半分異世界

第146話 救出大作戦

緒方さんと真希さんは救出に協力するかどうか迷っていたようだ。

そして、意外にも尾市さんは「行く」と意志表示をした

。

「ただし、一回だけだ！　それも国境付近だけ。危険そうならすぐ撤退する！」

神殿から旅して来た時の事を考えると、召還された人達ががあの国の何処にいるかもわからない。探し出す事自体が困難で、探そうとすれば何年もかかるだろうという意見だった。

だから、ごく短期間、国境にいた兵士達の中に召還された人達ががいないかだけ確認する、というのだ。

実は、尾市さんはワイちゃんの同級生が国境付近にいた事を聞いていたから、その人の事を念頭に入れていたようだった。

ワイちゃんも尾市さんの狙いに気付いていて、一回だけ短期間という条件ならと行く意志を表明した。

結局、俺と藍ちゃん以外は、救出部隊に入ることになった。

だから俺も、彼らの気持ちを尊重してソーラーモバイルバッテリーを貸し出す事にした。

もちろん、無事に帰って来てちゃんと返してね、とは念を押したけど。

そうして急遽、召還者救出計画が練られて即行で出動することになったんだ。

でも真希さんは救出に行かずに街に残ることになった。同級生の顔は緒方さん達も知っているから敢えて真希さんまで危険を冒して行く必要がないということと、パン屋のや屋台レンタル期間中だったのもある。

緒方さん、尾市さん、ワイちゃんは長くても一泊で戻ってくる計画。その他の人達は長くて２泊の計画ということになっていた。

でも、成果がなかったらもしかしたら椎名さんと石倉さんは、隣国に残るかもとも予想していた。

パン屋の営業にはあまり影響はなかった。

出発前夜にパン捏ねを多めにやって行ってくれた。翌朝は大量にパンを焼いて、一部は翌日に「前日パン」として少し安くして売った。

だから、一晩、パン捏ねの人員が少ない分は「前日パン」で補えたんだ。

値段が安いからか「前日パンをもっと欲しい」というリクエストを沢山貰ってしまったけど。

そして、肝心の救出活動の成果については、なんと二人救出する事が出来たという結果になった。

一人は、ワイちゃんが以前に国境付近で見たというワイちゃんの同級生、柊平祐さん。ワイちゃん曰く「ピーラギ」さん。

もう一人は尾市さん達の同級生で、三輪有城さん。

残念ながら石倉さんが救出したいと言っていた同級生の女子は国境付近には見つからなかったそうだ。そもそも国境付近には女性兵士は配置されていなかったらしい。

救出できたのはいいのだけど、ちょっとショッキングな出来事があった。

椎名さんが石倉さんに振られたのだ。

三輪さんは元々石倉さんと同じ部活で石倉さんが片思いをしていた相手らしいんだ。

ちょっと‥‥、それはないでしょう？って思うんだけどね‥‥。

短期間でも宿は一旦引き払っているから、街に戻って来た時には、椎名さんと石倉さんが同じ部屋に泊まっていたという事実はなかったことにされたようだ。

椎名さんはかなりショックを受けていたけど、尾市さんとしては、椎名さんが石倉さんの感情に振り回されているように見えていたから、実のところ別れてホッとしたらしい。

石倉さんは女子部屋に戻り、柊さんと三輪さんで一部屋、椎名さんは俺と尾市さんの部屋に戻ることになった。

新たに救出された人の宿代は貸しにして、狩猟ギルドで稼いで返してもらう事になった。教会の寄付食糧の配達を勧めて初回限定特典の事も教えてあげた。

救出作戦は色々荒技を使ったようだった。

身分証がないと国境を越えるのが難しいということで、隣国に入ってから脱出者用の身分証を作ったのだそうだ。

名前もPとかRとかHとか適当な名前でで男女分をいくつか。

次は、国境付近に配備されている兵士に日本人顔の人物がいないかを歩き回って探したらしい。

見つけたら救出メンバーに伝えて状況を確認して段取りを決める。

大体は、一人が対象の召還者になんとか近寄って「家族からの手紙」を見せ、その間、他のメンバーが周囲の兵士の気を逸らすようなことをしておく。

「家族からの手紙」と一緒に日本語で書かれたメモで、巡回だとかで不自然じゃない形で一人になるように指示をだしていて、

後は動画を見せて解呪。

そして変装させて身分証を持たせて脱出。

よく他の兵士とかに見つからなかったなと思うような、ヒヤヒヤする作戦だった。