練習試合
2-1
「廉次!」
廊下に道田の声が響いた。
「なんだよ音衣紗」
今岡廉次は、渋い顔をして振り返った。
「あんた昨日も練習サボったでしょ。今日こそ来ないと、退部させられるよ」
「ノンノン、わかってないね。マネージャーなら部員の様子を見ないと」
「は?」
「須野田先輩は足首を痛めている。だから、俺の力が必要なんだよ」
「関係ないでしょ。他にも部員はいるし」
「杉畑先輩は俺より下手だ。ってことは、しばらくはロックのレギュラーは決まり。明日の練習試合も俺がスタメンだね」
「そんな甘えたこと言ってると、いつか痛い目見るから」
「大丈夫。天才は頼まれてでも行くことになるから。ま、今日まではゲームやる日って決めてるのー」
「あ、今岡君は今日も来ないんだね……」
ひょっこりと二人の間に現れたのは、此村だった。体は大きいが、かなりの猫背なので小さくまとまって見える。彼と今岡は、同じ一年C組だった。
「行かなーい。此村は頑張んないと試合出れないもんなー」
「今はまだ出なくても。緊張するし……」
「和之介に負けていいのかよ。お前の方がでかいしラグビー歴長いだろ」
「負けないように頑張るよ。今岡君も行こうよ」
「なんでそうなるんだ」
「廉次、覚悟決めなさい。このままだと江里口君に置いていかれるよ」
「俺は今も負けてねえ! わかったよ、行くよ。あー、明日試合から帰ったらゲーム絶対やるわ」
そんな騒がしい様子を、後方から観察している眼鏡の青年がいた。ホールである。彼もまた三年C組だった。今岡と此村とは、普段からあまり絡みがない。しかし同じ部活である以上、いつかクラスメイトと打ち解けたいと機会をうかがっているのである。
だが、道田が引っ張るようにして三人は先に行ってしまった。ホールは、活発な女の子も苦手だった。
「やっぱりボクには向いてないのかなあ」
「えー、明日の対戦相手、
部活後、グラウンドで部員たちは鹿沢監督の話を聞いている。今岡は帰りたそうにきょろきょろとしていたので、江里口に頭をつかまれた。
「おいっ」
「ちゃんと聞けよ」
「聞くよ」
松上が苦笑する。怒りたいところでもあったが、彼自身が一年生の時は今岡タイプの部員だったのだ。
スポーツ推薦で入学した彼には、レギュラーが保証されているという自信があった。自分の力は頼りにされる、と思い込んでいたのである。また、中学時代彼の所属していたギガンテスクラブは、自由な集団だった。先輩後輩関係も薄く、練習も強制ではなかった。
そんな彼が変わるきっかけを与えたのは、クラブの先輩、芹川だった。芹川も、元々さぼり癖があった。そんな先輩の変わった姿を見て、松上は驚いた。そして芹川は、松上に言った。「今のままでも、お前は試合に出られるだろう。ただ、今のままだと、チームは強くなれない」
同じ言葉を、今岡に言うことはできる。しかしその役割を、他の部員に託してもいいのではないか、と松上は思っていた。その言葉を言えるようになった時、先輩としても成長できるはずである。
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