第3話 関係の始まり

 今日も残業があり少し遅くなってしまった。4月、5月、6月が過ぎ、日の上っている時間はすごく長くなっているが、それでも家に着くころには十分暗くなっていた。

 家に着くと玄関の前で彼女は星を眺めていた。

 彼女とのこんな関係が始まった時もこんな感じの状況だった。


 4月、新年度となり、会社は新人を迎えいろいろと忙しくなっているときだった。俺はいつもより帰りが遅くなってしまい、珍しく終電で帰っていた。疲労困憊で家に帰ったらすぐに寝ようと考えていると、見知らぬ女性が玄関の前にいた。


「あの、ここ俺ん家なんですけど」

「知ってますよ、お仕事お疲れ様です。これどうぞ」


 女性から何かが入っているビニール袋をもらった。ぱっと見た感じお酒やつまみが入っており、なぜこれを渡されたのかよくわからない。


「えっと、これは?」

「まあ食べてください。私はこれで」


 見知らぬ女性はどことなく寂しそうな表情をしており、このまま返すことが可哀想に感じるほどであった。


「あの、もしよかったら一緒に食べませんか?一人だと寂しいもので」

「何を言ってるんですか、こんなよくわからない女子を家に上げるんですか?」

「あっ、そっちの理由なんか」

「何よそっちって」


 それはもちろん、男性の家に女性を招くのが危ないでしょってほうなんだけど。


「俺は一人でお酒を飲むのが寂しくてね、飲み相手が欲しいと思っただけなんだよ」

「まあ、それは一理ありますけど。わかりました、少しだけ相手をしてあげましょう」


 やや上から目線なのが気になるが、飲み相手がいないのはどことなく寂しいものだからね。


「へー結構きれいにしてるんですね」

「まあ、汚いと虫わいたりするし、そんなに家にいないからね」

「偉いですね」


 仕事でいないときは多いし、休日もやることが少ないので、まずは掃除をしている。めんどくさいけど虫が大の苦手であるため掃除をしないと気が済まないまである。


「じゃあ乾杯」

「乾杯」


 彼女はお酒に弱いわけではなさそうで、すぐに缶チューハイを1つ開けた。


「お酒強いの?」

「弱くはないけど、強いわけでもない。なんかたくさん飲みたい気分なだけ」


 現代はストレス社会だからね、お酒も飲みたくなるよな。俺もストレスでお酒を大量に飲んで、よく泥酔状態で帰っているはず、あんまり覚えてないけど。吐いたりとか二日酔いをあまりしない体質なのでよくわからないのである。


「ね~お兄さん、お酒が進んでないんじゃないの?」

「いいだろ、俺のペースがあるんだよ」


 彼女はだんだん仕上がっており、結構絡んでくるようになってきた。ん-やっぱり素面だと絡み酒って結構うざいんだな。こっちも酔いが回ればそう思わないんだろうけど、酔われると心配が勝ってあまり酔えない。


「そうだ、家になんか食材ある?なんか作ってあげようか」

「あー冷蔵庫になんか入ってるとは思うけど。そんな状態で作れるの?」

「ご心配なく、これでも料理が得意なんですよ。さすがに今は簡単なのしか作れないけど」


 そんなことを言いながら彼女は少しふらつきながらもキッチンへと向かっていった。本当に大丈夫か?


 数分後、冷蔵庫にあったものをいい感じに炒めて運んできた。心配だったので料理姿を見ていたが、普段からやりなれているのか酔っている状態でも随分と手際がいい。


「おまたせ~」

「おー、美味しそう。いただきます」


 これは美味しいな。お酒に合うようにやや塩気が効いているためお酒が進む。


「美味しい、お酒に合うね」

「これで料理が得意なことわかったでしょ?」

「そうだな、別に疑ってはいないけど」

「嘘だ~私が料理しているところ見てたでしょ」


 なぜわかった、彼女が料理をしている間はこちらの様子を見る様子はなく、ばれてないと思った。


「見てたのか」

「合ってたんだ」

「適当かよ」

「いや、料理し終わってからお酒が減ってないから見てたのかなって思って」


 酔っているとは思えないほどよく見てるな。なんだか、彼女はいつも周りに気を使っている、そうやって生きているのかと安易に考えてしまった。


「てか、ほんとに美味しいな。また食べたいくらいだよ」

「ほんと?」

「もちろん、そんなことで嘘はつかない」


 酔っている状態でかつ短時間で作ったとは思えないほどの完成度のため、普段はどんな料理を作っているのか気になってしまう。


「じゃあ、これからも作る」

「本気で言ってるの?」

「もちろん、君は帰りが遅いから作って待っててあげよう」


 マジか、家に帰ったらご飯があるなんて考えたらこっちも断る理由がない。そして、出会って間もないが悪い人ではないことはよくわかる気がするので信用していい気がする。本当はよくないが。

 

「それじゃあ、この鍵を渡しておく」

「そこまでしなくてもいいのに」

「なんか君は悪い人ではないし、こっちにとって美味しい話だからね、信用して言ってる」

「わかった。いつでも返してほしいときとか、料理がいらなくなったら言って。すぐに返すから」

「おっけ、そうしよう」


 こうして今の俺たちの関係が始まった。そして、毎日家に帰ると彼女が俺を迎えてくれるようになっていた。



「おかえりなさい」


 星を眺めていた彼女は帰ってきたことに気が付き、こちらに振り返りながら言ってくれた。

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