第11章 詩英4
第149話 時が流れて
うららかな陽気。日差しで温まった縁台に腰を下ろして、庭を眺めた。
先週撒いた藍の種がもう芽吹いている。育つとよいな。
「じぇに!」
背後から声がしたので振り向くと、従兄弟の彗汰がぽてぽてと歩いて来た。後ろに仁美叔母さんが少しすまなそうな顔で立っている。
「ごめんね。ジェイ君も忙しいのに頼んじゃって。」
「俺は大丈夫だよ。今日は法要終わったら予定入れてないから。叔母さん達の方が大変だよね。何も今日会合開催しなくてもいいのに。」
「それは仕方ないわ。でも結局ジェイ君にばかりお願いすることになってしまって‥‥。」
「任せちゃって。もう離乳食も卒業なんでしょ。おいで、ケイタ。」
俺が両手を広げると小さい従兄弟の彗汰が、キャッキャと笑いながら突っ込んで来た。
今日は3月14日。圭の三回忌だ。
仁美叔母さん夫婦にとっては、甥っ子の命日であると同時に長男が行方不明になった日でもある。
いまだ何の手がかりもない状態で、同じように行方不明となった同級生達の家族の会合が今日開催されるらしい。
全く。一人死亡していて、その法要があるということをあまり考慮してもらえていない。
「忘れないため。」「過去にしないため。」
家族が行方不明になっている人達が、その日に集まって励まし合おうというのだけど、昨年は一周忌だというのに朝からの会合を計画されていて、仁美叔母さん夫妻からしたら、甥の一周忌と天秤にかけられた状態になってしまっていた。
夫婦で分担することにして仁美叔母さんが一周忌に出て、瑛太の父の和人叔父さんが会合の方にでるかという話になりかけた。でもその後ちょっと揉め事が有って、結局、和人叔父さん側の瑛太の祖父母が会合に出て、仁美叔母さん夫妻は二人と彗汰は一周忌に出席した。
どうも、行方不明の同級生の親同士の会話の中で、死亡した圭に対しての配慮がない発言を聞いて、仁美叔母さんがキレたらしい。
行方不明者の家族に比べて「あの家の子は死んでるから諦めがついていい」というような内容だったようだと和人叔父さんからちらりと聞いたけど、俺もあまり掘り下げて聞きたくないと思って、誰が発言したとか詳しい事は聞かなかった。
そして三回忌の今日、午後から行方不明者家族の会合が予定されている。午後になったのは会場の都合のようだ。
昨年参加した瑛太の祖父母の話では、高校受験が出来なかったとか、今戻ったとしても希望の高校に入学出来るように働きかけておくべきだとかの話題が多くて行方に関する情報などはなく、戻ってから考えれば良いような話ばかりだったそうだ。
それを聞いて仁美叔母さんは今年も会合に参加しないでいようと思っていたらしい。
でも、今回は関東の他の県の行方不明者の家族も参加するということで、何か情報が有るかもしれないと,仁美叔母さんも行く事にしたそうだ。
関東の他の県ということは、Yも参加するのかな。
この時期は新しいスタッフとの入れ替えでシフトが変動的なせいかあまり会う機会がない。
寧ろ、俺自身が行方不明者家族の会の会合にでも行けば会う機会があるんだろうけど、仁美叔母さんが聞いたような発言をする人がいると思うと「死亡者家族は関係ない」とか言う人が出てくる気がする。一応、従兄弟が行方不明なんだけどな。
圭の死の少し前に母さんは家を売って再婚する、と言っていたけど家は結局まだ売っていない。再婚話はストップしていたみたいだけど、彼氏と別れたとは聞いてないので三回忌が終わったら再婚に向けて動き出すのかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます