第231話 サスケイ様

俺は、製作中の自転車に近付いていってマジマジと観察した。

ハンドルとかは鉄で作っているようだ。江角さん達は自分達のイメージで物を作りたくなって、鍛冶屋に弟子入りをしていた。


「こういった形の物で‥‥。」と鍛冶屋にイメージを伝えるのに苦労していて「自分達で作れるようになれば。」と思ったのだそうだ。

それでライアンさんを介して、開拓のために鍛冶を教えてくれる人のところに習いに行くことになったのだ。


兼業農家だし、剣とかをメインで作ったりもしない。

「弟子」というより「習い事」かな。

教えてくれる鍛冶屋のお師匠さんも、開拓に役立つ物が生み出されるということに、興味を持ってくれているらしくて協力的なのだとか。

そうやって、念願だった自転車が形になってきているのだ。


でも、ここまで作っていて、「サスケイ様」ですか‥‥。

流石になぁ。


「‥‥自転車の構造って、ブレーキだけの話じゃないじゃないですか。チェーンは自力で作られたようですけど。もし、自転車用の資料とか用意してたらそれだけで膨大になっちゃいそうですよね。」


異世界ガイドノートには載っていなかったはず。でも一応確認するだけはしてあげようと、資料を探すのに自分の鞄の中を漁った。

鞄の中には、圭の謎鞄があり、そこに手を入れる。


ガー‥‥。


なんだか機械が響くような音が微かに聞こえた気がすると思ったら、手に紙が当たった感触が有った。


「‥‥。」


取り出して見たら、自転車のブレーキの構造の説明が書かれた資料だった。

資料自体は良いんだけど‥‥良いのか?‥‥まあ、置いといて。紙が印刷したてみたいにちょっとホカホカしている気がする。


気のせいだよね‥‥。


俺は資料の内容を一旦確認してから、江角さん達に手渡した。


「え、マジであるの?ダメ元だったんだけど。」

「サスケイ様や〜。」

「サスエイじゃね?」


サスエイまで言い始めたので俺は慌てて否定した。


「俺が準備してたわけじゃないからね。」

「うんうん。それでもありがたいよ。‥‥あ〜なるほど〜。こうなってんのか〜。」

「作れるかねぇ〜。」


江角さんと柄舟さんが二人で資料を覗き込んで、しばらくブツブツと言っていた。それから明るい笑顔でお礼を言って来た。


「ありがとう!自転車できたらさ。サスケイ様の銅像建てるよ。」

「いやいや、出来たらじゃなく、すぐ建てよう。そうしよう!」


そんな冗談を言いながら江角さんと柄舟さんは、既に材料の調達方法を相談し始めながら部屋を後にした。


「サスケイ様の銅像‥‥。サスエイ様も作ったりして。」

ワイちゃんが、クククと笑って俺を見た。


「サスエイ様はやめてくれよ。ホント、俺が何したってわけじゃないんだから。」


サスエイ様が銅像になった場合のポーズは、とかワイちゃんがふざけているのを突っ込んでいたら、藍ちゃんがハッとして、出入り口を振り返った。


「ねえ。江角さん達にMOINEのこと言いそびれちゃったね。」

「あ〜‥‥。」


今からでも言いに行こうかと思ったけど、ちょっと迷いが生じた。


他の人が繋がるかも確証がない。

明日になったら繋がらなくなっているかもしれない。


考えると少し不安になって来てしまったのだ。


「‥‥次にジェイ兄から連絡が来たときに考えようか。ご家族と連絡とってもらえるかも聞いてからの方がよいかも。」

「そう‥だね‥‥。」


まだ、藍ちゃんの家族と連絡がとれているわけじゃない。俺だって従兄弟のジェイ兄とは連絡がとれたけど

両親とはまだだ。

安心するのはまだ早い。

浮き足立たないように気をつけないと、と自分に言い聞かせた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る