第227話 解放

「‥‥なんだ。着信じゃなかった‥‥。ま、そうか。」

「アラームか何かだったの?」

「いや、そんなはずは‥‥。でもそうなのかな‥‥。」


着信ではなかったことにホッとした。電源を落としていたはずだし、アラームもあり得ないと思うが、電源が落ちていても有効なアラームのモードとかがあったのか?

アラーム設定の画面を開いたり、いくつかアイコンをタップしていたら、写真のアプリに見覚えのない画像があるのに気がついた。


「動画?」

『‥‥‥桜威〜?どこに居るの?桜威〜!』

「え?母さん?」


動画をタップしてみたら再生された映像に映っていたのは母さんの姿だった。泣き顔で俺の名前を呼んでいる。


「‥‥何だこれ?こんな画像あったか?」


カシャン!ボトッ。


画像を凝視しようとして画面に顔を近づけたとき、右腕に嵌められていた腕輪が音を立てて外れて、地面に転がった。


「‥‥え?」


何がなんだかよくわからなかった。俺は驚いて急に軽くなった腕と地面に転がった腕輪を交互に見た。

武井さんも、地面に落ちた呪具の腕輪を見て呆然としていた。


「‥‥広田君‥‥。今何やった?ねえ、何やったの?呪具は?呪具の効果は?」

「え?あ?」


軽くなった腕を振って見たりしていたが、武井さんに言われて、立ち上がり、「逃げて」みた。


「逃げたい」と念じながら駆け出した。足から力が抜けることはなかった。10m程駆けていってから引き返した。両手を広げて武井さんに伝える。


「足がぐにゃっとなりません!呪具から、呪具から解放されました!」

笑顔で武井さんにそう宣言した後、武井さんの表情を見て我に返った。


呪具から解放されたのは俺だけだ。武井さんはまだ、呪具を身に付けているのだ。


「い、今、何があったか振り返ってみます!」


武井さんの表情が少し哀しげに歪む様子を見て,俺は焦りながら携帯の画面をもう一度開いた。


「動画、動画があったんです。見覚えのない動画が‥‥。その動画を再生したら俺の母親が映っていて‥‥。」


俺は動画のアイコンをタップして動画を再生させて武井さんに見せた。

しかし、武井さんの呪具が外れそうな様子はなかった。武井さんは冷静な様子で動画を最後まで見た後に言った。


「ねえ。携帯に入っていた動画はこれだけ?これってさ。広田君のお母さんってことは、広田君にしか有効じゃないんじゃないかな。」

「確認してみます‥‥。え?なんだこれ?」


知らないフォルダがあって、その下にずらりと動画のアイコンが並んでいた。

サムネイルで何となくその意味を予想しながら、冷静になるように努め、ゆっくりと画面をスクロールした。


「これ‥‥多分‥‥召還された人達の家族からの動画みたいに見えるんですけど‥‥。」


武井さんの家族からの動画を探したいのだが、サムネイルを見ても良くわからなかった。一つ試しにタップしてみる。


『久作〜。』

母親くらいの年齢の女性が顔写真の入ったパンフレットのようなものを掲げていた。


「あ、これ、同級生の‥‥。うわ、親子そっくりじゃん‥‥。」


沢山の動画が並んでいるから、武井さんの家族の動画も有るに違いないと思った。でも確証がない。もしなかったら?

家族の顔がサムネイルに映し出されていたら、武井さんの方が見てわかるだろう。武井さんに携帯を渡して直接見てもらっていた。


その間、かなりドキドキした。動画が見つかって欲しいと祈るような気持ちでいた。

家族の動画を見たら、俺と同じように呪具が外れるかもしれない。どういう仕組みなのかサッパリわからないけど。


俺の呪具がはずれたのは、まったくの偶然だったかもしれない。

でも動画を見て呪具が外れなかったとしても、家族の姿の映っている動画はやっぱり見たいだろうと思う。

はっきりと顔が映っていないサムネイルのアイコンをいくつかタップしていて、遂に武井さんの家族からの動画が見つかった。


『和史。お願い!帰って来て。せめて、連絡をして!』


カシャン!ボト。


武井さんの腕から呪具の腕輪が落ちた。

転がった腕輪を二人で見下ろした後、顔を見合わせた。


「外れたーー!」


武井さんが叫んだ。俺も両手を上げて万歳の姿勢だ。二人でハイタッチした。


「武井さん!『逃げて』みてください!」

「あ!うん!行くぞー!逃げるぞー!」


妙に爆上がりしたテンションで、武井さんが叫びながら駆け出した。かなり遠くまで駆けていってから、勢い良く戻って来て、俺に抱きついた。


「解放されたぞーー!」

「やったーー!!やりましたねーー!!」


森の中に俺達の歓声が響いた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る