19 【報告】新しい仲間が増えました⑧

「ふう、今日は疲れました」


 ローディアに来てからずっと泊まっている宿。

 そこの借りている部屋でリリアはベッドに倒れこむ。

 今日は本当に疲れた。

 いつも通り簡単な依頼をこなそうと思っていただけなのに、少し離れた村に行ったばかりか魔物の退治までしてしまった。


「ここならだれもいないし、元に戻ってもいいよね」


 そう言ってメイスイが元の大きさに戻る。

 なんといっても今日の大きな変化はメイスイが仲間になったことだ。

 まさか妖狐に出会えたばかりか仲間になるだなんて朝の時点では考えられなかった。

 これはあの動画を撮るしかないだろう。


「メイスイさん。明日一緒にメイスイさんの動画を撮りましょう!」


 そう、新しい仲間ができたことを報告する動画だ。

 よくパーティーで冒険や旅をする冒険者にとって、新しい仲間ができたことを報告する動画は定番である。

 妖狐とはいえ、折角新しい仲間ができたのである。それならば動画を撮るしかないだろう。


「えー。面倒くさいな」


「でも、動画撮影に協力してくれるって言ったじゃないですか」


「確かに言ったけどね、動画に出るとは言ってないよ」


 どうやらメイスイはあまり乗り気ではないらしい。こちらを見ずにその場で丸まっている。

 でもどうにか出てほしい。新しい仲間ができた報告の動画はリリアの一つの夢なのだから。

 そう思いリリアは考える。何かメイスイを説得する材料はないだろうか。

 しばらく悩み、ピンとくる。


「メイスイさん、今の人間は妖狐のことを知らないと嘆いていましたよね」


「確かに言ったけど」


「動画に出てくれればその悩み、解決できるかもしれませんよ」


 メイスイがリリアの方を向く。

 どうやら興味を持ってくれたようだ。


「それ本当?」


「本当ですよ」


「嘘じゃないよね?」


「嘘じゃないですよ。だって、撮影した動画はたくさんの人に公開されるんです。つまり、多くの人がメイスイさんを見てくれるという事ですよ」


 メイスイが悩む顔をする。

 もう一押しかもしれない。


「動画に出ているメイスイさんがすごかったら、みんな妖狐を崇拝してくれるんじゃないかと思いますよ」


「……よし分かった!リリアの動画に僕も出てあげる」


「ありがとうございます!」


 なんとか、同意を得ることができた。

 いろいろ言ったが、別に嘘は言っていない。まあ、どれだけの人が自分の動画を見てくれるのかはわからないけど。


「さあ、明日の朝、街の外に言って早速撮りましょうか」


 リリアは笑顔でそう言った。





次の朝、リリアとメイスイはローディアの街の外に来ていた。

目の前には魔導撮影機が浮かんでおり、撮影の準備はもうできている。


「リリア、そのお面はなんなの?」


 ねこのお面をつけるリリアに向けてメイスイが言った。

 メイスイは街の外にいるという事で元の大きい状態になっている。


「これですか?これは身バレ防止のためのお面です。これでも元聖女なので顔はちょっと広いんです」


「別にばれてもいいじゃん」


「だめですよ。元聖女なのに何やってんだとか言われたら、今の聖女に迷惑かかるじゃないですか。それに知り合いに知られたらなんか恥ずかしいですし」


「だったら狐のお面とかもいいんじゃない。折角僕と動画撮るんだしさ」


「でもこれはこれでかわいくないですか?」


「確かにそうだけど」


 お面については実はリリアは意外と気に入っていた。

 始めこそ身バレ防止のためだけに付けたものであったが、何回か動画を撮るうちにこれが自分のアイデンティティのようになっていたのだ。


「まあ、いいや。早く動画を撮ろうよ」


「それじゃあ、始めますよ」


メイスイに促されたリリアが魔導撮影機を魔力で操って動画の撮影を開始する。


「みなさん、こんにちは。リアです。今日はみなさんに報告があります。なんと、私にも遂に仲間ができました!」


 リリアが拍手をする。


「という事で、早速紹介していきましょう。メイスイさんこちらへどうぞ」


 リリアが呼ぶと、メイスイが撮影範囲に入ってきて隣に座る。


「妖狐のメイスイさんです」


「えっと、妖狐のメイスイだよ。人間のみんなよろしくね」


 見えない何かに対してしゃべることに慣れていないためであろう。メイスイは少し戸惑っているようであった。


「すでにですね、もう一緒に依頼を受けたんですが、メイスイさんはとても強いんですよ」


「まあ、それほどでもないけどね」


 そう言われメイスイが得意げな顔をする。


「その依頼風景の動画は撮影できなかったんですけどこれから一緒の動画をあげていこうと思います。それに、今までできなかった討伐依頼や危険な場所に行く動画も撮れるかもしれないので楽しみにしていてくださいね」


「僕のことを知ってくれたらうれしいな。ついでに崇めてくれてもいいんだよ」


 あらかたしゃべりたいことは言えたから、短いが今回はこれでしめてしまってもいいだろう。


「という事で今回はこれくらいになります。見てくれてありがとうございました。では皆さんまたお会いしましょう!」


 そう言いリリアは手を振る。

 メイスイはそれを見て少し戸惑いながらも一緒に手を振ってくれた。

 撮影終了の操作をする。


「これで終わりですよ、メイスイさん」


 魔導撮影機を回収しながらリリアが言った。


「本当に今のやり取りがそこに入ってるの?」


 メイスイが不思議そうに魔導撮影機を見てくる。


「はい。後はこれをギルドに持ち込めばみんなが見れる状態になります」


「関わらないうちに人間は不思議なものを作ったものだね」


 メイスイが少し感心するように言った。

 昨日出会ったばかりで今までどういう風に暮らしていたかはあまり知らないのだが、どうやら人間とは離れた生活をしていたようだ。

 さあ、これで仲間報告の動画は撮影できた。

 昨日の時点でもう仲間になっているはずなのに、動画を撮っただけでさらにその実感が湧いてきた。


「改めて、メイスイさん。これからよろしくお願いしますね」


「なにリリア。それなら昨日も言ったじゃないか。まあ、こちらこそよろしくね」


 仲間にするときはどうしようか少し悩んだものの、今は仲間なって本当に良かったと思っている。

 その実感とともにリリアはローディアの街へと帰るのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る