第109話 席確保

席を確保したいので早めに集合することにするという作戦を、ライアンさん一家を含む、全メンバーに伝えた。ライアンさんはちょっと苦笑していたけど反対はされなかった。


各部屋で携帯のアラームを設定すべきかという議論もあったけど、鐘がなる15分前くらいに俺と尾市さん、椎名さんで手分けして皆の部屋に声をかけに行けばよいという話になった。


食堂集合の手回しは無事完了。といっても夕食の鐘が鳴る30分前だ。なんだかんだバタバタしている。

何気なくスマホに目を落としてログイン。写真アプリを開いた。サムネイルに圭の写真が見えたのでクリック。


ちょっとはにかんだような微笑みを浮かべている圭。よく見たらシャツが透けていて「K」って書いてあるTシャツを着てるのが分かった。

圭,御前もアルファベット名だったか‥‥。


「圭、無事に召還国を脱出できたよ。」


圭の写真に向かって報告した。

『可能であれば逃げろ』

この世界にきて最初にみた圭のメモに書いてあった言葉だ。

圭も一緒だったら‥‥。口にしたら感情が溢れ出てしまいそうで、口元を引き締めた。

数秒だけ目を閉じて、祈った。


圭、俺達頑張るからね。


そう心の中出誓ってから部屋に戻る為に階段を上ろうと手すりに手をかけた。人影が目の端に移ったので見上げると、上階から降りてくる人物がいる。

栗色のちょっとくせ毛の髪をした少年。年齢は俺と同じくらいだろうか。


そのまま上るとどちらかが進行の邪魔になるので、反対端に移動。栗色の髪の少年はちらりと俺の事を一瞥した後、何も言わずに階段を下りていった。

ちょっと高級そうな服を来ていたから貴族かもしれない。


俺、無礼なことしたりしてないよな。

ちょっとドキドキしながら一度振り向き、栗色の髪の少年が厨房の方に向かっている後ろ姿を見つめた。


携帯のアラームが鳴る。それまで各自ベッドに寝転んだり日記のような物を付けたり、自由にしていたが即座に全員立ち上がる。

部屋を出て、あらかじめ決めてあった通りに各部屋に呼びにいった。

そして鐘がなる5分前に食堂前に集合した。


ディーン君やジーナちゃんは、何をしようとしているのか良くわからない様子だ。

ちなみに鐘がなる前に並んでいるのは宿のルール的にOKらしい。


最初に偵察に行った時は食堂の扉は開いていたけど、今は鍵がかかっていた。鐘が鳴るのと同時に食堂の扉を開けることになっているらしい。

宿の人がやって来てニコニコしながら俺達に挨拶にきた。


「こんなに早くいらっしゃる方達は始めてですよ。」

少し面白そうに大げさに驚い多様な顔を見せた。


宿の人がポケットから出した鍵で食堂の扉を解錠した。あらかじめ「中に入るのは鐘が鳴ってからです」と念を押された。


「まあ、ここでお待ちいただくのは賢明かと思いますよ。今夜は奥の部屋の予約の問い合わせが何件かございましたから。」


小部屋、人気なのか!


席の確保はなんとかなりそう、と、胸を撫で下ろす。何となく並んで待ってるのって日本人ぽいかも、何て考えながら。


鐘が鳴った。宿の人のにこやかな笑顔とともに扉が開く。

食堂には既に壁に灯りが灯されていたが、俺達が席に着くと、テーブル毎にランプが置かれた。

俺達が並んでいたから気を遣ってくれたのか、席に着くとすぐに果実水をもってきてくれた。

ほっとしていたら、食堂の入り口の方からバタバタと足音が近付いて来た。


「お客様、困ります。お客様!」


慌てたような声が聞こえた。

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