〈七日目〉
事件解決?
そのようにして、粛清案件は止まった。
解決でも未解決でもなく、ただ静止した。
もちろん、そのあいだも調査と推理はしていたが、それよりも確実な情報の到来を待って、ふたりは遊郭に在留しながら、残り数日を過ごした。
めずらしく、シンのほうもよく資料に目を通していた。
もともと、シンは調査するなかでひっかかりを覚えていた。
それがなんなのかわからなくて、たしかめるためにページをめくり、この数日のできごとをよく思い返していた。
そうして、霧の夜がふたたび今夜にまで迫った日のことだった。
「おっめでとぉぉぉ」
連盟支部の近くにある茶屋の個室に入室したふたりを、ユンファがぱぁんとクラッカーを鳴らして出迎えた。
カラフルな紙切れを取り払うと、シンは聞いた。
「……なんのつもりだ」
「え? そんなん決まっとるやん。幽霊左近粛清案件やぁ! 解決したんよ」
ふたりは顔をみあわせた。
「どういうことです? ユンファさん」
「敷善切定の隠れ家がなぁ、みつかったんや。東の大門の先、クセン寺の近くにあるアパートの一室やぁ。敷善切定の女にも裏が取れたから、まずまちがいないよぉ」
「そこで、なにがみつかったんだ」
「幽霊左近のマスクと白い装束が、床下から。血液反応を採ったら被害者のものと一致していたから、確実に犯行に使用されていたものやぁ」
シンはおどろいた。
それはたしかに、決定的な証拠といえた。
「それにな、余罪がたんまり出てきたんやぁ。敷善切定に脅されていた連中からのリークやと思うけど、こっちで犯人が特定できていなかった過去の事件のいくつかが、敷善切定の手によるものだったみたいなんよぉ。連盟関係者の殺害とかもあったりしたから、大金星やなぁ」
一連の報告をまとめておいてくれたらしく、ユンファが机にファイルを置いた。
「というわけで、事件は解決! んー、いい気分やねぇ。さすが、ボッチさんがわざわざスカウトするような粛清官はちゃうわぁ。シルヴィちゃんも、すごい捜査力やったし」
ユンファは、今夜はお祝いやなぁとしばらく笑った。
それから、ふと小首をかしげた。
「え、ふたりともどしたん? なんで一ミリも喜ばんの。こわ。ストイック?」
「そういうわけではありませんが……」
シルヴィが目配せしてきた。
どうやら、向こうも考えていることは同じようだった。
「すみません、ユンファさん。わざわざお呼びいただいて恐縮ですが、わたしたちはここで失礼します」
「え、もう帰っちゃうん? お祝いに気分がよくなる飲み物でも呑みにいきひん? うち、おごるよ!」
「まだ帰るわけではない」
シンは襖を開けると、靴を履いてから振り向いた。
「――最後にたしかめたいことがある」
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