24 故郷に帰ってみた⑤
「皆様方、そろそろソクルに着きますよ」
御者台からそう声が聞こえた。
リリアが外を見るとソクルの町並みが見えてきていた。
日はもう傾き始め、辺りが赤くなっている。
馬車の中での話が予想以上に弾み、全然時間の経過に気付かなかった。
今までどんな旅をしてきたのかとかメイスイとはどこであったのかなど色々なことをユリに聞かれたので、聖女だったことを隠しつつそれについて話していたのだ。
そのときにメイスイは妖狐という聖獣であるという事を話したのだが、ユリは妖狐について全く知らなかった。ジョルジュは名前を聞いたことがあると言っていたが、それ以外は何も知らないらしい。
情報が命だと聞く商人でさえ知らないというのは、メイスイがそれほどまでに人間と関わってこなかったという証拠だろう。
逆に何故、今になって自分についていくことにしたのかとても気になる。
ちなみに、耐えかねたのかメイスイは途中でユリの腕の中から逃れ、リリアの膝の上に移動していた。
とにかく、ソクルへの道中は思いがけず楽しいものになった。
馬車が段々と速度を落としていく。そして、ガタンと一度大きく揺れ停止した。
リリアとメイスイは御者が開けてくれた扉をくぐって馬車の外へと降り立つ。
目の前にはソクルの町並みが広がっていた。
5年ぶりに見る故郷の景色である。
「ジョルジュさん、ユリさん、御者さん、ソクルまで送ってくださりありがとうございました」
馬車の横にいるジョルジュたちの方を向きお礼を言う。
「いえ、もとはといえばリリアさんたちが私たちを助けてくださったおかげですから」
「そうですわ。リリアさんとメイスイさんがいなかったら、わたくしたちきっとここに着くことができていないのですもの」
ジョルジュとユリが言う。
ただ、そう言うユリは残念そうな目をしながらメイスイを見ていた。
やはりモフモフは世界共通の癒しなのである。これでつながれる世界がある。
メイスイはその視線から逃れるように私の後ろに隠れてしまった。
「もしよろしければ宿の方も私たちの方でご用意できますが、本当によろしいのですか?」
馬車の中でジョルジュから、ソクルでの滞在先を用意するという申し出を受けていたのだ。ジョルジュたちと同じ宿にリリアたちが泊まれる部屋を用意してくれるとのことだったが断っていた。
「はい。お気持ちは嬉しいのですが、今日行くところは決まっていますので」
「そうですか。では、最後にお礼をさせてください」
そう言い、ジョルジュが金色のコインを渡してくる。
「これはわたくしが商会長を務めますワインダー商会で発行しておりますコインです。この先のクラケスをはじめ色々な場所で店を構えておりますので、もしお立ち寄りの際はこれをご提示ください。サービスさせていただきます」
「ありがとうございます」
リリアは渡されたコインをありがたくいただく。
馬車に乗せてもらったり宿を用意してくれると言ってくれたり、商会のコインを渡してくれたりと本当に色々と良くしてくれる。たまたま通りかかって助けただけなので、逆に申し訳なくなるくらいだ。
「それでは私たちは宿に参りますので、ここでお別れさせていただきます。本日は本当にありがとうございました」
「リリアさん、ありがとうございました。メイスイさんもぜひまたお会いしましょう」
「こちらこそありがとうございました。またお会いしましょう」
二人に別れの言葉を述べる。御者にもありがとうございましたと言うと、帽子を脱いでお辞儀をしてくれた。
その場から離れリリアとメイスイはソクルの町の中へと入っていった。
周りを見回す。
本当に久しぶりの、懐かしい街並みだ。
「ここがリリアが昔住んでいたところなんだね」
「はい。物心ついたときから12歳まで住んでいました。たとえばあそこ」
リリアが道の端に立つ一本の木を指さす。
「町の外は危ないからと行かせてくれなかったので、よくあの木に登って友達と遊んでいましたね。でも、そのたびに八百屋のおじさんにはあぶねえぞって怒られました」
「リリアって意外とお転婆だったんだね。それが将来聖女をやってたなんて信じられないや」
「あとはそうですね――」
そんな感じで歩きながらメイスイとの会話に花を咲かせる。
5年ぶりとはいえよく覚えているものだ。
とはいえソクルは王都よりも長く住んでいたのである。それに楽しかった思い出もたくさんあるから、覚えているのも当然なのかもしれない。
町の真ん中を通り過ぎ、端の方へと歩いていく。
しばらくすると、少し開けたところに立つ白い教会のような建物が見えてきた。
「見えてきましたよ。あれが私が暮らしていた孤児院です」
リリアが指をさし言う。
5年たつというのに全く変わっていない。自分の記憶に残る姿そのままである。
もう夕方ということで庭には誰も出ていない。そろそろ夕食の時間なのだろう。
庭を横切り建物の入り口へと歩いていく。
「こんにちは!」
コンコンと若干強めに扉をたたきながらリリアが言う。
しばらく何の反応もなかったためもう一度扉をたたこうかと思うのと同時に、中から誰かが小走りに近づいてくる音が聞こえてきた。
足音が段々と大きくなっていくと、ガチャリという音を立てて扉が開き中から人が顔をのぞかせた。
「はい、どなたでしょう?」
出てきたのはシスター・ロキアであった。
あの頃から変わらない優しい顔には幾分か皺が増えているようであった。
「お久しぶりです、ロキア先生。リリアです。覚えていますか?」
ロキアの目が驚きで見開かれる。そして、リリアに抱き着いた。
「もちろんですとも。お帰りなさい、リリア」
「ただいまです、先生」
リリアもロキアを抱き返した。
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