第15話 綾子だって憤慨する
紫さんのおっしゃることを全部聞いてから私は憤慨した。
私に随分配慮しているようには聞こえたけれど、私のことを蔑ろにしている、私のことを私以外の人たちで決めてしまっているじゃないかと叱責した。
「来週?私にだって予定があります!」
私はそう言って、ホテルを後にした。
家に帰って、父が申し訳無さそうな顔をしていた。私が帰宅するよりも前に紫さんから連絡があったんだろう。私に話しかけたそうで、なにをどう言ったらいいのかが分からないといった体をあからさまにしていた。私の方はあんまり頭にきていて、父に一言だって話しかけてやるもんかと息巻いていた。
夜九時になるほんの数分前に電話がかかってきた。貴一さんからだった。私は応答するべきか迷った。電話の呼び出し音が一一回目に繰り返されたとき、やっと応えることにした。
「ごめんなさい。」
貴一さんは名前も名乗らず、これが第一声だった。スマホの向こう側の申し訳無さそうな顔が浮かぶような、か細い声をしていた。そして気まずそうに続けた。
「母が大変失礼なことをしてしまったようで本当に申し訳なく思っています。」
そんな風に言われて私は返す言葉がなかった。むしろ、こんなに謝ってくれる貴一さんに申し訳なく思った。
「でも、分かってください。母も綾子さんをぜひにといって、やっと良い人に出会えたって、はしゃいでしまったんです。」
「あの、それはもう大変ありがたく思うんですが、私にもその…」
「ええ、ええ。」
「それに、突然来週と言われましても」
「忘れてください。来週のことは。」
「…いいんでしょうか?」
「お願いします。忘れてください。そして、許してくださるならば、また連絡させてください。」
「あ、はい、連絡いただくのは…。」
「ありがとう、綾子さん。また、近いうちに必ず連絡させてください。今日のこと、来週のこと、どうぞ忘れてください。本当にごめんなさい。」
それは、とても後味の悪い電話だった。そして、私はその後、貴一さんからの連絡を待つ悶々とした日々を送ることになるのだった。
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