第四章 飛頭蛮とSL銀河ダンジョン

第61話 A級探索者たち

「本当にすみませんでしたああああああああああああッッッ!!!!」


 俺は土下座した。

 日狭女直伝の土下座だ。


「このたびはッ! 俺の偽物のクソ狐がみなさんに多大な迷惑をかけてしまい、心から謝罪いたしますッ!! 本当に申し訳ありませんでしたッ!!!!」


 地面に頭をたたきつけた。

 やりすぎ? 無関係な人たちを巻き込んで怖い思いをさせたんだ、時代が時代なら切腹、いや斬首ものだろう。



 今俺がいるのは東京である。


 あの事件の後、俺は事後処理や説明のために東京に連れて行かれた。

 学校? 休んだよ。出席日数はやばいわけではないけど、また先生たちに怒られるんだろうなあ。


 とにかくそうやって東京のダンジョン探索者協会に行ったら、この間の――俺の偽物、玉鋼がダンジョンで迷惑をかけた三人がいた。


 俺は平伏し土下座した。


 腐っても遠野の男、意味もなく簡単に下げる頭は持ち合わせていないが、自分自身が原因で迷惑をかけた相手にはとにかく謝罪と誠意を見せるのが人間として当たり前だろう本当に申し訳ありませんでした。


「そ、そんな……頭上げてよ、菊池くん」


 そう言ってくるのは、偽の俺が迷惑をかけた女の子だ。確か……


「すみません、藤木戸さん」


 藤木戸優花、だったか。

 超有名インフルエンサーのダンジョン配信者だ。


「藤見沢だよ!? 先月までクラスメートだったのに忘れないで!?」

「……え?」

「えっ」


 ……言われてみたら、見覚えがあった。

 そういやそうだったな。


「…………も、もちろん覚えてますよ、不死身沢優花さん」

「絶対忘れてる! 下の名前違うし、なんか名字も漢字にしたら別の文字になってそう!!」


 やってしまった。


 仕方ないじゃないか、東京の学校じゃ俺、ぼっちだったし。

 クラスメートが有名配信者だと知ってたからよけいに見ないようにしてたしさ。


「ぶ、ぶはははははは!!」


 それを見て、二人組の男性の片方が笑う。彼らも不死身沢……しゃない、藤見沢と同行していたダンジョン探索者だそうだ。しかもAランク。


「おい、笑いすぎですよ」

「いや、失敬、だってよ、超有名人のお嬢がよ、アウトオブ眼中な塩対応されててよ、ひー、腹いてえ」


 別に塩対応したつもりないんだけど。忘れてただけで。


「あー……ふう。まあそんなにかしこまるなよ。ありゃお前を騙った偽物が悪いし、実力不足だった俺たちも悪いし、イレギュラーが発生したっていう運も悪い。

 お前は悪くねえよ?

 むしろあのモンスターがお前を騙って悪評広めようと変態行為して徘徊してなかったら、俺たち死んでたかもしれねえ。

 そう考えると、だ。奴には感謝は全くしねえが、お前には感謝したっていいんだぜ?」


 そう言って笑ってくる。いい人だこの人。


「えーと……」

「東雲。東雲優斗しののめゆうとだ、よろしくなキチク」

「はい、あと菊池です。いや別にキチクでもいいですけど」

「東雲。彼のダンジョンネームは自ら名乗ったのではなく、ネットでつけられたミームのようなものです。失礼では?」

「ああ、俺らの東西ブラザーズみたいなもんかよ」

「兄弟ではないのではなはだ不本意ですけどね、それも。

 初めまして、僕は西園満月にしぞのみつき。よろしくお願いします、菊池くん」

「あ、はい。どうも」


 この人もまともっぽいぞ。

 ん? 東雲……。


「東雲って、もしかして」

「ああ、お前の担当の東雲西瓜の弟だよ、俺は」

「そ、そうなんでしたか……お姉さんにはいつも世話になっています」


 いや本当に。

 めちゃくちゃ怖いけど。


「怒らせるとめちゃくちゃ怖いけどな、姉貴は。俺地上でも鍛えてる方だけど、姉貴のアイアンクローで失神したぜ?」

「わかります」


 めちゃくちゃ痛かった。

 モンスターや妖怪殺せそうだあの握力。


「ははは……あれは確かにきついですね」


 西園さんが苦笑する。やられたことあるのか。


「まあしかし俺もあの配信見てたけどよ、マジ大変だったな」


 優斗さんが言う。


「ダンジョンとか下手にぶっ壊すと損害やべーからな。まあ登録百万の配信者なら金あるんだろうけど」

「金……?」

「年収数千万は行くって聞くぞ、広告収入とかスパチャでよ。いいよな、俺達は探索専門だからそーいうのないけどよ」

「え?」

「ん?」

「はい?」


 なんか話が食い違ってる気がする。

 ……ん?


「えっと……菊池くん、もしかして」

「収益化……してねえの?」

「……あっ」


 今更ながら気づいた。そういえばそういう制度あったわ!


「……忘れてました」

「アホかーーーーーー!!?」


 優斗さんと西園さんが叫んだ。


「なんでだよ!? 動画配信するのに一番大事なことだろ!?」

「い、いえ……その……最初零細チャンネルだったし、んでバズってからはなんか色々あってそれどころじゃなかったっていうか……

 すっかり忘れてました、はい」

「君は馬鹿ですか。いえ馬鹿なんですね。優斗より馬鹿な奴初めて見ましたよ。ああもう、とっとと申請してください」

「何だとこの野郎。いやそれはいいからとにかくやっとけ、もったいなさすぎるだろ!」

「え、えっと菊池くん。やり方わかんないなら教えてあげるから、ね?」


 三人から怒涛の勢いで言われた。

 うう、しかし全く反論できない。そうだよなあ、なんで忘れてたんだろう。

 しかし、この流れは不味い。完全に駄目な奴認定されてしまう。


 俺ははっきりと言う事にした。


「……お願いします」


 変に言い訳とか反論して、めんどくさい奴認定されるよりはいい。ただでさえやらかした後なのだ。

 ましてや彼らはAランク。Eランクの俺がいちいち文句言えるわけがない。先輩には従って然るべきなのだ。


 立場弱いなあ、俺。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る