聞いて、気持ちの差というか知らせるのを躊躇っていた理由の一つがわかった気がした。
「仁美叔母さん、俺だって瑛太の事は心配だよ‥‥。」
「だったら!わかるでしょう?」
「でも居場所を知っているわけじゃない。突然MOINEで連絡が取れたのか理由が分からないし、説明なんて出来ないし聞かれても困る。
‥‥それに聞かれる度に思うんだよ。行方不明だったら帰ってくる可能性があるけど、圭は帰って来ないって。」
「‥‥ジェイ君‥‥。」
「仁美叔母さんは行方不明者の家族の気持ちがわからないかって聞いたけど、仁美叔母さんはわかる?
帰ってくる可能性がある人達が居る中で、俺の弟だけ絶対に帰って来ないって思う気持ち。」
少し塞がりかけてきた傷口を抉られるみたいなんだ。
トンっとYが俺の背中を叩いた。
「ジェイは何も説明しなくていいよ。‥‥永見さん。」
Yは仁美叔母さんに向き直った。
「中途半端な情報はパニックになるだけですよ。俺達だってかなり混乱してるんです。
この状況で半端な情報流したら、大変な事になると思いますよ。会合に出てたなら想像つきませんか?」
「‥‥。」
Yの言葉に何か思い当たる事があるのか、仁美叔母さんの表情が変わった。
Yが続けた。
「誰かのせいにしたいって態度の人も沢山いたじゃないですか。用があって会合に欠席しただけでも次の会合で責められてるの見たでしょう。
協力的じゃない人がいるから、子供が帰って来ないんだとか。理不尽な事言う人達が、他の人の情報が入って来ているのに自分の子供の情報がなかったら
納得してくれると思いますか?」
「‥‥無理ね‥‥。」
仁美叔母さんの声のトーンが一気に下がった。
行方不明者家族の会合での実際の経験と結びつけてイメージができたらしい。
仁美叔母さんが漸く落ち着いて来てくれてホッとしていたら、トタトタと足音がして、彗汰がやってきた。
「あ!ジェイにい!ワイちゃ!」
俺達を見た途端、彗汰が屈託ない笑顔を見せた。ちょっと癒された。
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