20 故郷に帰ってみた①
ローディアの宿屋の部屋。
そこでリリアは地図を開いていた。
この国、コレスティア王国の地図である。
王都はちょうど国の真ん中にあり、ここローディアはその北にある。
「さて、次はどこに行きましょうか」
そろそろここに来て3週間である。思ったより長くいたものだ。
だから、そろそろここを離れて他の街を目指そうかと考えていた。
「メイスイさんはどこかおすすめの場所はありますか?」
小さくなってベッドの上で転がっているメイスイに尋ねる。
どうやら最近はベッドの上が気に入ったらしい。始めは少し渋っていた小さくなる変化の魔法も、今では街に来ると自分から進んでするようになっていた。
正直とてもかわいい。
「僕に聞かれてもわかんないよ。確かにいろんなところに入ったけどさ、それがどこかなんてわからないし。地図なんて人間が作ったものでしょ」
たしかにその通りだ。
メイスイは長い間、人間とは離れて生活していたとのことだった。人間が勝手に作った枠組みである地図にはとらわれてなど全くいなかったのだろう。
依然ゴロゴロし続ける妖狐から地図へと視線を戻しリリアはまた考える。
このまま知らない方向へと進んでいくのもいいし、その逆に王都の方面へと戻ってみるのもいい。
聖女を辞めてからまだそれほど経っていないが、それでも知らないこと知らないものが世の中にはたくさんあることがよく分かった。
きっとどこに行っても新しい発見があることだろう。
「聖女を辞めた…」
リリアがふと呟く。
それに関して何か忘れているような気がするのだ。
引継ぎもある程度終わらせてきたし、できる範囲でお別れも済ませてきた。もちろん忘れ物なんてないだろう。
うーん、としばらく悩んでリリアははっとした顔をする。
「孤児院の先生に伝えていませんでした」
そう。リリアがもともといた孤児院の先生――シスター・ロキアに聖女を辞めたことを伝えていなかったのだ。
今から5年前、聖女になるからとマルコスに連れられて出たあの孤児院の先生である。
最近は自分のやりたいことばかりしていたが、ロキアはきっと今もリリアが聖女として頑張っていると思っているだろう。
別にリリアが勝手に聖女を辞めたわけではないが、そう思われたままなのはなんだか申し訳ない。
リリアは椅子から立ち上がり言う。
「よし、決めました。次はソクルに行きましょう!」
ソクルはリリアがいた孤児院のある町だ。ここから北東の方角にある町だが、規模としてはローディアよりもかなり小さい。
聖女を辞めたことは手紙とかを使って伝えてもよいのだが、今の自分は自由の身である。どうせなら直接会いに行って伝えたい。
「ソクル?そこは何があるの?」
「私の故郷です」
「もともとそこに住んでたんだ」
「はい、聖女になる前に。そうですね、ぜひ私の先生にメイスイさんのことを紹介させてください」
聖女はやめてしまったけれど、今はこんな仲間がいる。それをロキアに伝えたいのだ。
「わかったよ。で、いつ出発するの?」
「そうですね、ソクルに着くまでに少し日数がいるでしょうし、食料とか買い物はしておきたいですね。ですから、明日でしょうか」
「了解。じゃあ僕はこのベッドとのお別れをしておくからリリアは買い物に行ってきなよ」
会話が終わるとメイスイはまたゴロゴロタイムへと戻ってしまった。
取り敢えず買い物を済ませてこよう。
そう思いリリアは宿屋を出たのであった。
翌朝、小さいメイスイを抱えながらリリアはローディアの道を歩いていた。目指すは東門である。
「思ったより長居してしまいました」
街並みを見ながらリリアが言う。
本当にそうだ。当初はそれこそ一通り見たらすぐに他の場所に行くといったように、短い間でいろいろな場所を巡ろうと思っていた。
だけど、想像していたよりこの街は楽しかった。だからこそ、滞在が長引いてしまったのだ
「そんなに長くいたの?」
「はい、3,4週間くらいですかね」
「なんだ全然短いじゃないか」
メイスイからすると3,4週間なんて全然短いらしい。
妖狐はとても長生きだと聞いたことがある。その尺度からすると人間にとっての長いなんてメイスイにとっては一瞬なのであろう。
気付くと早くも城門についていた。
衛兵の人に軽く会釈をしながら城門をくぐる。
衛兵もそれに返すように、いってらっしゃい、と手を振ってくれた。
街を出て少し歩いたところでずっと抱いていたメイスイをおろす。
メイスイは変化の魔法を解き大きくなると、
「ん~~」
と、一つ伸びをした。
リリアは鞄から地図を取り出しソクルの街への道順を確認する。
伸び終えたメイスイもそれを覗き込みに来る。
「基本的にこのまま舗装された道を進んでいけば着きそうですね。途中で分岐はありますが、それはまたその時に確認しましょうか」
そう言い、リリアは地図を鞄にしまった。
そして、しゃがんでくれているメイスイの背中に乗る。
「メイスイさん、今日もお願いしますね」
「なんか背中に乗るのが普通になってるけど、僕は高貴な聖獣なんだからね!乗せるのは本当は特別なんだからね1」
「ありがとうございます、メイスイさん」
「まあ、わかってくれるならいいけどさあ」
そんな会話を交わし、一人と一匹はソクルに向け出発したのであった。
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