第67話 ダンジョン破壊指令

 カムパネルラは言う。


 今まで、幽世の銀河鉄道はあくまでも幽世の存在だった。しかし、今日、この今晩……ダンジョンと化し、動き出したと。


 なんというタイミングだろう。


「ただSL銀河が動き出しただけ、という事ではなかったのですね……」

「なんかややこしいっつーか、でっけえ話になってきたな。で、結局どうなるんだこのダンジョンは」

「はい、それはですね」


 カムパネルラは言った。


「このまま行けば……現世と常世が、このSL銀河によって繋がってしまう事になるでしょう」

「な……っ!?」


 それはつまり。


 この世とあの世が繋がってしまうということか。

 そんなことになってしまったら……。


「間違いなく、大混乱ですね。大変な事になりますよこれは……」


 それは想像に難くない。

 となるとどうする?

 決まっている。阻止しないといけないだろう。


 しかし、だ。嫌な予感がする。


 ここはダンジョンだ。そしてこのダンジョンは現在、常世に向かって進んでいる。到達してしまえば、あの世と繋がる。


 それを阻止するにはどうする?

 決まっている。

 決まっているのだ。

 決まってしまっているのだ。


『おい出番だぞキチク』

『ヤるしか……ないんじゃね?』

『やったねキチク! 大義名分だよ!』

『二度ある事はなんとやら』

『三度目のナントカ』

『い……いくしかねえ……』

『何どういうこと?』

『ヒント:キチクは二回ダンジョン壊してる』

『あー……』


 コメントで煽ってくるリスナー達。


 ええそうですねわかります。


「修君……また壊すの? ダンジョンを」


 藤見沢が言ってくる。なんだその言い方は。


「壊したくて壊してるわけじゃねーよ!? 今までだって不可抗力だよ!」


 俺は叫んだ。

 最初の蛙禍洞ダンジョンはボスの巨大水虎を殴り飛ばしたらあいつが勝手にコアにぶつかって壊した。

 次の殺生石ダンジョンは偽玉藻がダンジョンコアを飲み込んでいたから奴を倒したら一緒に壊れた。

 不可抗力である。

 だけど……今回は、いや今回だってこの流れは明らかに不可抗力だ。


「んーと、じゃあ協会の人に聞いてみたらどうかな?」


 藤見沢が言う。

 しかし零時とっくにまわってんだけどな……。


 いや、前にそれで怒られたしな、ホウレンソウしっかりしろって。

 ……連絡するべきだろう。少なくとも連絡を入れた事実はあったほうがいい。


 俺は協会の東雲さんに電話を入れた。


『はい、もしもし』


 数回のコールの後、東雲さんは電話に出てくれた。


「……えっと、実はですね……」


 俺は事情を、現状を説明した。


 藤見沢が盛岡にあるSL銀河に興味を持ったこと。

 それを見に行ったら、夜にSL銀河が動いているという話があり、藤見沢がそれを見たいと予定を変更した事。

 それを目の当たりにして、そのまま乗り込んでしまったこと。

 そしたら幽霊が襲ってきて、スキルが使用でき、このSL銀河はダンジョンと化していたということ。

 そこに現れた幽体離脱者、カムパネルラとの話。

 SL銀河は現世と幽世と常世を渡る幽世の銀河鉄道と融合してしまい、このまま最後まで走るとこの世とあの世の道が直通してしまうということ。


 少しの無言。


 そして、電話の向こうで、なにやら缶を開ける音が聞こえた。ぷしゅう、と音がする。そしてぐびぐびぐび、という音。


 何か飲んでる?


『……ぷはぁ。えっとですね、実は私、今はお酒のんでべろんべろんなんですよ』


 東雲さんが言う。その割には口調は普通だった。


『それを踏まえた上で。あと私のこの発言、動画には映らないようにお願いします。生配信? じゃあ声が届かない場所で、返答にも十分に注意してください。

 いいですか、そのダンジョンはとても貴重で大切なものですね。ええ、死者の世界と線路で繋がる電車のダンジョン? それが完成してしまったら大変です。

 もしかして、死者を生き返らせることが可能かもしれない。そうでなくても、死んだ人たちと会える……それは素晴らしい人類の夢です、素晴らしいことですね!』


 ……そう言うわりには、歓迎している声では無かった。


『そして、そんな素晴らしいダンジョンです、各国の政府やら大金持ちや権力者が血まなこになって奪い合うのは容易に想像できます。

 また、こちらから求めなくても、あちらから……ソンビパニック映画のように死者たちが雪崩れ込んでくる展開も想像できますね。ええ』


 それは……たしかにそうだ。

 道が繋がると言う事は、そういうことなのだ。

 深淵を覗くものは深淵から見られている、という奴だ。

 一方通行という都合のいい話ではない・


『どちらにせよ、大変危険なダンジョンです。第一発見者があなたたちで本当に良かった。

 ええ、ホウレンソウは大切です。そしてそれは私もそう。こんな大切なダンジョン、私としては、協会の職員としては、上に報告しないといけないし、ダンジョンのクリアと確保を依頼しなければいけません。絶対に最優先です。

 だけど、私はさっきも言った通り! 酔っぱらってべろんべろんです。たぶんこのまま電話を切ったらそのまま朝までぐっすりです、起きて思い出して報告する頃には全てが終わってる事でしょう、きっと。

 だから酔っぱらった泥酔の頭で、言いますね。

 ――破壊してください、そのダンジョンを。

 責任は全て、上に報告をしなかった私がとります。酔っぱらって、ぶっ壊せー、と言った私が責任を取ります、だから……』


 東雲さんは、大きく息を吸い、はっきりと言った。


『……SL銀河ダンジョンのダンジョンコアを、破壊してください。は、あってはならないものです』

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