第192話 やや有能

「よう。お前も勇者か?」

「勇者?って‥‥本木はしゃべれるんだな。」

「ああ、あれか。」


やっと会話が出来るクラスメートを見つけ、俺は本木の近くに歩み寄って行った。

本木はニヤニヤして言った。


「無能なやつはな、兵士人形にされるらしいぜ。」

「兵士人形‥‥?」

「ああ、せっかく異世界から召還したのに能力が低くて役に立たないから、命令に従うしか出来ない人形にされるらしい。」

「まさか‥‥。他のクラスメート全員‥‥?」

「ここに連れてこられないならそうなんじゃねぇの?仕方ないだろ。無能なんだから。」


本木はニヤニヤ笑ったままだ。一体何がおかしいんだろう。


いきなりドアがあいて、騎士が数人は行って来た。その中で中央に立った人物が俺と本木に向かって言った。


「お前達は、今日から我らがオストリコラル王国の為に働いてもらう。お前達は『やや有能』ではあるが、我が国の役に立つにはまだまだ訓練が必要だ。この騎士達に鍛えてもらえ。」

「訓練‥‥?」

「逃げようとは思うなよ。抵抗も無駄だ。あまり言う事を聞かないようなら、他の無能連中と同じように人形にするぞ。」

「‥‥。」


理解できないまま抵抗することも許されず、「訓練」という物を受けさせられた。本木と一緒かと思ったら、別のグループ単位で訓練を行っているようで、まとめて指示を出される時以外は会う事もなかった。


一緒に訓練を受けている騎士達も一切私語を離さない。ひたすら走ったり,剣の素振りをしたり、打ち稽古をしたりをさせられた。


食事は朝と晩に二回。薄い水のようなスープと石のように固いパンだけだった。

地獄のような日々を送っていたらある日、再び何処かに連れて行かれた。


またあの時の水晶の前に立たされた。

あの時と違うのは水晶は台座の上に置かれていて、金髪の女性は近くで腕組みをして見ているということだった。

本木も呼び出されたようだった。水晶に触れろと言われたので、俺が先に水晶の上に手を置いた。


「『やや有能』ですね。筋力はアップしたようですが‥‥。」

「なんですって?」

金髪の女性がジロリと俺を睨んだ。


思わず身構えたが特に何かされるということはなく、「次」と言われて本木が水晶に手を触れた。


「‥‥『やや有能』ですね‥‥‥。同様に筋力の上昇のみです。」


水晶の近く煮立っていた黒いローブ姿の男性がそういうと、金髪の女性がかっと眉毛を吊り上げ目を見開いた。


「『有能者』が一人も居ない?どういうことだ!」


「結局『やや有能』判定の者だけですな。筋力等で基準値を上回る者が二名‥‥。魔力は並程度。魔力を上回っている者もおりますが昨日の判定では『やや有能』のままでした。」

「今回は『賢者』を求めたであろうが!近い者もおらんのか!?」


シーンと周囲が静まり返る。女性はフン!と息をした後に、黒ローブの男性に命令した。


「次だ!次の召還の準備をしろ!」

「この者達はいかがいたしましょう。」


黒ローブの言葉にドキリと心臓が跳ね上がる。

どう見ても、まずい状況だ。詳細はわからないが、期待はずれと判断されたのはわかっている。


「ハズレだ。どうでもいい。そこそこ使えるなら兵士として配置すればよいだろう。」

「御意。」


とてつもなく理不尽な状況だ。勝手に連れてこられて、変な道具を付けさせられて逃げられないようにして、無理やり訓練をさせられたあげく、どうでもいい、と追いやられるなんて。


役に立たないと思われているなら、せめて解放してほしい。

でも、口答えしたら、「人形」にされそうで怖くて何もいえない。

本木ですらその場で言葉を発しなかった。

また促されて何処かに連れて行かれた。


誰か!誰か助けてくれ!

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