第37話 これからを考え始める

祈りを捧げる。ライアンさん達は多分全然違う祈りなんだろう。俺はお経とかを唱えることはできないから、ただ手を合わせて安らかにとだけ祈った。

そして穴を埋めた後、兵士達は別の穴を掘るチームと火を起こすチームにわかれた。


別の穴はなんだろうと思ったら、血がにじんだぼろ布が放りこまれていた。神殿の床を拭いて来たもののようだ。

俺達の服も血まみれだったけど、もう乾いてガビガビになっていた。

ライアンさんも鎧の上の血を大ざっぱに拭ったような状態だった。


辺りは大分暗くなってきていた。


「ここで野宿をする。何もないが、この辺は魔獣も来ない。少し休め。」


火はどうやって起こしたんだろう。よく見ていれば良かった。


僕らをぐるぐる巻きにしていた布を地面に敷いてその上に座り込んだ。ぱちぱちと小枝が燃える音がする。

こっそりと圭の手帳を取り出して、中を確認しながら、ライアンさんに通貨の事とかを聞いてみた。

鉄貨、銅貨、小銀貨、銀貨、小金貨

ライアンさんが並べて見せてくれた。

その上に金貨、大金貨と続くらしい。

銀貨2枚くらいが安宿の相場だという。

ライアンさんは並べた硬貨をさっと手で集めると、革の袋に入れて俺達に差し出した。


「持って行け。」

「あ‥‥ありがとうございます‥‥。あの‥‥これ‥‥。」


俺は、がさごそと鞄に手を突っ込み、岩塩と胡椒の入った小さい紙袋を一つずつ差し出した。


「これは?」


ライアンさんは紙袋を手に取って中を覗き込み、眉をピクリと上げた。

「それ‥‥差し上げます。売れそうですか?売って、大丈夫そうかも教えていただければ。」

「‥‥塩か‥‥。こっちは‥‥胡椒じゃないか‥‥。」


指で摘める2cm角くらいの岩塩と胡椒10粒。


「塩はこのくらいだと小銀貨一枚か‥‥。胡椒は滅多に手に入らないから値段が判らない。量は多くないから小金貨1枚くらいか‥‥。」


ライアンさんが胡椒の紙袋を返して来た。

俺は両手でそれを押し戻した。


「小金貨一枚なら貰ったお金と同じくらいですし‥‥。」


胡椒は売れることは売れるようだ。でも無難なのは塩なんだな。

ライアンさんは、じゃあ、といって塩と胡椒の入った紙袋を懐にしまった。


ぐぅ〜と急に腹が鳴った。

周囲に聞こえたいたはずなのに皆表情を変えない。逆に恥ずかしい。

あ、今朝コンビニでパンを買えば良かった。そんな暇なく教室に向かったんだったな。チョコバーかなにか持ってなかったかな。

ごそごそと鞄に手を突っ込んだ。

藍ちゃんも鞄をあけている。


「あ、私お菓子持ってた‥‥。でも‥‥。」


声が小さくなる。あ、それって俺がホワイトでーに上げたやつか‥‥。藍ちゃんもいつも俺と一緒に朝コンビニに寄ってパンを買って昼食にしていた。

俺と一緒に食べる為なんだと思うけど。

今日は藍ちゃんも朝食買って来なかったパターンだな‥‥。


「あ!」


鞄をのぞきこんでいた藍ちゃんが、少し大きめの声をあげた。

ずずずとタッパーらしき物を引っ張り出す。結構大きいサイズだ。


「おにぎり‥‥。圭君の‥‥。」


パッとしてから、ズンっと鼻の奥が熱くなる。


「それは‥‥。」


食べちゃっていいものなのか?圭の持ち物なんだぞ。

俺の気持ちを察したのか、藍ちゃんが俺の顔を覗き込んで言った。


「腐っちゃうよりずっとよいよ。食べようよ。」

「‥‥うん。」


藍ちゃんが布の上にタッパーを置いた。凄い量のおにぎりだ。これ、圭の昼食?多すぎじゃね?

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