ミステリーとは言えない。

エリー.ファー

ミステリーとは言えない。

 謎がそこにあったのだろうか。

 僕には分からない。

 解き明かすべき謎があったとして、僕が手をつけるべきだったのか。

 僕には分からない。

 あの日、事件は解決しなかった。

 犯人は、未だに逃亡している。

 警察は匙を投げ。

 すべては迷宮入り。

 春は終わり、夏が来て、秋を見つけた頃には、冬がすべてを攫って行った。

 事件が解決するような日は二度と来ないだろう。

 そう、思っていた矢先のことだ。

 僕の家に、男が訪れた。いや、便宜上、男としただけで、女性の可能性もあるし、場合によっては宇宙人の可能性もある、とだけ言わせてもらう。

 とにもかくにも。

 そうして、あの事件の犯人はやって来た。

 僕は迎え入れた。

 何を語るのか興味があったし、ある程度は事件について推理をしていたので答え合わせの意味も兼ねていた。

 ただし。

 犯人の独白、というのはどうなのだろう。

 行ってしまえば、回答を出していないのに始まる真実の明滅。

 ミステリーとは言えないだろう。

 では、サスペンスか。

 いや、そんなことはないのか。いや、あるのか。

 そもそも、僕はミステリーとサスペンスの違いすら分かっていない。


「あなたにとってミステリーとはなんですか」

「菊の花です」


「あなたにとってミステリーとはなんですか」

「答えです」


「あなたにとってミステリーとはなんですか」

「真実です」


「あなたにとってミステリーとはなんですか」

「謎と崩壊です」


「あなたにとってミステリーとはなんですか」

「興味もありません」


「あなたにとってミステリーとはなんですか」

「どうでもいいです」


「あなたにとってミステリーとはなんですか」

「日常ものが大好きです」


「あなたにとってミステリーとはなんですか」

「分かりません。まだ、考えています。すみません」


「あなたにとってミステリーとはなんですか」

「何だと思いますか。当ててみて下さい」


「あなたにとってミステリーとはなんですか」

「ミステリーです。それ以上でもそれ以下でもありませんね」


「あなたにとってミステリーとはなんですか」

「どうでもいいです。本当に興味がなくって、すみませんね」


「あなたにとってミステリーとはなんですか」

「本格とか好きですよ」


「あなたにとってミステリーとはなんですか」

「趣味ですね」


「あなたにとってミステリーとはなんですか」

「命の次に大事なものです」


「あなたにとってミステリーとはなんですか」

「ミステリーってなんですか。人の名前ですか」


「あなたにとってミステリーとはなんですか」

「豚肉ですね。前菜とかでよく出てきますよね」


「あなたにとってミステリーとはなんですか」

「むしろ、あなたにとってのミステリーの定義を聞きたいですね」


「あなたにとってミステリーとはなんですか」

「さようなら。話しかけないでね」


「あなたにとってミステリーとはなんですか」

「面白いシャツです。あ、違いますか。あれ、何の話でしたっけ。ごめんなさい、もう一回、言ってくれますか」


「あなたにとってミステリーとはなんですか」

「なんだっていいですよ、もう」


「あなたにとってミステリーとはなんですか」

「もしかして、答えがあると思っていたんですか」


「あなたにとってミステリーとはなんですか」

「それくらいのことは、自分で考えた方がいいですよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ミステリーとは言えない。 エリー.ファー @eri-far-

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ