第158話 いちお
なんだったんだろう、と思っていたら、パタパタと駆けてくる音がした。またさっきの小さい人間がやってきた。
「いちおあげる」
小さい人間が何か赤い実を差し出して来た。
「くれるの?」
「うん!」
あれ?言葉通じてる?なんだぁ。
器に赤い実がころころといくつか入っていた。表面がブツブツ。小さい種みたいなのがついている。つやつやしていて綺麗。
「いちお?」
「いちお。」
いちお、という名前の実らしい。どうしよう。食べても大丈夫かな。
恐る恐る赤い実に手を伸ばした。
ひんやりしている。感触はちょっと力を入れたら潰れちゃいそうな柔らかい感じ。
そのまま齧れそうだ。
パク。
「甘い!」
「えへへ。」
一口食べてみたら、凄く甘い。それに酸っぱい。僕が「甘い」って言ったら、小さい人間が笑った。
ピコン
赤い実を一つ食べ終わった時、天フォンが音を立てた。
ーーーー天力が1アップしました。警告アラートが解除されました。
「あ!天力がアップしてる!お昼寝が効いたのかな。」
「てんりき?」
「うん!天力だよ。いちお、ありがとね。」
ポンポンと小さい人間の頭を撫でた。小さいなぁ。あれ?人間で小さいってことは「小動物」ってことでいいのかな。
「小さい人間。」
僕は小さい人間に話しかけた。小さい人間が首を傾げた。
「けい。」
「うん?」
「けい。」
「もしかして、お名前が『けい』なの?」
「うん!」
「わかった!けい!よろしくね。僕はルチルだよ。」
「るちう」
「ル・チ・ル。」
「るちりゅ。」
「うん、そんな感じ。じゃあ、けいにミニ祝福を授けちゃおう。」
「みにしゅきゅ。」
「そう。」
僕は「けい」と向かいあって立って「けい」の頭に手を乗せた。
それから‥‥えーっと‥‥。褒めるんだっけ?
「えーと‥‥『けい』は優しいね。僕にいちおをくれた。」
「ん!」
「けい」がニコッと笑った。良い笑顔!
「元気いっぱい。」
「ん!」
「笑顔が良い!」
「ん!」
「‥‥こんなものかなぁ。‥‥。」
「??」
「けい」が不思議そうな顔をしてこっちを見てる。あ、目の下に黒い星が二つ。
ミニ祝福は最後にちょっとだけ、祈るんだよね
「良い子の『けい』に良い事がありますように。」
最後のお祈りの言葉を言った途端、ぶわっとキラキラが辺りを満たした。僕の羽根もブワッと広がったよ。
「わぁ〜。」
ミニ祝福って、「ミニ」って言うくらいだから、ちょこっとした物だと思ったけど、結構凄いんだね。
何だか僕まで元気になって来た気がするよ。
「はい。おしまい。」
天タブを見たら、「完了」の文字が出てたよ。なんだか表示が微妙に違う気がするんだけど、「完了」って出てるから大丈夫なはず!
宿題終わったし、天力も回復したみたいなので帰ろうっと。
「じゃあねー。」
「あー、まってー。」
さっさと帰ろうと思って「帰還」のボタンを押そうとしたら、
「けい」が、いちおの入った器を差し出して来た。え?まだくれるの?
「どーぞ。」
器ごと僕にぐいぐいと押し付けて来た。いいのかな、これ全部もらっちゃって。
「あ、ありがと。」
「るちりゅにもよいことあいますように!」
「けい」がにこっと笑ってそう言った途端、またブワッっとキラキラが広がった。おおー?
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