第150話 進まない捜索

一応、家に関しては俺が住んでいる間は売らない、ということに話が落ち着いた。

俺が大学を卒業して就職したら家を出るのではと考えていたみたいなんだけど、俺は今のところ引っ越しは考えていない。


都心に就職して通うには少し不便だけどね。圭が色々「藍を種から育てて藍染めをする」だとか「綿花を育てて糸を紡ぎ、機織りをする」だとか、奇妙なミッションを遺していて、庭もあるし実践するにはこの場所が都合がいいんだ‥‥という言い訳。


圭の部屋も未だにそのままにしているし、まだ気持ちの整理がついていないんだ。


そんな気持ちの所に、従兄弟の彗汰の面倒を見ていると、気が紛れるというか気持ちがほぐれるような感じがしている。

だから、徒歩で叔母さんの家に通える距離なのも、今のところ丁度いいんだよね。


午後から開催される行方不明者の会合に出席する為に、仁美伯母さんは俺に彗汰を預けて申し訳なさそうに出かけて行った。


「ケイタ、そっち行っちゃだめって!」

「わぁぁ!」


タタタタタタ!


さっきまで、涙目で両親を見送っていたと思ったら、元気に走り回る彗汰。俺が追いかけて捕まえると、キャッキャと笑う。


ふと彗汰の左目の脇の泣きぼくろを眺める。産まれた時にはなかったと思うけど、いつの間にか圭と同じ位置にホクロが出ていた。

最初に見た時はドキっとしたよ。圭が戻って来たんじゃないかって。


でも、彗汰は仁美伯母さんの子だし、迂闊な事は言えないよな。

そもそも圭に戻って来て欲しいっていう俺の願望が、そういう考えを呼び起こしているってことは俺だって分かってる。

でもちょっと圭と重ねてみてしまうし、圭にあまりしてあげられなかったこと、話を聞いたり、一緒に遊んだりをしてあげたいと思っている。


********************************


「へえ,何となく雰囲気変わったと思ったら、そんな感じなんだ。落ち着いたよね。てっきり彼女でも出来たのかと思ったよ。」


Yがウーロン茶を飲みながら、ニヤニヤした。


「今のところは彼女はまだないなぁ」


例の事件の前は、何度かデートをした相手もいたんだけど、事件後に俺が塞ぎ込んでいる間に自然消滅してしまった。


それ以降、彼女を作る機会がなかった‥‥というか、多分ちょっと心を閉ざしてたんだと思う。誰かをデートに誘ったりもしなかったし、大学内とかで積極的に誰かと交流を持とうとはしていなかった。


久々にバイト先でYと同じシフトに入ったんで、バイト後に別の居酒屋で飯を食っている。

バイト先のスタッフが事件当時から大分入れ替わっていて、まかないの席で事件についての話をし辛くなってきていたんだ。

Yはネットで顔出ししている時はスーツ姿で普段とのギャップがあるけど、

事件のことを話題に出していると流石に気付かれる。気付いても大人の対応をしてくれる人ならいいけど、興味本位に聞いてくる奴がいて、それ以降バイト先では、事件の話題はしないようになっていた。


だから、ちょっと話したいときは、帰りに駅前の別の居酒屋に寄っていくんだ。

但し、ノンアルコールだ。

Yはもしも何か妹さんの情報が入った時に、駆けつけられないと困るからという理由で、お酒を飲まない。

俺も、元々そんなに飲まなかったけど、それを聞いて酒を飲まないようになった。従兄弟の瑛太はまだ行方不明だしね。


「ああ、神奈川との合同会合はなぁ‥‥。人数が多すぎるから、ちょっと収集つかなくなるね。」

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